第2話 新たな世界へ➁
新たな世界へ②
「アンタ、誰?」
怪しい白猫は牙を剥いたまま声の方を見た。
「この子は大丈夫。アタシの友達。名前は…無かったね。」
おばさんは苦笑いをした。シロガネはミルクティー色のチワワをジロリと睨みつけた。
「アタシはシロガネ。猫又よ。」
「ね、猫又?それ、なんですか?」
「猫は長生きするとね、猫又って妖怪になるんだよ。」
「そ、リルの言う通り。アタシぐらいになると人に取り憑いて殺すぐらい朝飯前なのさ。」
シロガネはフン、と鼻を鳴らした。
「に、人間を殺せるんですか?」
ミルクティー色のチワワは恐ろさと尊敬の入り混じった顔をしてあらためてシロガネを見た。
そして一つ深呼吸すると真面目な顔をして尋ねた。
「シロガネさん、犬も猫又になれますか?アタシ、あのじいさんをやっつけたい。」
「なあに、アンタもじいさんをやりたいの?でもね残念。犬は猫又にはなれないの。犬だから。でも犬叉にはなれる。」
「犬叉?猫又の犬バージョンですか?」
「まあ、そうね。持てる力はおんなじ。」
先程までの怒りの炎を鎮めて、シロガネは毛繕いを始めた。
「どうしたらなれますか?アタシなりたい。」
ミルクティー色のチワワはしっかりとシロガネを見つめた。
「犬又になるにはアタシみたいなエライ猫又の弟子になって人間を苦しめるの。たくさん苦しめたら猫又委員会の審議にかけられて、そこで了承されたら晴れて犬又。」
「ちょっと待って。本当に犬又になるつもり?お願いやめて。」
トイプードルのおばさんは焦ったような声をあげた。
「おばさん、なんで止めるの?おばさんだってじいさんにやられてたじゃない。」
ムッとしたミルクティー色のチワワにシロガネはため息をつきながらこたえた。
「リルはね、じいさんの孫のところに子どもが貰われていったの。だからじいさんを苦しめたら孫まで苦しむんじゃないか、自分の子も苦しむんじゃないかって思ってんの。バッカみたい。」
「そんな…」
「リルの名前は、じいさんの孫がリルの子供にリルって名付けたことに由来するの。それぐらいリルは、その子を気にしてんの。」
「ゴメンね。自分の子供のことばかり言って。アタシの子供達の中で貰われた先がわかっているのは、あの子だけなの。だからあの子だけでも確実に幸せになってもらいたいの。」
ミルクティー色のチワワもたくさん、子供を産んできた。どの子もかわいい。母としてリルの気持ちは痛いほどわかる。もうなにも言えなくなってしまった。3匹はもうお互いに視線を合わすこともなく黙りこくっていた。
どれだけ時間が経ったのか、気がつくとあたりが白みかけている。夜が明けて来た。
「今日、ここを離れるんだね?リルが嫌な事、アタシはしない。安心して。人間達に見つからないようアンタを見守る。」
「うん、ありがとう。最後にシロガネに会えて良かった。」
シロガネとリルは見つめ合った。
「誰か、来たみたい。たくさんの人間の声と足音が聞こえる。アタシ、行くね。最後に一度でいいからアンタに触れたかった。」
「アタシもよシロガネ。アンタはアタシの分も元気で長生きしてね。」
シロガネはリルを見て、そしてミルクティー色のチワワに一瞥をくれると窓の隙間から外へ飛び出して行った。
シロガネが小屋から体を滑り出したのと同時に小屋の扉が開いた。
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