妄想掻き立てる古書店

鹿嶋 雲丹

第1話 妄想掻き立てる古書店

 ブック○フや古○市場。

 昔ながらの古書店。

 どちらも新品ではない本が売られている店だが、どうしてなかなか雰囲気が違う。

 明るい雰囲気の前者と、どことなく怪しげで少し暗い雰囲気が漂う後者。

 ファンタジー好きの私としては、俄然後者が好みであるが、近所にあった古書店はことごとく違う店になった。

 一軒は喫茶店。

 もう一軒はシャッターが閉められた上、役所の張り紙が貼られている。

 この土地の持ち主に関する情報を募集するかのような内容の張り紙だ。

 夜逃げか……

 私はそう決め込み、それを想像した。

 それ、とはシャッターの内側である。

 所狭しと並べられた古書達はどうなった?

 他所に売られたのか、それともそのまま放置されているのか?

 謎は深まるばかりだが、想像するのは自由である。

 連想するのは、一匹のカエル。

 若葉色を連想させる、色鮮やかな緑色が艶々と輝く。

 そして、その可愛らしいボディサイズ。

 雨降る中、一人傘差し下校する小学生。

 何故か水たまりの縁で佇むそのカエルと目が合い、じっと見つめ合う。

 やがてそのシチュエーションに飽きたように、そろりとカエルが動き始めた。

 小学生がなんとなくその後をついていくと、そこには人気のない古書店がある。

 小さなカエルに導かれるように店内に足を踏み入れると、店主がぬらりと姿を現す。

 いらっしゃい、と笑うその顔は、先ほどまで見つめ合っていたカエルそっくりだ。

 思わず店先にいるはずのカエルを顧みるが、その姿は既にそこにはない。

 もしや、この人は先ほどのカエルが化けているのでは?

 小学生は疑いの眼差しを向ける。

 ニタリと不敵な笑みを浮かべる店主。

 その様が不気味に感じられるも、足がすくんで動かない。

 なんだか、不思議で少しホラーな香りがする妄想。

 古書店には、そんな妄想がよく似合う。

 だから私は古書店の記憶を大事にしようと思うのだ。

 既に現実からいなくなってしまった、古の本屋を。

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