第7話 天狗と鬼の血

兄の記憶。忘れていた兄の記憶を解放するには、どうしたらいいか。凛は自分の部屋を漁っていた。そして一枚の写真を見つけた。


「これは…」


そこには幼い頃の自分と右手に黒い手袋をした兄が写っていた。そしてその横には場所が書いてある。


その名を、「美山霊園」


──────────────


4/22土曜日午後18:00頃、心霊部はそこに来ていた。


「…はぁ街並みがよく見える。同じ東京でもこんな所があるんだなぁ」


標高は250m前後と低い山だが、東京を見下ろすには十分な高さだった。


「…それで…凛。何か思い出しましたか?」


「…こっちに何かがあるはず。」


向かった先には周りの木とよく合う木造の小屋が建てられてあった。


「ここは…兄の部屋…か?」


中に入り、探索する。それ程散らかってはないが、何ヶ月か放置したせいで蜘蛛の巣があったりいろんなもの埃まみれだ。


そこに日記の様なものがあった。


凛は日記を開いた。


11/10 ここらを支配している怪異を調べる為に美山霊園に来た。しばらくはここを拠点として研究する。


11/18 調べた結果やはり霊園には強い意志が宿るのか、比較的強い怪異が多い。気をつけなければ。


11/25 いくら強い怪異でも日本全体を支配する事は出来ないらしい。昨日までの九州捜査で理解した。


12/3 東京の霊園を調べて遂に奴の居場所を突き止めた。それは楽石霊園とここ美山霊園、そして赤原霊園を結んだ真ん中の霊園。その名を


威桜いざくら霊園。」


凛は思わず口に出してしまった。


12/10 今からここを出て、威桜霊園に行く。もしかしたら敗北するかも知れない。しかし私の意志を継ぐものが必ずいるはずだ。

その者の為にここに記録を残しておく。


弥気 いたる



記憶と一致した。確か私に霊文字が刻まれたのもこの時期だったはずだ。

そして今まで分からなかった兄の所在も分かった。

次は威桜霊園だ。他のも読もうと本を閉じようとした瞬間、麗華が引き止める。


「ちょっとまって。まだページがある。」


よく見ると真ん中ら辺に真っ黒なページがあった。

そこには赤い文字で書かれてあった。




4/22 弥鬼凛が美山霊園に訪れる。




「なっ…!なんだと…!」


辺りは暗くなっていた。

世界より少し暗くなる。これは怪異が現れる前兆である。そこでいつもなら怪異の声が聞こえてくるはずなのに、今回は違った。


ギャハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!


聞こえてくる笑い声、近くの山にこだましていた。


突然地面が揺れ始めた。

地震か!?と思ったがそれが地震でない事はすぐ分かった。


霊園が裂け始めたのだ。墓と墓の間を縫うように。

そして山が割れ渓谷になった。下は真っ暗闇だ。


「…これは降りてこいって事かい?」


「あっちが出てかねぇなら私達が行くまでよ」


そして三人は割れ目の中に飛び込んでいった。


──────────────


三人は下についた後周りを見回した。

山が割れたとはいえそこまで深くはなかったので奥まで見る事ができた。


「あれがここの主の…場所といった所ですね。」


そこには割れ目を覆い尽くす程の墓があった。


墓の底から黒い液体が出て形を成す。


赤い顔、特徴的な団扇、そして長い鼻、それは天狗だった。


天狗は団扇を振りかぶり、こちらに向かって仰ぐ。

視認できる黒い風が吹いてくる。それを剣士2人でなんなく防ぐ。その上を紫乃が飛び出していった。


「いつもお前らだけ技名言ってずるいなァ!!私も考えてきたから天狗ゥ!お前にぶつけるぜ!!」


牙撃がげき!!」


いや正確には紫乃は幽霊少女じゃないんだから技名を叫んでも変わんないねぇ!と突っ込もうか凛は迷ったが普通のパンチでも中々に効いていたのでやめておいた。


凛が追撃する為に走り出そうと瞬間。


「待って。様子がおかしい。」


麗華が凛を止めた。

天狗を、よく見ると紫乃の乱撃から守るように、手で頭を隠して蹲っており動かないが、同時に周りに漂う黒い何かを吸収している様にも見える。


周りの土から…?いや…ここは霊園…まさか死者の力を吸収している…!?だとしたら…!!


「紫乃!!危な」


ドガァン!!


衝撃音と共に紫乃が後ろの壁にぶつかる。


「ぐ…はぁ!」


壁に沿って地面に落ちたあと紫乃は気絶した。


さっきまでは150センチと私達とそう変わらない身長だったのに今は400と規格外の大きさになっている。心なしか体格も良くなっている。


「鬼の血がァ…また来たのかァ…」


天狗が喋る。鬼の血とは?また来たとは?と凛が考える間もなく天狗は低空飛行で突進してきた。

2人は不意を突かれた。天狗の戦闘スタイルは団扇による風の攻撃しかないと考えていたが、近距離戦に持ち込んでくるとは。


2人は防衛する。天狗の手足を使った連続攻撃に圧倒されながらも隙を見つけては攻撃するが団扇の風で吹き飛ばされてしまう。


天狗を突き放した所で麗華が提案する。


「このままでは埒があかない。私達は防戦一方…いつか天狗の養分にされます。もうこれしかありません。

凛。零文字を使います。」


「私は初だが…やってみよう。」


そうして2人は黒の手袋を脱ぎ捨てた。


凛には「殺」の文字が

麗華には「死」の文字が


白い肌とは対照的に黒い文字で刻まれている。


瞬間、黒い文字が赤く染まる。それに呼応するかのように血流が早くなるのを凛は感じた。


2人の幽霊少女を黒いオーラが包む。


天狗が突進してきたが、2人には止まっているように見えた。


素早く後ろに回り込み足や腕の四肢に斬撃を喰らわす。


断末魔が聞こえるより前に2人は終わらせることにした。


れい   せん!!」


ギャァァァァァァァァァァ!!!


天狗は黒い液体となって地面に潜り込んでいった。


「終わった…。」


その場に座り込んだ麗華が零文字を発動させるのは何年ぶりだろう。と考えていると横で人が倒れる音がした。


「…凛!!」


凛は地面と激突する形で倒れていた。

完全に気絶している。


「……いでぇ…すまない、気絶しちまってた…天狗は…倒した…ようだな。」


麗華が振り向くと目も虚ろな紫乃が血を流した状態でなんとか立っている。


「とにかくここから脱出しましょう。恐らく…ここは天狗の墓を隠す為に閉じるでしょう。」


そうして2人はなんとか山の崖から脱出した。

そして気絶した凜を介護するために麗華の家に行くことにした。

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