第6話

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 まず、刻印。

 これは今のところ二十個がある。

 今のところっていうのがポイント。

 刻印はこれからも増えると思われている。


 そもそも刻印というのは天塔からのギフトだ。

 天塔の中はいわゆるダンジョンになっていて、各階層を攻略するとそのパーティにはギフトが与えられる。


 それは武器だったり、防具だったり、あるいは便利な魔導具だったりする。

 それは知識だったり、家畜だったり、あるいは特殊な作物だったりする。

 それは土地だったり、街道だったり、あるいは魔法の力だったりする。


 天塔攻略の報酬でこの王国は成り立っている。

 建国から、発展まで、全てだ。


「源刻かぁ」


 この魔法の力というのが源刻。

 体に直接宿った源刻は魔力を受けると、奇跡の力を発揮する。

 初代国王は天塔の一階で【水】の源刻を手に入れ、王国に水の恵みを与えたという。

 その水量は膨大で、天塔を囲う湖を生み出し、維持し続けているのもその力なのだとか。

 実際、この王国では水不足に陥った事は一度もないのだとか。


「ほしいなあ」


 それさえあれば魔法が使えるようになるのだ。

 源刻の事を知った時は体の隅々まで探した。

 トットに頼んで、背中まで見てもらった。

 まあ、なかったんだけど。


「でも、こればかりは運だもんなあ」


 源刻を手に入れる方法は三つ。


 一つ、天塔の新階層を攻略した報酬。

 一つ、前の持ち主から双方の同意のもと継承。

 一つ、継承者不在のまま持ち主が亡くなった時のランダム継承。


 この中で僕に可能性があるのは最後のランダムぐらいだ。

 でも、二十人の源刻所持者の内、継承者が判明していないのは片手で足りる程なのだから確率は宝くじで一等が当たるよりも低い。


「ないものねだりするぐらいなら、現実的に考えないとね」


 口を開けて待っていても空から餌は降ってこないのだ。


 源刻を真似たのが刻印魔法。

 源刻の劣化版ではあるけど、こちらは安定しているのがメリット。

 前者は持ち主の精神力で無制限に近い力を発揮するのに対して、後者は込めた魔力に比例して強化されるものの限界あり。

 百階層が最前線となった天塔のダンジョンを攻略するには、今となってはなくてはならない力になっている。

 冒険者なら誰もが持つ必須の技術。


「なのに、なんで僕には魔力がわからない?」


 あー、集中できてないな。

 目を開けて、溜息をひとつ。

 空を指でなぞるのは三つの刻印。

 魔力がないままだと意味がないけど、何度も繰り返している間に癖になってきた。


 冒険者なら誰もが持つ。

 得意、不得意はあっても例外はない。

 だったら僕にだって使えないわけがない。

 なのに、使えないのは何故か?


「年齢?」


 なくはない。

 十歳になったら目覚めるとか、儀式を受けるとか、そんな覚醒イベントがあるのかもしれない。

 けど、それなら院長は『十歳になったらな』と言うだろう。

 あの人、嘘つけないし。


「やっぱり鍛え方?」


 違う気がする。

 時間が掛かるなら子供がやらかす心配もないのだ。

 あの院長なら率直に体を鍛えろとか言いそう。


 これはアプローチが違う気がする。

 個人の努力でどうこうなるわけじゃない?

 誰かの協力が必要?

 冒険者になる時、刻印を使うためのアイテムをもらえるとか?

 そうであってほしい。

 そうでなければ……。


「……まさか、僕だけ魔力がなかったり」


 言葉に出すと背筋が凍った。

 これまでも何度か考えたけど、頭を振って追い出していた。


「ないない。ないないない。誰でも使えるんだ。僕だけ例外なんて、それこそ例外中の例外なんて――」


 ないと、言えるだろうか。

 僕は転生者だ。

 普通ではない。

 可能性はある。


 魔力がないなんてなったら夢が遥か遠のいてしまう。


「嘘だろ。魔力がないとかまずいじゃん」


 夢に本気になろうとしたらこれか?

 決めつけるには早すぎる。

 仮にそうだったとしても、それがどうした。

 夢が断たれたわけではない。


「いや、ううん。まだだ。まだあわてるような時間じゃない。魔力がないなら用意すればいいんだ。魔石とか、そんな感じの何か、あるよな?」

「ある」

「よし! なら、最悪はそれだ! うんうん。そもそも魔力がないかもしれないってのも可能性だけ! きっと僕にだって魔力はある!」

「ある」

「よしよしよし! なら、院長以外の人に魔力の集め方を聞けばいい。アドル父さんも教えてくれないけど、他の冒険者なら教えてくれるかもしれない」


 って、今度は相槌してくれないの?


「………」

「………」


 ……いや、さっきから誰の相槌?


 焦りが治まって気付く。

 この秘密の隠れ家にもう一人、いる?

 僕が入ってきた時、誰もいなかったはずなのに?


 おそるおそる見回すと、積まれた荷物の棚の奥に人影があった。

 小さい、僕と同じぐらいの子供。


 細い手足。

 ワンピースというよりは布の袋みたいな貫頭衣。

 深く濃い黒髪は長くて、前髪の隙間からジッと僕の事を見つめていた。


「――!?」


 股の辺りがヒュンとなった。


 お、おばけぇー!?

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