第6話 泡沫の記憶

「腕が完治しました〜拍手!!」


パチパチパチパチ。心霊部で凛が1人祝っていた。


「結局なんだったんですか?」


「ただの骨折だねぇ。」


骨折という言葉に紫乃が顔をしかめる。


「本当に完治したのか?私も骨折をした事があるが一ヶ月は固定してたぞ。そんな2週間やそこらで治るもんじゃないだろ」


「まぁ私達は戦闘特化してるからねぇ。

なんたって『幽霊少女』、らしいし。」


「まーだそれ言ってるんですか。」


そんな話をしていると凛がさて、と言う感じに話を切り替えた。


「メンバーも揃ったし、私は完治したから例の所に行こうか。」


「遂に行くんですね…九柱霊園。」


2人が神妙な顔つきになる。

それを察して紫乃が聞く。


「おい…その九柱霊園ってのはどんなのが出るんだ?」


「…そこには無尽蔵に怪異が湧いて来ます。問題はそれの主となる怪異が2体いるのです。」


「つまり主と相対するのが2人、他の怪異の処理に1人、最低3人必要だったという訳だ。最近…その霊園で被害が出てるとの噂も聞く。」


夕焼けと沈黙が照らす教室で、3人は話している。


「そしてそこを制圧するのが、今日ってわけかよ」


紫乃は闘争を覚悟したのか体に力が入る。


「これは私も戦闘服を着ていく必要があるな…。」


─────────────

九柱霊園に来た紫乃はてっきりくノ一らしく忍者の様な格好をするのかと思っていたが、サラシを巻きスカート。上にくノ一と虎が書かれた特攻服をきていた。


「随分と派手な衣装で着たねぇ。」


「お前らにだけはいわれたくねぇ」


2人の衣装も大概だった。


「そろそろ来るようですよ。」


麗華が言った瞬間、あちこちから怪異の呻き声が聞こえてきた。


「じゃあいくぞ!お前らは主を頼む!こっちは任せろい!」


「「了解!」」


───────────

グォォワァァァァァァァ!


公園とも呼べる広場の真ん中に着いた時、そいつらは姿をあらわした。

片方は地面から猿の頭を出しており、もう片方は地面から蛇の頭を出している。


「蛇は任せた。猿は私がやる!」


猿に凛が向かい、蛇に麗華が向かう。



猿は離れれば口から火を噴き出し、近づこうとすると噛みついてくる。


「そんな攻撃効かないねぇ!喰らえ!」


双火炎零刃そうかえんれいじん!!」


2本の刃が猿に刺さる。

ギャアァァァァィァァァ!!と黒板を爪で引っ掻いたようような叫び声が響き渡る。



蛇は霧を吐き出してくる。視界を奪わせるがそのくせ自分は熱探知能力を持っているので、確実に仕留めてくる。


「視力等私には不要。敵が、その事実だけが重要です。

消えなさい。」


糸閃静命界しせんせいめいかい。」


蛇が斬り裂かれる。シャァァァァァァと天を仰ぎながら叫んだ。


これで終わったかと思ったその時、2つの怪異を持ち上げる様に地面が浮き出てきた。

いやそれは地面ではなくとてつもなく大きい体だった。


その正体は二つの怪異ではなく、一つの怪異そしてそれは妖怪で出てくる鵺のようであった。


2人はその狸の胴体や虎の手足を攻撃したが、傷一つつける事ができなかった。


「うわぁこれは厄介だねぇ。虎と蛇どっちにも脳があるからどっちかの首を落としても再生するだろうねぇ。」


「同時に狙う事も出来ますが…それだと完璧にタイミングを合わせないといけない。第一固い。リスクが高すぎます。ならば狙うは心臓…!

こっちに合わせて下さい!」


2人は鵺の攻撃を掻い潜り胸の部分に飛び込んだ。そして



「「れい せん !!!」」



ズバシャアァ!!


2人の斬撃が見事に心臓に入る。


オ……ニ…イジャ…ァ…ア……


と言葉のような呻き声を上げながら溶けて消滅していった。


「…今、お兄ちゃんと聞こえなかったかい?」


「そうですかね。私にはただの呻き声としか。」


もしかしたら鵺はあの体一つで兄弟だったのかもしれない。

兄弟か…と凛は心の中で呟いた。


────────────

「で、なんですか。話って。」


次の日の朝8:00、まだ誰も来ていない1-4で話をした。机に座った凛が語る。


「私達が戦った鵺、兄弟だっただろう?」


「…それがどうしたんですか。」


「前から少しだけ思ってたんだが、昨日の戦いで少しだけ思い出した…。」



「私には兄がいたはずだ。」



少しの沈黙の後、紫乃が問う。


「…なんで、そう思ったんだ。」


「私は麗華と会った日の戦闘、私はあの時に怪我をした。別に怪異にやられた訳ではない。ただただ着地を失敗しただけだ。」


「こんな事があるか?普通。ないだろう。麗華ならこんな失敗をしないだろう。そうの話だがね」


麗華が目だけで凛に語りかけてくる。


「ならあなたは途中から怪異を狩る役についたと?」


「恐らく。対処をし始めたのも最近だし、もしかしたら麗華と最初に会った戦闘が初めてだった場合も多いにある。」


「決定的なのがここに書かれた霊文字だ。」


右手の甲を指しながら言う。


「私はこれを発動させた覚えはないし、そもそもこんな手袋をつけてた記憶がない。」


「ずっと思ってたんだけどよぉ。お前らのその黒い手袋はなんだ、そして霊文字ってなんだ?」


椅子に座る紫乃が2人の右手を交互に見ながら言う。


「霊文字は家系に1人しか使えない呪いのようなものです。手袋はそれを抑える為につけています。

そして霊文字は長男か長女かそれ以外の男性に付与されます。しかし今あなたに付与されているってことは…」


「あぁ恐らく」



「兄は怪異に取り込まれている。」

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