第4話 新たな世界へ④
新たな世界へ④
「どうしたんですか、立花さん?君、ええと誰だっけ?なにがあったの?」
「何にもないです。この人が犬達を虐待してることを指摘したら逆ギレして、私を突き飛ばして殴ろうとしたんです。突き飛ばされた時、私が抱っこしてたこの子が床に叩きつけられたんです。そんな子を蹴ったんですよ!」
立花と呼ばれたブリーダーのじいさんと女の間に荒く息をしているトイプードルが横たわっていた。リーダーの男はトイプードルを抱き上げると近くにいた人に手招きしてバンの方に連れて行かせた。
「アンタ、部下の教育、どうなってんの?どういうつもりなんだ!」
「申し訳ありません。口が過ぎました。」
リーダーの男が頭を下げていると女の所属する団体の代表が走ってやって来た。立花に謝罪するとまだ気持ちの収まらない女の耳元でキツく言った。
「もめてどうすんの?アンタ、謝っといて!」
その言葉に女は目を丸くして代表を見た。
「アタシ、謝ることなんて何にもないです。」
一人で立ち上がると代表の手を振り払いサッサとバンのところへ行った。
気まずい雰囲気の中、犬達はブリーダーのじいさんを睨みつけて吠えた。団体の人達は興奮気味の犬達を宥めながら引き続き新しいケージに移していった。
蹴られたリルおばさんは一台のバンに連れてこられていた。そこにはメガネをかけた優しそうな女の人がいた。リルおばさんの災難を見ていた人から話を聞くと、その女の人はリルおばさんの体を触り、怪我の具合を診た。
「うん、あんな目にあったけど骨折とかは無さそうね。」
女の人がリルおばさんをケージに入れようとするとどこからきたのか白い猫が足元に来ていた。
女の人は優しくリルおばさんを抱き上げ、ケージに入れた。すると白猫もバンに飛び上がり、リルおばさんの体にピタリと寄り添っている。
女の人は驚きながらもリルおばさんの頭を優しく撫でて話しかけた。
「早くクリニックに行こうね。」
そして寄り添う白猫の頭も優しく撫でた。
「君はこの子のお友達?出発するまでこの子のそばにいていいよ。」
ニャアン。白猫は可愛らしい声で返事をした。女の人はニコニコして頷き、引き続き他の犬達をケージに入れ始めた。
「…リル、リル!」
名前を呼ばれたおばさんは薄く目を開けた。
「シロガネ?」
「アンタ、大丈夫なの?」
「うん、痛いけど大丈夫。」
大丈夫とは言いながら、リルは体を横たえたままだった。
「許さない。アンタをこんな目に合わせたアイツ。」
シロガネは目を見開き、鋭く尖った爪を立てた。今、まさに猫又に変化しようとしたその時、リルおばさんは悲しげな眼差しで訴えた。
「お願い…やめて。あの子のために…」
シロガネが金色に光る目でリルおばさんを見た。シロガネとリルおばさんの目が合った。
「…アンタって子は。もう…」
舌打ちするとシロガネはただの白猫に戻った。
先程リルおばさんに話しかけた女の人がふとリルおばさんのケージの方を振り返るとケージの中で白猫がリルおばさんの体を一生懸命に舐めてやっていた。
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