彼女と嘘 3
それから彼女は学校に来るようになった。彼女のお母さんからも感謝された。けれどまともに授業を受けているのは週に二日くらいで、ほかの日は出席だけですぐにどこかにいなくなってしまうらしい。
あれだけ落ち込んでいたのだからそれも仕方ない。そう思ったのは私だけではなく、先生も、彼女のお母さんも同じだった。
夏の終わりの今、最終学年の勉強しなければならないほとんどのことはもう終わっている。年末には卒業を迎えるが、卒業後は里で書庫整理でも手伝えばいい。時間が経てば、いずれ立ち直るだろう、と。
彼女が何をしているか、何を考えているか、誰も真剣に考えてはいなかった。
――
その年の収穫は、例年になく豊作だった。
夜中に雷が多かったが、その割に転向は安定していたし、鳥獣の被害が少なかった。そのうえ、収穫前の作物を脅かす病害虫もあまりなかったらしい。収穫の適期は短いからと、授業も一日休みで生徒も手伝うことになった。
里の畑は石塀の中と外、両方にある。
中にあるのは各家庭の小さな畑だ。自宅で使うために自前で用意した種や苗を植えてある。薬味や香りづけ、あとは一般的には好まれない味のものや薬として少量用意するためのものだ。
外にあるのは共有財産としての畑で、麦やトウモロコシ、芋、葉物野菜や果物など、里全体、一年分の食い扶持をこれで作るのだ。
共有財産ということは、里全体で畑の世話をすることになる。
たとえば図書番という仕事自体は、生計を立てる仕事ではないから、里を出ていればそこでなにがしかの食べるための仕事をしているが、里で書庫の管理人になるなら、管理をしている以外の時間でいくらかは畑を見なければならないのだ。もちろん畑を専業で見る人よりは、畑に費やすのは少ない時間、少ない労働力だけれど。
その共有財産である畑を支える労働力には、もちろん、未成年も数えられている。学校に通い始める八歳にもなれば、麦を刈るのは難しくても、
刈った麦を運んだり、落ち穂を拾ったりすることくらいはできる。
そして、ある程度の戦う力がある人間は、一番の外周で、魔獣が襲ってこないか監視をするのだ。
ほとんどの生徒が石塀寄りの場所で雑用を言いつけられる中、リッカちゃんは外周に連れていかれ、大人たちが畑の柵を修理するのをぼんやりと眺めていた。
あまり気乗りがしない様子だったけれど、指示には従っている。
あまり見ていると、さぼっていると言われてしまう。そう思って作業に戻ろうとしたとき、彼女の見ている先に、何か黒いものが落ちていることに気づいた。
黒い、何か。よくわからず、視線を上げると、彼女と目が合った。
彼女は形の良い唇の前に、すっと指を一本立てて、意味ありげに笑った。
その顔を見た時、とても嫌な予感がした。
けれど声は出なかったし、近づいて見ることなんてできなかった。
そのまま作業は順調に進み、夕暮れ前には半分ほどの収穫が終了した。残りはまた翌日以降になるが、学校を休んでまでの作業は今日だけだ。
乾かして、脱穀を待つ穀物の山は、数日では片付きそうにない。今年の冬は安泰だとみんなで喜んだ。
――
翌朝、学校に行く前に、昨日、リッカちゃんのいた場所に向かった。
石塀を、許可もない未成年が越えるのは、見つかればとても怒られることだとは知っている。
それでも来たのは、あの時リッカちゃんの様子を見に帰らなかったことをとても後悔していたからだった。
「これ……。」
黒いものは、黒焦げになった鳥の死骸だった。
翼はあるが、普通の鳥にはない角の生えた頭を持つ、魔物だった。
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