第4章 男も女も亡者も盆踊れ! 魔女の祭りは血祭りわっしょい!

第114話 夢で逢ったよ。おふくろメイちゃん❤

「こんにちは。おふくろメイちゃんですっ! 今日の料理はパスタ! テーマは、『手軽に簡単、ちゃんとおいしい』やでっ!」


 俺は今、お昼の料理番組『おふくろメイちゃん』の収録現場に存在していた。


「今日作るのは、ペペロンチーノやっ!」


 かわいげなエプロン姿のメイが、元気いっぱいに料理を開始する。


「まずは、お鍋にお水を入れて、お好みの塩加減で麺をゆでる。それと同時に、ソース作りや。ガツンと存在感のある香りを出すために、多めのニンニクをこれまた気持ち多めの油で軽く茶色になるまで炒める」


 メイが薄切りにしたニンニクをフライパンで炒めると、食欲をそそる匂いが立ち上った。


「ニンニクの色が変わって来たら、唐辛子とネギをたっぷり入れて、さらに炒める!」


 ネギだとッ!? こやつ、正気か!?


「メイちゃん流『薬味たっぷりペペロンチーノ』や! どこにでもある安い食材だけでできるでっ! 食べ盛りでお肉が欲しければ、うま味が出るウインナーとかベーコンとかちくわやかまぼこを入れるとおいしいよ。具にはほんの一つまみのお砂糖を振ってやると、うま味が出てくるでっ!」


 フン。説明も雑だし、味付けも雑な料理だ。


「一見したら、雑ともとれるシンプルさ。だけど、それだけに難しく奥深い。おいしくつくれるようになったら一人前やっ!」


 などと、メイが利いた風な口を叩く。


「さてっ! ニンニクのいい匂いがする油で具を炒め終ったら、油と同量の麺のゆで汁を加えてささっと混ぜるっ!」


「しっかり乳化させろ! 乳化!」


 思わず口出ししてしまう魔王様だった。


「乳、乳、うるさいんじゃい! うまけりゃいいんや! おらぁっ! 魚介系ないし鶏ガラ系の顆粒ダシも入れたらぁーっ!」

「ぎゃあああーっ! パスタ道を外れし、邪道なり!」


 とんでもない小娘だ!

 料理に一家言持っているうるさがたの諸兄諸姉が、なんか言ってくること間違いなしの愚挙ではないかッ!


「確かに、お金と手間をかければ、何でもおいしくなる……せやかて、毎日作らなあかん家庭料理に、そんな余裕はないっ! 省けるところは全力で省く! それが、おふくろメイちゃん流やぁーっ!」


 おふくろメイちゃん流だと!? 妙な流派を生み出すなッ!


「オイル系のパスタのときは、パスタのお湯をしっかり切る。ソースになるオイルがお湯で薄まったら、味と香りをつけたのが台無しになってまうからや」


「それはともかく。お前がノリで入れた顆粒ダシのせいで、しょっぱすぎるぞッ!」


「味をまろやかにすると同時にコクと奥行きを与えるために、半熟卵を用意してある! 卵はビタミン・ミネラル・タンパク質、そして塩分が含まれている完全食やぁ!」


 一挙両得!? そして、用意周到!

 こしゃくな小娘め!


「オイルソースと湯切りした麺をしっかり混ぜたら……最後に刻んだシソと海苔をトッピングや! これが、『おふくろメイちゃん特製・薬味ペペロンチーノ』やでっ❤」


「こんな邪道な組み合わせの上、乳化もしていないペペロンチーノがうまいわけないだろっ!」


 まるで、料理の心得のない母親が作った間に合わせの昼飯ないし、酔っ払いが深夜にノリと勢いで作った夜食ではないか。


「四の五の言わずに、食えっ!」


 メイが無理矢理、俺の口に『おふくろメイちゃん特製・薬味ペペロンチーノ』を突っ込んできたッ!


「お前の次のセリフは……『おふくろメイちゃん! おいしい💛』と言う!」

「おふくろメイちゃん! おいしい💛」


 メイがしたり顔を向けてくる。


「はうあっ!?」


 こ……この魔王様が、こんな小娘の手の平の上で踊らされていると言うのかッ!?


「パスタは、たんぱく質と炭水化物が摂れてかつ、お安い。油はオリーブオイルなら良質な脂質が摂れるし、ニンニクは滋養強壮と胃腸の調子を整える優秀な食材や。さらに、完全食であるタマゴを入れることで、栄養面はほぼ完ぺきや。もっと栄養が欲しければ、好きなお肉かお野菜をぶちこんでたんぱく質と食物繊維およびビタミンを摂ることも可能やでっ!」


「はえ~。適当な麺料理だと思っていたけど、立派な筋肉ごはんやん」


 などとやっていると、かつての部下が俺の元にやってきた。

 ゴブリンっぽいやつだ。

 

「魔王様! 勇者アンジェリカと名乗る恐るべき少女のことでありますが!」

「気にするな!」


 凡愚などどーでもよいわ。


「いや、気にしろッ!」


 不意に俺の目の前に、神的存在とも思われる美しくも逞しく芸術的ですらある至高の何かが現れたッ!?


「なんだこの絶世の美貌および威厳! いや、我こそが真善美の権化ともいわんばかりの神々しさを持つ男はッ!?」

「落ち着け、魔王カルナイン。俺は、未来の貴様……つまり、未来から来た魔王様だ!」


「なにィーッ!?」

「それはともかく! 勇者アンジェリカなる邪悪の化身を気にしろ! 気にしないと殺されるぞッ!」



『――きろ!』



「はあ~? 何を言っているのだ、貴様は? この俺が殺されるわけないだろ?」



『フール――』



「自信と矜持を持つのは良いことだ、魔王らしいからな! だが、油断は禁物だ! 絶対的王者ゆえに、つい生まれてしまう油断が破滅を呼び寄せるのだッ!」

「黙れ。俺の姿を真似る凡愚よ、滅びろ」



『フール、起きろ』



「聞け! 謙虚さと慎重さを身につけろ! 勇者アンジェリカを、今すぐに全力で殺せッ! でないと大変なことになるぞッ!」



『フール! 起きろっ!』



「なんだ、さっきからうるせぇぞッ!」


――――――

――――

――


「フール! 起きろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


「はうあ! おふくろメイちゃんっ!?」


 己の呪われた運命を変えようと奮闘していた俺の目の前に、なぜかメイが存在していたッ!?


「なんやねん、おふくろメイちゃんって? 寝ぼけてる場合ちゃうで」


「あ、あれは『夢』か……おぞましい夢を見た……!」


「なんで、うちの名前が出てるのにおぞましいねんっ!? おかしいやろっ!」


 うぅ、寝起き最悪……ひどい目ざめだ。

 連日の労働のせいで妙な夢を見てしまった……。


「フール、暇しとるやろ? メイちゃんが、『お仕事』を授けたるわ」


 寝起きの魔王様に対して、くそみたいなことをほざくロリエルフだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る