第117話 やってきたよ、奴隷の館!
「ようこそいらっしゃいました。私は、奴隷商人のナパソと申しますわ」
俺は今、アンジェと共に、奴隷商人の館に存在していた――。
「当店は、人間、ドワーフ、エルフ、獣人からサキュバスまで多種族の老若男女を取りそろえ、お客様の目的に合わせた様々な奴隷を取り扱っております」
奴隷商人のエルフ女が、人買い特有の厭らしい目つきで笑いかけてくる。
煌めく金髪、宝石じみた碧眼、すらりとした長身、透き通るような色白の肌――。
おそろしく美しい容貌だが、目の奥はギラギラしており、悪辣な『邪』そのものだ。
「お客さま。よろしければ、どのような奴隷をお探しか、ご要望をお聞きしてもよろしいですか? 見た目や種族、年齢や性別、使用目的など、なんでもお申し付けください。選りすぐりの奴隷を紹介させていただきますわ」
ま、そんなんはどーでもいい。
俺は仕事して、サクッと帰るだけだ。
「夜の仕事ができる奴を用意してくれ」
「ほほう。性奴隷ですか?」
奴隷商人がにやりと笑った。「旦那も、お好きですなあ~」みたいな顔だ。
「違う。『魔女祭』で店を出すから、酔客の相手ができる売り子が必要なんだよ」
「あら。そういえば、もう『魔女祭』の季節でしたわね」
俺が地元民とわかった瞬間、奴隷商人の顔から邪悪さが抜けた。
おそらく、さっきまでは俺をよそ者だと思って食い物にしようとしていたのだろう。
パンドラ人にありがちな排他的態度だ。
「欲しいのは、接客と客あしらいが同時にできる女だ。酒が飲めて、話が上手い若い女がいい。顔が良くて、手癖が悪くないと尚良しだ」
「それならば、とっておきのがおりますわ!」
「あと、用心棒が二人欲しい。酔客やマフィアに負けない強さがあるやつがほしい」
「そちらも、すぐにご用意できますわ。では、早速ご案内いたします」
仕事にとりかかった奴隷商人が、店の奥へと俺を誘う。
儲かっているのか知らんが、かなり豪華な館だ。
赤い絨毯、キラキラと輝くシャンデリア、美麗な絵画に最新の自動演奏機――。
やはり、他人に稼がせて上がりを搾取する無慈悲で邪悪な仕事は儲かるんだなぁ。
「それでは、当店自慢の奴隷たちをご覧あれっ!」
奴隷商人が扉を開けるなり、艶めかしい女たちが目に飛び込んできた!
「な、なんだーっ! このどスケベ娘たちはああああああああああああああーっ!?」
「アンジェ、外で待ってろつったろ」
大声でおったまげるアンジェの馬鹿が、いつの間にか俺の隣にいた。
「彼女たちは、没落した貴族や派閥争いに負けたマフィアの子女、あとは、外からの侵略者のなかから見目が麗しいものを選りすぐった女たちですわ」
「見た目はいいが、素性が悪いな。挑発的な仕草をしてくるぞ」
甘ったる匂いを漂わせる女たちが、不敵にほほ笑んだり、流し目をしてきたり、投げキスをしたり、乳を揺らしたり、雌豹のポーズでケツを振ったり――。
まるで、俺を誘惑するかのような態度を取ってくる。
「おっしゃられる通り……元が元なので、気位が高く傲慢ともとれる者や、少々野性味がありすぎて扱いが難しい奴隷もおりますわ。ですが、しっかりと身の回りのお世話をできるように仕込んでありますので、ご心配なさらず」
「あーそうなの……じゃあ、若い順に、貧乳、普通、巨乳を見繕ってくれ」
「待て、フール! 女性を買うなど、許さんぞっ!」
アンジェがなんか騒いでいるが、相手したくないので無視して仕事を進める。
「おっぱいの大きさは承りましたわ。見た目はいかがなさいましょう? 当店イチオシのロリ巨乳の元貴族令嬢などは、いかがでしょうか?」
「いらん。酔っ払いと喧嘩になるかもしれんから、ガタイがよくて背が高い方がいい」
「はいな!」
「いや、待て……スケベどもが寄ってきて売り上げが増すように、見た目は女らしい方がいい。さらに、喧嘩ができればなおいい」
「お任せあれ! ちょうどよい者がおりましてよ!」
着々と奴隷選びをしていると、アンジェが邪魔してきた。
「おい、フール! やめろ、女を……いや、奴隷を買うなっ!」
「メイが奴隷を連れて来いって言ったんだ。文句なら、俺に言わずメイに言え」
人の仕事を邪魔する馬鹿は、放置だ。
「おい! いつも仕事をしない癖に、こんなときだけ仕事をするなっ!」
「俺はいつもちゃんと仕事をしている。そんなことより、次だ。時間がない」
夢を見ている途中で無理矢理起こされたから、すこぶる調子が悪い。
早く帰って、昼寝をせねばならんのだッ!
「用心棒でしたね。こちらへどうぞ」
そう言った奴隷商人は、俺を隣の部屋に誘った。
この部屋は、女たちがいた部屋と違って……。
「男くさいっ! 屈強な男たちの熱気が襲いかかってきたあああああああああっ!」
アンジェが、檻に閉じ込められた男たちのむんむんとした熱気にやられた!
檻のなかにいる屈強な男たちが、鋼の肉体を見せびらかしてくる。
「この者たちは、誰もが強靭な戦士ですわ。先の戦争で名を馳せた歴戦の戦士から、パンドラギルド所属の元冒険者まで取り揃えておりましてよ」
「待て待て、戦士だとっ!? 捕虜にしていないのかっ!?」
「捕虜を当館で引き取り、調教して奴隷にいたしましたわ」
「なんだ、調教って! 人間を、獣みたいに扱っているのかっ!?」
アンジェと奴隷商人がなんかやっているが、無視する。うるさいから。
とりあえず、最初に目を引いた角刈りに声をかけてみた。
「おい、角刈り。平均的なマフィアを十秒でしばき倒せる自信はあるかね?」
問いかけるなり、角刈りが真っすぐな眼差しで見返してきた。
「十秒もいらん、五秒でいける」
「角刈りならではの素晴らしい答えだ。採用」
「おいっ! 即決していいのかっ!?」
アンジェが茶々を入れてくる。
当然、無視。
「角刈りの隣のお前は、どうだ?」
角刈りの隣にいた陰のある若い男に尋ねた。
「素手なら五秒。武器ありなら二秒」
「いいね。君、採用」
「おいっ! 適当に決めるなっ! お前、選ぶのに飽きてきているだろっ!」
うるせぇやつだな……。
「角刈りは信頼できるし、陰のあるイケメンは親近感がわく。ただ、それだけだ」
「面倒だから適当にやっているだろっ! 裏切ったらどうするのだっ!? 女たちとは違うのだぞっ! メイ殿が怪我してもいいのかっ!?」
「落ち着け。大前提として、『この世界には、俺とお前より強い奴なんて存在しない』。歯向かったら、即座にしばき倒せばいい。なんの問題もない」
問題があるとすれば……。
そんな強大な存在である魔王様が、なぜ小娘の使いっぱしりなどをしているのかと言うことだ。
「奴隷商人! 奴隷選びは、これで終わりだ!」
だが、考えるのはやめだ。
なぜならば、考えると泣きたくなるから。
「お決めになるのが、お早い! ですが、彼らはうちの奴隷のほんの一部。他にも当店選りすぐりがおりましてよ?」
奴隷商人が言い終わるか否かのところで、アンジェが何かに気づいた。
「むむっ! 奥の扉から何か強い力を感じるぞっ!」
アンジェが見つめる先は、怪しげな雰囲気を発する鉄扉だ――。
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