第3話 再診と再戦

最近巻坂駅で事件が起こった。

なんでも黒い化け物に襲われたらしい。

それは別にどうでもいいのだ。

私は幽霊とかお化けとかを信じていない、そして見た事ないからだ。

問題は刀を持った女性に助けられた事…。

を持った。


これは立派な銃刀法違反である。


上は見間違いだからそんな聞き込みもしなくていいと言われているが万が一があってはいけない。


如何なる理由があっても一般人が刃物も持っているのは犯罪。


怪しい人がいたらすぐに捕まえようと

青山桃華は意気込んでいた。


──────────────

4/16午後5時。


「すみません。ちょっとお時間いいでしょうか?」


凛と麗華がポニーテールの警察官に呼び止められた。

どうやらここ巻坂駅で何か聞き込みをしているらしい。


「最近ここら辺で起こった事件について聞きたいのですが…。少しお時間頂けますか?」


警察手帳を見せながら聞いてくる。

その中には青山桃華と書いてあった。

凛と麗華は首を傾げる。そんな事件あったか?殺人や強盗はなかった筈だが…。


「夜中に刀を持った人がいたそうで…」


刀かぁ…。物騒だなぁ…。


「2人の女性だったらしいですよ。」


うーーーん。



完全に私達だーーーーーー。



「えっとぉ…それは…やばいねぇ…」


目をキョロキョロさせながら凛は心にも無い返事をした。


「お二人はここにお住みですか?それとも予定が?」


「いえ、この子が先週怪我したので巻坂病院に。私は付き添いです。」


警官の答えに麗華が返す。


「なるほど…。ではあまり事件の詳細とか分かりませんよね。失礼しました。」


あぶなかったー。やっと解放されたと会釈し、そそくさとその場を後にした。


「あなた、嘘が下手すぎませんか?」


「…嘘つきは泥棒の始まりと言うだろう?私は正直な人間でありたいんだよ。」


「嘘も方便とも言いますけどね。」


───────────────


午後9時。

そこまで大きな駅では無い巻坂駅は人気が少なく、街灯と青山だけが階段下に立っていた。


日が出ている間は事件についての聞き込みが出来たが、この時間帯になってくると補導や監視をしないといけない。


後1時間位でパトロールかぁ。

欠伸を噛み殺し駅前を見る。


その時だった。


駅に繋がる裏道からうぅ…と小さく唸る音が聞こえてきた。


この音はよく聞いた事がある。酔っ払いの断末魔やそこらだ。


えぇ…。この時間から呑んでる人がいるの…?

ここら辺には居酒屋ない筈だけどなぁ…。

と困惑しながらも音の方向に近づく。


酔っ払いを保護するのも警察の役目だ。


裏道に数歩歩いた所でまた音が聞こえる。


グルルル………。


ん?


何の音だろう?


お腹の音?いびき?いやもっと…。

なんかこう…。野生的な音がする。


そもそもどこにいるのか?

少なくとも今見える範囲に人はいない。


「あのー、大丈夫ですかー?」


という問いかけをした私は


「うぃ〜お姉ちゃん〜」


から始まる口説き文句か、泥酔してるので何も返事が返ってこない。

という反応を考えていた。


しかし返ってきたのは


グゥワルルルル!!!!


という常軌を逸した化け物の声だった。


そして暗闇に溶けていて分からなかったが裏道に近い街灯までがよってきたお陰でわかった。


2m位の…黒い液体の様なもので覆われた…巨人の…化け物。


青山はどうするかを考えていた。

私は今銃を持っている。


警察官職務執行法第7条で定められているのは正当防衛や緊急避難の要件がある場合だけ、人に向かって発砲できる。


これは人ではない…が発砲していいのか?

正当防衛なのか?


私も練習をした事があるがこんな本番で。しかもこの化け物に向かって?


私がおかしくなっているだけでこれが本物の人間である可能性だって捨てきれない。


何故こんな化け物が…。と考えた所で思い出した。


刀を持った女性。だけに囚われていたが、その女性が倒したのは黒い化け物…。


あぁ。これか。


青山はその場で座り込む。


どうしようもなく黒い物を見つめていた。

その目は焦点が合っておらず、絶望を見ていた。


黒い巨人がゆっくりと警官の方に向かう。



その時、白い閃光が黒い化け物の胴体を駆ける。


グォォォォォ!!


と叫び声をあげ化け物は胸の辺りを抑える。


はっと我に戻り、白い閃光が駆け抜けた方を見ると、黒髪のロングの女性が刀を持っていた。


「はぁ。まさか残党がいるとはねぇ。」


「念の為来ておいて正解でした。」


茶髪の女性がこっちに向かってくる。

気が抜けて何が何だか分からない私を見るなり


「こっちの安全は確保した。麗華よろしく。」


その言葉を聞き巨人の方に目をやると

すでに化け物の真上に黒髪の女性が飛んでいた。


れい  せん!!」


頭から股まで綺麗な一直線を描きながら刀が振り下ろされた。


断末魔を発する事なく、黒い物体は空気となり蒸発した様に消えていった。


───────────────

4/17


今日も私は仕事をする。しかし巻坂事件の聞き込みはもうしない。


化け物。あれは普通の人間が勝てるものではない、と昨日実感した。


そして助けてくれたお礼に刀の事について今後言及しない事も約束した。



私達警察でもどうする事もできない化け物は


あの少女達に任せるしかないのだ。

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