第9話 その怪裂刀の中身は

美山霊園に行った翌々日。4月24日月曜日。


「凛…凛。起きて」


机に突っ伏して寝ていた凛を優しく麗華が起こす。


「麗華ぁ〜、ふわぁ〜。おはよう。」


「もう授業終わりましたよ。」


「うーん。まだ疲れが取れていないみたいだねぇ。」


凛が大きく伸びをし、肩を回して言う。


「おーい。凛、麗華いるか?」


違うクラスにいた紫乃が呼びにくる。


「では怪裂刀を取り次第、行きますか。」


と言うと三人は部室に寄ってから学校を出ていった。


───────────────

前日4月23日。


凛が回復して夜ご飯に牛肉を食べている時だった。


「…へぇ。じゃあ薬草をとるために柏木に。本当にありがとう。」


「まぁこの回復薬は今後も使えますので、取っておいて損はないかと。」


「おやおやぁ?そんなに照れ隠ししないでいいのにぃ?」


すでに食べ終わって寝転がった紫乃が口を開く。


「そういえばお前の…その…刀?真っ二つに折れたけど大丈夫なのかよ?」


「えぇ…これは仕方がありません。刀は横からの衝撃に弱いですから」


折れた柄と刃を両手で持つ。


「…というかなんで折れた刃を持ってきたんだ?なんだ日本刀ってのは折れても直せるもんなのか??」


紫乃が起き上がって麗華に問う。


「いいえ。折れた日本刀を接合する事は不可能です。」


「しかし対怪異である怪裂刀は別。接合できる方法があります。」


肉を食べる手が止まり、今度は凛が問う。


「へぇ…それはすごいねぇ。参考までに聞かせて欲しいのだが。」


麗華が刃を新聞紙に包みながら言う。


「私からは上手く説明する事ができないですが、彼ならしてくれるでしょう。」


───────────────


三人が向かったのは裏道にある怪しい雰囲気を醸し出している楽器屋だった。


「お…おいおいここであっているのかよ…?」


紫乃の言葉もお構いなしに麗華が入っていく。

チャリンチャリンとドアにつけてあった鈴が鳴る。その音を聞いてふくよかな体型の男が振り向かずに言う。


「いらっしゃい。」


そして巨漢の男は作業に戻っていった。

店の中には聞いた事がないジャズが流れている。楽器屋というよりバーの様な雰囲気だった。


「バンドレンのリードを直して欲しいのですが。」


店主が動きを止める。


「何の楽器だい?」


「トランペットです。」


ここで店主が振り向いた。


「久しぶりだな麗華。さ、奥の部屋へ」


吹奏楽を知っている方なら頭おかしくなる会話をした後、三人は店主に促されるまま奥の部屋に入っていった。


そこには赤いバンダナを目隠しのように巻いた20代後半くらいの男性が机を挟んで椅子にそって寝ていた。


まささん…久しぶりです。」


麗華の声にん?とバンダナを頭に巻き直した正が起きる。


「うぉ!麗華じゃ〜ん?久しぶり!どした?今日もメンテか?」


「あ…はい。でもその前に…これ…折れちゃって…」


麗華が机の上に折れた刀を置く。


「あちゃー派手にやっちったねぇ〜。でも大丈夫!どんな刀も正しく直す!それがこの俺、正だからなぁ!」


「私の刀のメンテナンスもお願いしたいのだが…。」


凛も正に刀を差し出す。


「おぉこっちも茶髪のかわいこちゃんじゃーん。もちろんだ!やってやんよ!」


と言い快く引き受けてくれた。


────────────

それから数十分は何かの液体を調合していた。


「正兄!刀って接合出来ないんだよな?」


紫乃はもう正兄と呼ぶ位仲が良くなったらしい。


「あぁ。俺もこの道数十年やったきたがやっぱ普通の刀は無理だな。

だがこの怪裂刀は今やってる手法を使えばできるんだぜ」


といって正は調合していた液体に白い粉を入れた。


「…今入れた粉はなんだい?」


凛が聴くと正はカッと目を開く。


「気になるよな!?俺も気になってさぁ友達に調べて貰ったんだわ。そしたら衝撃の事実…!」


三人が固唾を飲む。



「これ…人骨だってよ。」



えっ…と思わず凛が漏らしてしまう。


「しかも驚け?お前らが使っているその怪裂刀。刃の部分の材料。玉鋼たまはがねは勿論、こいつもまた人骨を使っているらしいぜ…。」


麗華も固まる。怪裂刀に人の骨を使っていた。

人の、骨。


「なんで…そんな素材が使われているんだ…?」


紫乃が制服のスカートを掴みながら問う。


「…俺もよぉ、色々考えたんだわ。んで二つの結論に辿り着いた。」


「一つは普通の素材じゃ怪異をぶっ斬れないって事じゃねぇかな。そこの金髪のお嬢もなんかしてもらったんだろうけど、怪異は何でも通り抜ける。ただ血の通った骨が材料なら攻撃が通るのも納得いくだろ?」


「もう一つは骨の性質だ。骨ってよぉ、骨折しても元に戻るだろ?んで骨みたいなノリで接合できんだよ、この怪裂刀。まぁ色々しないといけないけどな。」


「しかも、刃の材料が骨って…どんだけの骨を使ったかわかんねぇ。コストがかかりすぎる。なら接合しちゃった方が早いってもんよ。」


そんな話を聞いているうちに麗華の刃と柄が並べられて最終段階に入っていた。


「んよし、この間に…この液体を…入れて…よっしゃ!ラスト!ファイアー!!!!」


といってもガスバーナーで液体を炙り始めた。


すると折れていた所に液体がくっついていく。

そうしてどこが折れたか分からないほど綺麗に接合されていた。


その後凛の刀も手入れして貰った。


「よし!これでェ…大丈夫!完璧!」


「本当にありがとうございます。」


深々と頭を下げる三人に正は笑顔で返す。


「いいってことよ!お代はいつも通り世界の平和でよろしく!幽霊少女達!」


幽霊少女という言葉に麗華が反応する。


「え…幽霊少女って…」


「んえ?あの巻坂駅の事件。救ったのお前らじゃないん?」


そうですけど…と麗華が小さな声で言う。


「俺はアニオタNaNaのファンだぜ?何かあったら茨城に駆けつけてやんよ。」


どうやらアニメオタクのオタクだったらしい。

そして幽霊少女という名称も広まっているらしい。

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