第14話
14
「さて、早速特訓だ」
魔力の感覚を掴む。
全てはそれからだ
とりあえず、体の内側に意識を向けて、教えられた感覚がないか探してみよう。
きっとあまりに自然な事で、意識しないと気づけないとかそんな感じに違いない。
目を瞑って、呼吸を落ち着けて……って、手をニギニギする感触。
「エリス、手を放してくれる?」
「?」
いや、またキョトン顔。
無表情なのに読み取れる僕もすごいな。
「手を握られてると集中できないから」
「?」
わからないかあ。
きっとエリス的には手を握ってもらえると安心できるんだろうなあ。
だから、僕をリラックスさせてくれようとしている、と。
優しい子だね。
まあ、僕は普通にちょっとだけ緊張しちゃうんだけどね!
相手は幼女とはいえ今は同年代。
異性と手を繋いでいるという事実だけで手に汗をかいてしまいそう。
とはいえ、振りほどく度胸もないんだよなあ。
すがるような雰囲気もあってかわいそう。
「ま、いいか」
いずれは僕も冒険者になって魔法を極める身。
これぐらいで動揺して魔法を使えないなんて言ってられない。
平常心の特訓だと思おう。
目を閉じて、内側に意識を集中。
イメージは鼓動と脈拍と血流。
胸から、右腕、右足、左足、左腕、頭、胸――何かが巡る感覚を探す。
どれぐらいそうしていただろうか。
まるで魔力は感じられないままの中、不意に引っ張られる感覚に目を開く。
「………」
「エリス?」
なんか、握った僕の手を胸に抱きしめているんですけど……。
上目遣い、凶悪じゃないですか?
そんなに僕をドキドキさせたいの?
ふふっ。まったく、僕を誘惑しようだなんて――大成功だよ!
クール系メスガキとか、新しいなあっ!
「ええっと、エリスさーん。さすがにこの体勢は問題なんじゃないかなあ」
主に僕の心の平穏的に。
院長に見られたらまた誤解されそうで怖すぎる。
「うん」
認めてくれたなら手を放してほしいんだけど……。
がっちりホールドしたままだ。
あー、これも僕を落ちつかせようとしてくれている、のかな?
母親が子供を抱きしめるように?
人の鼓動を感じ取って、落ち着くって本能的にわかっているんだったらすごいな。
どう説得するか悩んでもなかなかアイデアは浮かばない。
くっ。人生経験が足りない!
夕暮れが近づいて薄暗くなった小屋の中、エリスの胸元が差し込んだ夕日に照らされて赤く輝いているようだ。
幼女相手に言う事じゃないかもだけど、綺麗な姿だった。
大人になったら本気で周りが放っとかないだろうなあ。
人と距離を取るところも孤高の気高さに見えそう。
責任重大だ。
それまで僕がこの子を支えてあげないと、取り返しのつかない事になりそうな予感がある。
そのためにも主導権は握っておきたいけど、エリスが何を考えているのかわからなくて振り回されてばかりだ。
「うん」
「うんじゃなくて、もう少しお互いの――」
理解を進めようと言いかけて、止まる。
「なんだ、これ?」
突然。
本当に突然だった。
体の内側に、ナニカがある?
最初は鼓動だと思った。
強く、深い、心臓の高鳴り。
でもそれは、呼吸のように広がり、集まり、また広がる。
全身を満たして、胸とヘソの間に戻って、体を巡っていた。
鼓動と呼吸を合わせたような不思議な感覚。
ほのかな熱の波。
押し寄せ、引き返す。
頭のてっぺんから、手足の先まで。
もしかして、これが魔力?
いきなり、どうして?
エリスの事を考えていただけだよ。
いや、それが良かったのか?
意識しすぎていたせいで見えなかった、みたいな。
あまりに突然すぎて喜ぶタイミングがなかった。
けど、これはそれだけじゃない。
今までどうしてこれがわからなかったのか、そう思ってしまう程の存在感。
そのあまりの強さに体を起こしているのだって辛い。
エリスが手を握ってくれていなかったら今頃ぶっ倒れていたかもしれない。
「え、りす?」
「うん」
声は出せる。耳も聞こえる。目も見えている。指を絡めた感触もあるし、きっと味覚だって正常だ。
ただ、そこに全く新しい感覚が加わって、わけがわからなかった。
いきなり手や足が一本増えたとでも言えば伝わるか?
そんな大きすぎる違いがあるのに、そんな違和感が気持ち悪く思えないのが逆に気持ち悪かった。
「ごめん。なんか、へんな、感じで」
「うん」
引き寄せられる。
エリスの肩にあごを乗せて、腕が背中に回されて、少しだけ感覚が追いついた気がした。
情けない。
支えるつもりが、逆じゃん。
けど、今はみっともないと考えていられない。
「いいよ」
理由も聞かずに全肯定。
この子、やっぱり魔性の素質あるんじゃない?
ドロドロに甘やかして依存させてしまいそう。
「ってバカな事ばかり考えて……いいのか?」
これ、魔力ことを意識しない方がいい。
本能は魔力の感覚を受け入れているのに、理性が受け付けないのが今の混乱の原因と見た。
なら、考えなければ混乱も起きない、と。
「難しい、な」
「?」
「魔力を、考えると、変な、感じ」
「そう」
ぎゅうっと強く抱きしめられる。
これ、励ましてくれているのかな?
ははは。
まあ、気持ちだけは受け取っておこう。
実際、そっちに意識が向くだけ楽になっているし。
試しに僕からもエリスを抱きしめてみる。
子供の高い体温と、固くて柔らかい体の感触。
五日前よりは体に肉がついたような気がするけど、そうだったらいいなって思っているだけかな。
それにしてもポカポカして気持ちいい。
さっきお昼寝してなかったら寝落ちしちゃいそう。
さて、問題はそろそろ夕食の時間。
それまでに僕は立てるようになるのだろうか?
これ以上、院長に心配させたくないんだけどなあ。
そんな心配をしていたけど、すぐに無駄になってしまった。
「カイト!」
外から声が聞こえ、直後に蹴破るような勢いで院長が飛び込んできたから。
「何があった――!」
必死の顔が固まる。
あ、なんかこのパターン、知ってる。
密着といっていいぐらいの近さで抱きしめ合う僕たちに院長は絶句するのだった。
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