彼女と嘘 4
慌ててその周囲を確認すると、柵の外にいくつも黒焦げの何かが落ちている。
ひとつは先ほどと同じような鳥型の、ひとつは犬のような獣型の、ほかにもいくつもの残骸が転がっているのが見えた。その数は十を下らない。
普段ならばきっと異変には気付いたはずだ。最近は豊作の畑の作業で忙しくて、昨日だってみんなここにいたのに、柵の修理なんかしていて警戒がおろそかだったのだろう。
おそらく、いや、絶対に間違いない。
見つめていた先、あの意味ありげな表情。
やったのはリッカちゃんだ。
あの夜中の、しばしば聞こえた落雷は、里から離れたここで魔獣を撃ち落とした音だったのだ。
畑の被害がとても少なかったのも。
――だけど、それは。
あまり触りたくはないけれど、上着を脱いで死骸をひとつ包んで抱え、急いで学校に向かう。
ちょうど授業の前には着くだろう。
教室ではなく、準備室と書かれた先生の控室に、ノックもなしで飛び込んだ。
「先生!」
慌てて両手を突き出したせいで、抱えていたものが転がり落ちる。
先生はびっくりして立ち上がり、落ちたそれを見て声を上げる。
「これは!どこでこれを?」
場所を説明するなり、先生は真っ蒼になった。
「よく、教えてくれました。対策を立てなければ。」
死骸を拾い上げ、そう言いつつも、視線は定まらずにあちこちをさまよう。死骸と場所しか伝えていないけれど、きっと誰の仕業かは予想していることだろう。
こちらの顔を見る余裕もない様子で爪を噛んでいる。
「外に出たのは?」
場違いだとは思いつつも、恐る恐る聞いてみると、先生はほんの少し冷静さを取り戻した。
「そんなことを責めている場合じゃないでしょう?相談しなかったのは良くないけれど、すぐに確認したのは良いことです。」
それを聞いて、本当に緊急事態なのだと悟った。
魔獣はただの獣ではない。獣よりも高い知性を持つし、何よりも同族の復讐をする。それも幼い個体を襲われるほど強く恨みを持つ。
黒焦げの死体はほとんどがまだ幼獣だった。
もちろん高い知性ゆえに、復讐に向かっても返り討ちに遭うとわかればそれ以上は手を出さないだろう。
だが、それだけの力を見せつけねば追い払えないということでもある。
「なぜ私だと思うの?」
呼び出されたリッカちゃんは、本当に何も知らないような顔をしていた。
けれど、昨日の様子を見ていたせいで、それが演技だとわかってしまった。
「ニナ、私たち、友達でしょう。どうして信じてくれないの?」
じっとこちらを見つめてくる。
思わず目を背けた。
「ああ、もういいわ。魔獣が全部倒せたら、図書番として外に出ていいのでしょう?」
「リッカ!あなた、何を聞いていたの?全部を倒せるわけではないと何度も教えたのに。」
「言うとおりにしてきたわ。そうしたら将来の夢がかなうって聞いていたから。
それなのに、言うとおりにして強くなったら、それはだめだなんて。私のこれまでの全部は無駄だったじゃないの。」
バチバチと、静電気のはじけるような音がどこからともなく聞こえてきた。
彼女はそれに気づいた瞬間、ハッとしたような顔で駆け出した。
――
先生と一緒にリッカちゃんを必死で追いかける。
学校を出て、通学路を抜け、まっすぐ里から外へ。
彼女がどこに行ったのかは、光と音で簡単にわかった。
石塀を越え、魔法の練習で使うあの崖の前で彼女に追いついた。
彼女は青や金の美しい電気をまとってそこにいた。
その姿はまるでおとぎ話の大魔女のように美しく、けれど大きすぎる力を持て余して泣いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます