リッカと第四大都市
魔女と宿屋 上
第四大都市についた当日から、この都市にいる間は、お世話になるミモザの宿屋の手伝いをすることになった。
ほかにも仕事はあるだろうけれど、図書番という役目は有名でも、十四の私に仕事を任せる人は多くないだろう。
支援者として里にも知られているミモザは信頼のおける人だし、少々図書番に対しての感情がおかしいだけで、そのほかには何の不満もない。
ミモザにはリッカという名前と、里を出てすぐであることだけは伝えているけれど、それ以外の事情は何も話していない。本来は次の春に卒業するはずだということも伏せている。卒業後も普通ならばさらに一年程度里を出ず、見習いや書庫の臨時担当として働くので、数ヶ月ではなく、一年以上も里を出るのが早すぎるからだ。
「まずは、私の宿を紹介するわね。」
ミモザの家から、隣の建物に移動する。緑の屋根のかわいらしい、五階建ての建物。そのうち、一階が靴屋で、二階以上が宿屋だ。
一階の靴屋もミモザの店で、結構手広く商売をしているらしい。一階の靴屋は趣味みたいなもので、売るというよりはコレクションを見せているのだという。今日来たばかりなので、本当かどうかはわからない。
二階は宿の受付があり、簡単なキッチンとテーブルがある。宿代さえ払えば、豆のスープが皿に一杯無料でつくそうだ。だが、有料でメニューが増えるわけではなく、ほかに食べたい場合は自前で用意しなければならない。飲食店をやっているわけではないからだというが、おそらく食材の調達が十分にできる保証がないからだろう。
「リッカちゃんは私の家に用意してあるので、そちらで食べて頂戴ね。」
図書番ちゃんはあんまり食事にこだわらない子が多いのよね、と寂しそうに言う。ミモザをみれば、食べることが人生の楽しみなのはよくわかる。
「お料理はどうかしら?」
「どう、とは?」
「やだわ、お料理は好き?」
残念ながら、ミモザの言う『あんまり食事にこだわらない子』である私は、期待に応えられそうにない。
「いえ、一種類しか作れないです。」
いつだったか、ニナと食べたあの混ぜパンだけしか作れない。混ぜパンはトウモロコシの粉と有り合わせの野菜や肉などを塩味で焼くだけのもので、火加減さえ失敗しなければいい。家にはあまり多くの食材はなかったし、普段の食事はそれと何かのスープだけだった。
「あら。それは得意ではないだけで、好きではない、わけではないのでしょ?」
特に深い意味はないのだろうけれど、無邪気な彼女の返しに、否定する言葉が出てこない。
「だったら、どうせ同じものしか作らないのだから、お料理が嫌いじゃなければお任せしたいの。」
結局は仕事だと割り切って、引き受けることになった。
三階から上は客の借りる部屋で、各階に四室ずつ、全部で十二室あるそうだ。
普段は半分も埋まらないが、完全に空室になることもないという。
「部屋の掃除はもともとここで雇っている子がやってくれるんだけど、忙しい時は手伝ってあげてね。」
「もちろんです。その方はどこに?」
「多分、空き部屋の掃除じゃないかしら。」
そう言って見回した時、後ろのドアが開いた。
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