彼女の旅立ち 6
テントが並ぶ大通りは、手続きのための場所でもあるようだ。テントの中にはテーブルが配置され、その奥に商人や役人がいるようだ。仮説の商店や役所のようなものなのだろう。門の近くにいる武装した面々は、武器を預けたり、何かの証書を受け取ったりしている。
自分が預かった荷物はどこで渡せばいいのかリーダーに聞くと、大きな獲物は倉庫で清算をするので、倉庫までついてきてほしいと言われた。
ここで受け渡してしまうと、荷物の持ち運びが大変だからだろう。了承し、ほかの自警団の面々が荷車を押すのを手伝いながら追いかけた。
倉庫は門からほど近い場所にあった。先ほどの地点から、五分も歩いてはいない。
外から見ればただの巨大な箱のような建物だが、冷蔵設備があるという。それこそ一万冊の本が保管される書庫よりも大きな倉庫には、保存食の入った箱が何百個も、何千個も、積み上げてあった。
持ち帰った肉も加工して保存食にするという。まだ工場が稼働しているから、味付け肉の缶詰などになるのかもしれない。これほどの建物や工場は、電力にも燃料にも余裕はない時代では作ることができないだろう。
自分の預かった骨や牙を作業台に並べていくと、役人は驚いて声を上げた。
「本以外も入るんですね。」
図書番の荷袋を見て驚いたのではなく、本以外が出てきたせいだったようだ。本は確かに重くて運ぶのが大変だけど、せっかくの素晴らしい荷袋に本以外を入れないなんて考えられない。
「食料やテントはかさばるから、もちろん本以外も入れますよ。」
そうじゃない、という顔をされたけれど、返事の何が間違いだったかわからない。
骨と牙を出し終えても不思議そうに見ているので、干し肉を出し入れして見せてあげた。
満足した役人が戦利品を数えている間、自警団のメンバーに、この後の予定を聞かれた。
「ここには少なくともひとりは図書番が常駐しているはずなので、その人を探す予定です。」
無計画に思えたのか、非常に不安そうな顔でこちらを見てきた。少し考えてから、彼はリーダーを呼んで何か耳打ちし、リーダーがほかのメンバーに話をして、それを聞いて戻ってきた。
「荷物を運んでくれたんだから、君にもちょっとだけ報酬を分けることにした。」
共有資産をやり取りする里の暮らしとは、良くも悪くも違う。ここでは金銭が必要だ。とはいえ、食べたいだけ食べてその礼に運んだだけなのに、運んだ謝礼を受け取るのではおかしい。
「お詫びに運んだのに、受け取れません。」
いろいろあって本来の時期よりは一年以上早い旅立ちになったが、身ひとつで放り出されたわけではない。装備も物資もほかの図書番と同じものを用意してもらえたし、里の外の図書番が積み立ててくれた資金から当座の路銀も貰っている。
「じゃあ、第四大都市に初めて来た君に、おっちゃんたちからのご褒美、お祝い?いや、お小遣いと思ってくれたらいいから。」
そのくらいの金額だから気にするな、と言われ、小さな貨幣を握らせてくれた。
「昼飯代くらいにはなるだろう。」
清算には時間がかかるから、自分たちはまだ残るけれど行っていいと言われる。お金までもらっておいて残して出るのは気が引けるけれど、何もできることはない。むしろ、興味本位でうろちょろしては邪魔になるだろう。
礼を言って、倉庫を出た。
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