彼女の旅立ち 5

第四大都市の特徴は、東西に伸びる長い長い線路だ。

東には第三大都市、西には第五大都市があり、電車が走れる間はとても交通の便が良い。

記録によれば、電車が走れなくなっても都市防衛のための戦力に余力があるうちは、線路に沿って数台の馬車を装甲車で護衛する形で、隊列を組んだ定期便が週に一度くらいは運航されるのだという。

図書番の里に近いこともあり、第四大都市は重要拠点とされているのだ。

遠目に見ても高い煙突からは湯気とも煙ともつかない白い雲が吐き出され、生きている工場がいくつもあることがわかる。今も缶詰などの保存食や小型の機械などが今も作られているのだ。

端から端まで十キロ以上、一周まわるには一日では到底無理なほど大きい、そして人口も三十万を超過するような、密度の高い大都市である。


分厚く高い塀は、幾度もの攻撃を耐え抜いた証拠に補修の跡が目立つ。私の三倍ほどの高さの大きな扉は金属製の補強をされていて、魔獣の体当たりの一発や二発ではびくともしないだろう。その両脇には見張り台が備えてあった。

「帰ったぞ!」

リーダーが声を上げると、見張り台のすぐ下にある小窓から少年兵が顔をのぞかせた。まだ十歳くらいだろうか。可愛い茶色の巻き毛を押さえるように、重そうなヘルメットをかぶっている。

「おっちゃん、おかえり!」

こどもらしい高い声で叫ぶと、自警団の面々は慣れた様子で小銃をちょっと持ち上げて手を振る。

「真面目に見張れよぉ。」

格好をつけて敬礼を返す少年は、ちょっと不服そうな顔をして、わかってるよ、と返す。腰に下げた鐘を高く掲げてカランカランと鳴らした後、乱暴に小窓をバタンと閉めて、見張り台へと帰っていった。

おそらくその鐘は門を開けるための合図だったのだろう。大きな扉ではなく、その横にある普通の家のドアくらいの通用門が開いた。

リーダーはくるっと振り返って、にやりと笑う。

「ようこそ、第四大都市へ。」


――


門を潜り抜けると、それは生きた街だった。狭く古い、聖女に守られた土地とは違う、人の守った街だ。

右を見れば銃やナイフの売買をしている。

左を見れば肉を預け金券を受け取っている。

足元はいくらかはがれているものの石畳が敷かれ、上を見れば細い電線が頼りなくも通っていて、おそらく明かりをくれるのだろう。

都市の外に近い場所は二階建てか三階建てが多いが、中心部には十階を超えるだろう高層物件が残っているようだ。それはこの街が長く防衛に成功していることを表していた。


数字と活字、手書きのイラストや古い文献と写真。私が知っている都市はそんな乾いたデータでできていた。

けれどこれは、自分の本当の目と手、足を使って得た生の情報だ。

預かって運ぶだけではなく、書き記し残すことも必要になるだろう。見聞きしたすべてが後の世の誰かが受け取る何かになる。きっと誰かに届くだろう。

これから、里の外の人間として、そして図書番として生きていくのだ。

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