彼女のいない日常 2
夕暮れ前に掃除を切り上げ、受け取ったお土産を持って家に帰った。
宿題をすると言って部屋の隅でこっそりと包みを開けた。
便箋をほどくと、薄い布が机の上ではらりと広がる。中には、旅の途中で手に入れたのだろう赤い木の実、見たこともないくらい大きな飴玉、それからきれいな鳥の羽根があった。
便箋には見慣れた文字が、ちょっと雑に並んでいた。
きっと、ことづけなければならないからと、大急ぎで書いてくれたのだろう。
――
ニナ、元気にしていますか。
昨日、第四大都市で、図書番のリクさんと会ったところです。里に帰るというので、手紙を預けたら届けてくれるそうなので、お願いしました。
一ヶ月くらいはここで図書番としての活動の準備をしようと思っています。
手紙を書くのは初めてなの。何を書けばいいのかしら。
そうだ、同封した木の実と羽根はここに来るまでの道で拾ったもので、飴玉は街についてから手伝いをしてもらったものをひとつ入れておきました。
これからもあなたが卒業するくらいまでは手紙を送るから、楽しみにしていてね。
あなたからは難しいかもしれないけれど、いつかあなたが図書番になった時には、会えるかもしれないわね。
――
簡単すぎる近況が書かれていたけれど、状況のわりに能天気すぎるような気がして、ちょっと心配になる。
リッカちゃんが強いことも、頭がいいことも知ってはいるけれど、少し常識が足りないと常々思っていたのだ。楽しそうな雰囲気は伝わってきたけれど、準備とか、この先に行く場所とか、ちゃんと考えているのだろうか。
返事を書いても届けることは難しいけれど、でも、できたとしても、彼女にこちらの状況を伝えたくはなかった。この間まで魔獣が多かったのは彼女のせいだとか、しばらくは安心して暮らせるだろうとか、好き勝手なことを大人は言う。当人が不在なので言いたい放題だ。
里には帰ってこれないし、支援も受けられないだろう。これだけ言われても図書番として頑張りたいというのだから、リッカちゃんはよっぽどのお人よしだ。
掃除が終われば、自分たちの荷物を用意して、書庫に移動することになる。
書庫から学校に通学するようになるのもみんなバラバラだったから、暖房が欲しくなった順に移動するんだとか、料理が上手な人が先に移動しないと困るだとか、好き勝手にこどもたちは茶化していた。実際はもっと別のちゃんとした理由で順番が決まっているのだろうが、でも、案外くじ引きだったりじゃんけんだったりしたのかもしれない。
荷造り自体は気楽なものだ。食事は共同で作るし、雪に降り込められるわけではないので、寝具と衣類、勉強道具、大人なら仕事道具があればいい。それだっていつでも取りに行けるので、今日と明日が困らないくらいの準備ができればいいだけだ。
むしろ、ひと家族分の占有スペースは、家族全員が大の字になって寝られるくらいしかないので、余計なものを持ち込まないようにしなければならない。さもなければ、邪魔になった荷物を自宅に置きに行くことになるからだ。
収穫後のあわただしい冬支度を済ませ、徐々に書庫で暮らす人が増えるうちに、冬は深まっていった。
書庫にいれば大人たちが毎晩のように小さな熱源の周りに集まって話をしているのが聞こえる。
こどもと同じで今日のご飯の話をすることもあるし、昔のしょうもない悪戯の思い出で笑いあっていることもあるし、里の外の大都市について真面目な情報交換をしていることもある。
それを聞くのも勉強なのかもしれない、なんて思いながら、眠るのが日常になった。
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