第3話 点滴と飛行機
ここへ来て2日目。まだカレルに飛行任務は言い渡されていなかった。
第66飛行隊は夜間任務を担当する。そこのパイロットならばまだ寝ていなければいけない時間に基地をうろついていたカレルは、補給担当の男たちに声を掛けられたのであった。
「66部隊のパイロット、初めて見たぜ」
「お前、ウソついてねえだろうな」
「そんなことない……まだここに赴任して2日目なんだ。まだ任務に出る調整が終わってないだけさ」
カレルが苦しげに言うと、男らは
「そうか。じゃ、ほかのパイロットによろしく言っといてくれ」
と、笑いながら去っていった。
確かに、昨日の黒髪の隊長と、白髪の“ドク”以外には会っていない。しかし、昨日の晩、たしかに黒い機体は6機動いていたのだ。
日が暮れつつ、赤い陽光が窓辺に差し込む頃になった。
カレルは自分の部屋へ行く途中、別の部屋のドアが少し開いているのを見つけた。ふと床に目線を落とすと、ドアの隙間から手が生えている。
カレルは一瞬小さく呻いて、呼吸を整えるとそのドアを静かに開けた。人が倒れている。
猫毛の金髪が木の床を掃き、夕日できらきらしていた。
すぐさま神父を呼びにいくと、彼は
「きみの斜向かいの部屋だね?」
と言い、部屋へ来て倒れていた男を引き起こし、ベッドに乗せる。点滴の太い針を彼の腕にぷちと刺した。
「流れが鮮やかでしたね」
「彼は病弱ですぐ倒れる。正規の部隊は無理だったんだ」
「見つけてくれてありがとう」
その日の晩、そこそこ回復した猫毛の彼は自分の足で立ってカレルに礼を言いに来たのであった。
「いえ、当然のことです」
「僕はルート。きみ、その目どうしたの?」
「戦闘で怪我をしてしまって」
「ふうん、それでここに来たんだ」
「いえ、理由は違うんですが……」
その後カレルはルートの部屋に招かれて、身の上話なんかをして過ごした。
ルートは小さい頃から虚弱で、家や病院に篭りっぱなしだったという。ある日入院中に窓から見た飛行機に憧れて、脱走し、飛行士になってここへ流れ着いた。
「その、病院の窓から見た飛行機はね、鼻先が黄色くてプロペラがキラキラ輝いて、とても美しかったんだ」
その時の情景を思い出しているように、ルートは目を瞑って語る。
白いベッド、白いシーツ。傍に木のサイド・ボードが置かれて、赤い花の挿された小さな花瓶が乗っている。
「ああこれ?近くの川岸にたくさん生えている花だよ」
奇妙な形の花だ。カレルは植物に詳しい人間ではない。
「僕らは毎回、川を越えるんだ。カレルも出撃したら、上から赤いのが見えるよ。」
きっとルートも同じだった。
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