第115話 人手不足に奴隷レンタル?

「暇ではない。昼寝で忙しいのだ」

「それを暇ちゅーんや。昼間っから寝てないで、仕事しろぉーっ!」


 メイがいつものように俺を働かせようとして、大声で騒ぎ出す。


「メイ……お前は、いつも仕事、仕事とうるさいが……仕事をしてなんになるのだ?」

「なんかになるために、お金を稼ぐんや。生きるためには、お金を稼がにゃならん。そのためには、仕事をする必要があるんや」


 俺の問いかけに対して、なぜか子供を諭すように丁寧に答えてくるメイだった。


「必死こいて仕事して金稼いで、結婚して、家建てて、家族四人と犬一匹を養う。さらに、老後に備えて日々節制して貯金をしておく……でも、定年退職後は、長年の労働が祟って病気になって全財産がなくなる。そうじゃなくても、年いってボケたら、人生を捧げて養った家族からゴミ扱いされて捨てられる――それが真面目に仕事をした人生の結果だ。そんなしょっぱくて切なくて悲しい人生でいいのか?」


「大げさや! フールは、いっつも言うことが極端やねんっ!」


「ちょっとばかり人よりいい暮らしをするために、生命も尊厳も良心までも仕事に売り渡しちまったやつらを見てみろよ! 自分以外の誰かの人生をすり潰して生き血を喰らって、血塗れた金を手にして生きていくんだッ! 俺は嫌だね、そんな邪悪な生き方! たとえ、その日暮らしで一日の食事に事欠くことがあっても、俺は自由で親切で優しいフールくんのままでいたいよッ! 労働で心を亡くしたくないよッ!」


 感極まって思わず涙ぐんでしまった。


「泣くなっ! どんだけ働きたくないねんっ!」

「……大の大人が泣くほど働きたくない」


 切実な願いだった。


「そうか……でも、働くんや。なぜならば、働かねばならんからや!」


 しかし、非情なるロリエルフは、俺の願いをいともたやすく無下にする――。


「聞け! 今日の夜は、年に一度の『魔女祭』や! うちらも出店を出すのに、全然準備ができてない! なんでや、答えろっ!?」

「わかんない。質問が難しいよ」


「難しないわっ! お前が手伝わんからやあああああああああああああああーっ!」


 メイがエルフ耳を逆立ててキレた!


「知るか。他人に強制労働させたきゃ、奴隷でも使えよ」

「『奴隷』だと!? パンドラには、奴隷がいるのかっ!?」


 アンジェ……いたのか。


「当たり前だろ。この島は流れ着いたが最後、外の世界には出られないのだ。俺のように善人としかいえない流れ者は受け入れてもらえるが、外から流れ着いた犯罪者や侵略者などの極悪人は、とっ捕まって奴隷にされるのだ」


 漂流者を殺さずに奴隷にして再利用する――もったいない精神の極致と言える。

 世界の果ての蛮族の島パンドラは、おっかないところだなぁ。


「なんとっ!? パンドラは、そんな恐ろしい場所だったのかっ!」

「お前も本来は、奴隷になっててもおかしくないんだぞ。助けてやった俺に感謝しろ!」

「助けてやったって……別に、お前は何もしてないだろっ!」


 はああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!?


「常に助けてやってるだろうがッ! なんと恩知らずな奴なのだッ!?」

「ふん! いじわるばかりしてきて素直に助けてくれないお前に恩などないのだっ!」


 きぃーっ! 生意気な小娘ね! こんなやつ、殺せばよかった!

 餌付けしても、餌付けしてる瞬間以外、全然懐かねぇしよぉっ!


「奴隷ね~……お祭りがある今日だけなら、まぁええか……よし、フール! 奴隷借りてきたってやっ!」

「メイ殿……他人を奴隷として扱うなど、いけないことだぞっ!」


 人間の基本的な部分を欠く恩知らずのアンジェが、生意気に人道主義者みてーなことを抜かしだした。


「よそ者のおめーは知らんだろうが、この島では奴隷制は合法なんだよ」

「合法だとしても、人の道にもとるぞっ!」


「人の道なんか、かんけーねぇよ。こーいうのは権力構造の問題であって、人道の問題ではないのだ。パンドラの支配者が、合法だつってんだから、合法なんだよ」

「合法か違法かですべてを判断しようとするやつは、権力に従っているだけの卑劣な無能かつ悪人の援護者に過ぎないぞ。悪を為さず善を行い、人の道を外れるなっ!」


 はえ~。急に賢いことを言い出しやがった。


「どうした、今日は随分と賢いじゃないか。今のセリフは、誰かの入れ知恵か?」

「入れ知恵ではない。お師匠様が言っていたことを言っただけだ」

「それを入れ知恵っつーんだよ。やっぱ、バカじゃねぇか」

「なにぃっ!?」


 などとやっていると、メイが話に割って入ってきた。


「この島での奴隷ちゅーのは、外の世界の『派遣労働者』みたいなもんや。アンジェもこの島に住むんやったら、いっぺん自分の目で見てきたほうがいいで」


「むっ? 派遣労働者?」

「フール。アンジェ連れて、奴隷借りてきたってや」


 逆らっても面倒なことになるだけなので、大人しく従っておく。


「はいよ」


 無駄に渋ってここにいても、嫌がらせのようにさらに面倒な仕事を押し付けられるだけっぽいし、それなら使いっぱして外で時間潰したほうがいい。


「アンジェ、フールが素直で怪しい。サボらんように、ちゃんと見張っといてやっ!」


 けっ! 素直で怪しいってなんだよ!

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