第3話 新たな世界へ③
新たな世界へ③
扉を開けて入って来たのはブリーダーのじいさん、この前やってきた若い男、そして男の後ろに何人もの男女がいた。犬達を見ると、若い男の後ろの男女からいくつもの小さな声が上がった。
「うわー可愛そう!」
「ヤバッ!くさ!」
「なにこれ、めっさ汚な!」
じいさんは後ろを振り向くと舌打ちをした。
「出来るだけ早く出しますんで、作業が終わるまで立ち会ってくださいね。」
この間の若い男はリーダーらしく、後ろの人達に指図を始めた。
小屋の中の排泄物で汚れたケージから一頭ずつ痩せた犬達が出され、清潔なケージへと移された。犬達を入れた新しいケージは次々と何台ものバンの中に積まれていった。
知らない人間達に驚いて騒ぐ犬も何頭かいたが、ミルクティー色のチワワは死んだような目で仲間の犬達が小屋から運び出されていくのを見ていた。つぎはリルおばさんの番。1人の若い女が汚れたケージからリルおばさんを出し、抱き上げた。
トイプードルのリルおばさんの手足、お腹は排泄物の一部が長らく付着して固まっており、そのために長い毛はガビガビに固まっていた。女はリルおばさんの様子に思わず、言葉を漏らした。
「可哀想に。こんなひどい虐待されてよく生きてたね。」
女は聞こえよがしに呟くとじいさんをチラリと睨みつけた。作業が始まってからずっと小声で揶揄されてきたブリーダーのじいさんはとうとう我慢出来なくなった。
「なんだお前ら!どいつもこいつもつまんねえ事言いやがって!」
女の腕を掴むと突き飛ばした。その拍子にリルおばさんの身体は女の腕から投げ出され、床に叩きつけられた。
ギャン!
リルおばさんは悲鳴を上げた。
「なんてことすんのよ!クソジジイ!」
「なんやと、この小娘が!」
ブリーダーのじいさんは女の腕を掴むと乱暴に手をふり上げた。
「離せよ。バカ!」
女はじいさんから逃れようともがくが、じいさんは腕を掴んだまま離さない。その姿に周りの人たちは作業の手を止め、慌てて駆けつけた。じいさんが腕を振り下ろさないように1人の若い男が後ろからじいさんを羽交い締めにした。
「はなせ、この野郎。黙っていればいい気になりやがって。犬畜生なんかこうすりゃいいんだよ!」
ブリーダーのじいさんは足元でクーン、クーンと痛がるリルおばさんを蹴り上げた。
「アンタ、なんて事すんだ!」
羽交い締めにした男がじいさんを後ろに引きずり、リルおばさんから離した。リルおばさんが床に叩きつけられ、蹴り上げられる様子を目の当たりに見た仲間の犬達は先程まで自分達がどうなるのか不安に怯えていたことも忘れて一斉に騒ぎ立てた。
「おばさん!おばさん!」
「やめて!おばさんに乱暴しないで!」
ミルクティー色のチワワも思わずケージに噛み付き、大きく揺らした。
「おばさんに何するの!お前なんて許さない!」
悲鳴に似た鳴き声が響き渡り、あたりは騒然となった。騒ぎを聞いたリーダーの男が羽交い締めにされたじいさんとじいさんを睨みつけたまま、こちらも仲間に肩を押さえられている女の間に割って入った。
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