第11話 桜、幽霊に舞う

「おい!お前ら!」


主戦力の2人が倒れたのだ。これは立て直さないといけないと考えた紫乃が2人を持ち上げ、逃げようとする。


しかし、不思議な感覚が紫乃を襲った。


力が出ないのだ。どれだけ頑張っても2人を持ち上げる事ができない。


そんなはずはない。凛も麗華も大怪我を負っていたが紫乃は致命傷となる攻撃を受けていないのだ。


紫乃は即時に自分の回復薬を飲み干す。

体に薬が浸透しきったのを感じ、麗華を持ち上げ背負う。

しかし、凛も持ち上げようと向かった時、紫乃は麗華を背負ったまま倒れてしまった。


明らかにおかしい。


体力を全回復させたはずなのに何故人間1人も持つ事ができないのか。

これはもう誰かに力を吸われているとしか思えない。

と考え、倒れたまま少し顔をあげ大蛇を見る。


あいつにはもしかしたら力を吸収する能力があるのか…?と考えた所で意識が途切れた。



3人が倒れた後の威桜霊園は実に静かであった。

先程まで命を賭けた決戦をしてたとは思えない、だが本来霊園にあるべき静かさであった。


3人がダウンしたのを八岐大蛇も悟ったか、ゆっくり近づいてくる。

首は既に全て回復している。


幽霊少女達のすぐそばに来た時に異変が起こった。



凛の口から血が出ている。霊文字の反動で吐血したのだ。

その血が宙に舞う。黒い液体が八岐大蛇の大蛇を模った様に、血が宙に固まる。


やがてその血は二つの大きな赤い手となった。爪は金色。手首から先はないが黒を基調とし、金色の棘がついたブレスレットをつけている。


宙に浮いた二つの手が凛の刀をとると、血で上書きする様に刀を覆った。刃の部分が大きくなり血で覆ったとは思えない程金色に輝いている。


麗華は背中に亀裂が入った。その中から16本の黒く細い腕が生えてくる。


その中の一本を黒い腕が取ると、複製する様に他の手からも同じ様な刀を出し、握っていた。



八岐大蛇が炎を吐く。8本の首から吐き出された炎は凛の刀によって塞がれてしまった。


それならと一つの首が体当たりを仕掛けた。

が麗華の16本の刀によって首が粉々に斬り刻まれた。


そこからは早かった。凛の刀一振りで大蛇の首が飛ぶ。麗華の刀で首が一つずつ粉々になっていく。


遂に全て首が斬り落とされ大蛇が防御体勢に入る。

この状態になったら今の世界の技術力では傷一つつけられないだろう。


しかし。


凛の大きな刀が防御体勢を貫く。

大蛇が何もしていなかったように。

桃にナイフを突き刺す様に。

八岐大蛇を貫いた。


もしもまだ首があり口があれば絶叫していただろう。

しかし、その首も斬られた大蛇は身を震わせ、黒い液体になる事しかできなかった。


そしてまた沈黙が霊園に響き渡る。

いつか枯れた桜もまた咲き誇り、死者を司る場所として戻った。



──────────────


紫乃がゆっくり目を開ける。

蛍光灯…白い天井…。そして背中の感覚…これはベッドか。ここは病院か。

左から差し込んでくる日光に目を背け右に目をやると看護婦がせっせと何かしている。

体は動くか?

右の手を挙げる。が、それが精一杯だった。

それに気づいたのか看護婦が大丈夫ですか!?と声をかける。


そこからはあまり覚えていない。

ただ医者に言われた説明によると、


墓参りをした人から女性3人が倒れていると通報があったとのこと。

救急車や警察がきて私達を保護した事。

事件の可能性があるとして警察が捜査しているとのこと。

保護されて一日がたって今日は日曜日だという事。

そして、凛と麗華は重症の為別室にいる事…。


事件についてはどう話そうか…。

怪異なんていっても無視されるか精神病院にぶち込まれるかだ。

ならばくノ一団とスーパー爆雷団が抗争したことにしよう。そうしよう。


と考えた所で、ガラガラガラと病室のドアが開いた。


金髪ロングの高身長の女性。短髪の黒髪で眼鏡をかけた男性。

紫乃の親である。


「よっ。あんたかなり無茶したらしいね。大丈夫?」


「まぁ抗争か?お疲れ様だ。」


うん。抗争。抗争だったね。抗争。


「いやー僕がこんなに怪我した紫乃を見るのはいつぶりかな?なんたって中学位から喧嘩負けてないだろ??」


「そんな事もあるよー。あたしだって無敗とはいってないからさ。あんたも分かるだろ?」


そんな話をしながら2人は丸い腰掛けに座った。

私の両親もいわゆるヤンキーという感じなので、今の私の行動にすごく肯定的である。

いいのかこれで?

いいのかこれで。


「ん…あんたの見舞いとしてほれ、リンゴ持って来たよ。」


「僕も食べたいー」


「バッ…あんた今年いくつよ?家に帰ってからいくらでも食わせるから今は我慢しといて。」


いつもと変わらない会話を聞いて安堵する。

母がリンゴの皮を剥く様子を父がじっと見ている。

母のナイフ捌きは実に見事だなぁ…

私も刀を使ったら料理上手になるかな…

……あれ。


そういえば凛と麗華の刀はどうなったんだろう。

もしかして警察に回収されたか?

だとしたらさっきの時点で医者からなんか言われても良かったが…


「紫乃。ほら食べな。」


机に綺麗に剥かれ、切られたリンゴが置いてあった。

まあいいかと今まで考えた事を忘れリンゴを頬張る。


おいしい。回復薬を飲んだ時より、体が回復する気がする。


嬉しさの相乗効果でいい事を思い出した。


さっき私、怪異と幽霊少々と遊ぶようないい夢を見た気がする…!と。

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