第10話 メモの行方
「ねぇジーナ」
「はい! なんでしょうか?」
夕食を終えて部屋に戻ったケネスは驚いた。
「僕の部屋、こんなんだったっけ……?」
雑多に物が散乱していた部屋は整っており、本棚は全て綺麗に磨かれていた。あちこちに捨てるように置いてあったメモは無くなり、机の乱雑さが目立つ。
「何も変わっておりませんわ。あちこちにあったメモをまとめて、少しお掃除をしただけですもの。もちろんご命令通り机には触れておりませんわ。メモは大事なものでしょうから、全て順番通り取ってありますわ」
「え?! あれ、捨てて良いんだよ? どこにいったの?」
「必要と仰られたらすぐに戻せるようにわたくしの部屋に置いてありますわ」
「ジーナの部屋がいっぱいになってるでしょう。ちょっと見せて!」
ジーナの部屋には、ケネスの本棚に貼ってあったメモが綺麗に並んでいた。番号が振られ、いつでも元の場所に戻せるよう部屋中に並んでいる。
「こんなにあったんだ……」
「ええ、どれも興味深い内容でしたわ」
「全部終わったものだから、処分して良いよ」
「そんな! 勿体ないですわ!」
「でも本当に要らないものだから」
「でしたら、わたくしが頂いても構いませんか?」
「良いけど……大事な事は書いてないよ。大事な事はメモしてもすぐ燃やすようにしてるから、ここにあるのは本当に単なるゴミだよ」
ケネスは使用人を信用していないので、部屋に大事な物は一切置いていない。大事な物は兄や弟の部屋に保管してもらっているし、機密事項が含まれたメモはすぐに燃やしているので、部屋にあるメモは誰に見られても良く、捨てても構わない物ばかりだった。
「わたくしが拝見した限りは、機密事項はありませんでしたけど、やっぱりわざとだったんですね! さすがですわ!!」
「さすがの意味が、分からないんだけど。まぁ良いや。掃除、ありがとね。あと、悪いんだけどジーナに侍女の仕事もしてもらいたいんだ。後で侍女の制服を届けるから、状況に応じて着替えてくれる?」
「承知しました。では、エレノア様と2人で侍女のお仕事をするのですか?」
「エレノアは僕の担当から外した。だから、僕に付いて貰うのはジーナだけ。他のメイドも、侍女も要らない。だから、誰かが僕の担当だって言ってきても信じないでね。僕の使用人はジーナだけだから。部屋の掃除は出来る範囲で良いし、着替えは自分でする。今後は出歩く事も増えるから僕が出歩く時は侍女服を着て付いて来て。勤務時間は他の侍女やメイドと同じ。残業はなし。だから、もう仕事の時間は終わり。休んで。家に帰る?」
「与えられた部屋で過ごしますわ。兄に伝言を頼んだので問題ありません」
「分かった。休みは週に1回。食事は使用人の部屋にあるから。まだ、食べてないでしょ? 食べておいでよ。僕が休みの時は家に帰ると良いよ」
「普通のメイドや侍女ならそうなのでしょうけど、わたくしは罰として使用人をしておりますから、そういう訳には……」
『うーん……出来るだけ普通に扱おうと思ったけど、そうもいかないか』
「なら、休みの日は僕の部屋で本を読んで良いよ」
「本当ですか?! 嬉しいです! あ……でも、わたくしは休む訳には……」
『くっ……! キラキラと輝いた目が、可愛い! しゅんとしてるのも可愛い! ……どうしたら良いかな。ジーナはきっと、本を読みたいけど我慢してるんだよね。なら……』
「ねぇジーナ、僕に仕えるのなら僕の命令は聞けるよね?」
「はい。もちろんですわ」
「なら、ちゃんと休んで。休日は規定通り取って、城から出るのも自由。これは僕の命令。分かった?」
「はい! 承知しました」
『わたくしが本を読みたがっていたのを察して下さったのね。なんてお優しい方なのかしら』
「……」
「……あ、あの」
「もう勤務時間は終わり! ちゃんと休んでね。ご飯も食べてよ! 分かった?!」
「はい。分かりました」
「じゃあ僕は休むから! もう今日は部屋に来なくて良いよ! ってか、ゆっくりしたいから来ないで! 今から明日の朝までは自由時間! 分かった?!」
「承知しました。ごゆっくりお休み下さいませ」
『あああ……危なかったぁ……! ジーナは無防備過ぎるよ……あの嬉しそうな顔は、本が読めるから喜んだんだよ。そう、それで間違いない! 変な勘違いしちゃダメだっ!! それにしても、あんなに短時間で部屋を綺麗にしちゃうなんて。僕のメモも、ゴミなのに大事にしてあった。ジーナは伯爵令嬢だから、掃除は慣れてないよね。どれだけ無理して働いたんだろう。放っておいたら、ずっと働いてるから休むよう言わないと。フィリップを訪ねて、ジーナの好みを聞いてみて部屋に本を揃えよう。それから、伯爵を訪ねて、ジーナを口説く許可を貰わないと』
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