彼女の旅立ち 4

「もう、早く言ってくださいよ!」

恥ずかしくて思わず顔を覆った。ほかの人の食べる分まで自分が食べてしまったせいで、包んだ後の生肉を出して切っているなんて知らなかったのだ。

予定よりも出発が遅れているのも、完全に自分のせいだ。まだ食事は全員に回ってもいない。かといって、手伝おうにも、手を出せば余計に時間をかけてしまうともわかるだけに言い出しづらい。

皿洗いひとつとっても、洗う水が十分にあるわけではないのだ。元通りきれいに洗おうなんてすれば、無駄な水を使わせてしまうだろう。

「ごめんごめん、本当にうまそうに食べるもんだから、つい、な。まあ、ちょっとくらい余計に食べたって構わないって。どうせわかりゃしないんだから。」

牙や毛皮は持ち帰らなければならないし、肉も一応そうだけれど、現地での消費分は必要経費になっているという。だが、完全に部外者の私の分が勘定に入っているわけがない。

「ひとりが何枚食べるかなんて、取り決めはしていないし。そもそも屑肉は持ち帰れないから燃やしちまうんだし。」

まだ火の消えない残骸を指して言う。それはそうかもしれないが、それとこれとは話は別だ。

納得しない私に気付いたのか、彼はポリポリともみあげあたりを掻き、しょうがないなあ、とこぼす。

「じゃあ、帰りの荷物を運ぶのを、ちょっと手伝ってくれりゃいい。その荷袋に入る分だけでいいから。

「え、ええ、それは構いませんけど。」

「助かる。それでいいよ。」

それでも納得はいかなかったけれど、これ以上は無駄だと気付いて、口を閉じた。


汚れにくいように配慮してくれたのか、肉や革ではなく、骨と牙を預けてくれた。嵩が大きくて運びにくいのだという。

荷袋は自然と重さを軽減する。『パッケージ』は里長から継承する血の魔法だ。特に呪文などがあるわけではないので、手をかざして小さくなれと念じるだけで収まる。

見守る自警団の面々は興味深そうにしているけれど、慣れてしまえば驚くようなものでもない。

すぐに担当分の荷物は片付き、荷袋を背負った。都市に帰る面々に混ざって歩き始めると、みな口々にうらやましそうに荷袋を見る。

「便利だなあ。誰でも使えればいいのに。」

たしかにそうだ。これがあれば、狩りの荷物はこれだけで済むし、帰路でも重い荷車なんか引かずに済んだはずだ。


第四大都市へ向かう道――彼らにとっては帰宅するためのそれ――を行く間、何も起きることはなかった。

荷車のゴトゴトという音、自分の少し弾んだ息、それから気を紛らわすための世間話が延々と続くだけ。

さっきまでの戦闘なんて嘘みたいに、他愛もない冗談を言い合いながら、二時間ほどの道のりを歩いた。

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