第109話 新たなる刺客は、ドスケベ大魔導士!? 

「悲鳴を上げるな馬鹿たれ! 士気が下がるだろうがッ!」


 勇者と魔王が揃ってタコに捕まるという大失態……情けなさ、この上なしだ!


 今日の朝には元気いっぱいだったやつが、夜には苦痛と絶望にまみれて死ぬ――。


 そういう無常な世界だということを、ダラけきった隠居生活で忘れかけていた。


「それはともかく! なんで、いきなりクラーケンが襲いかかってきたんだよッ!?」


 などとキレ散らかすなり、予想もしなかった返答があった。


「ふぉふぉふぉ。それは……この『わしが使役しておるから』じゃよ」


 クラーケンの横に、得体の知れない謎のジジイが浮かんでいる!


「なんだ、このジジイッ!?」


 人喰い鮫、クラーケン、その次は、謎のジジイ!

 なんなんだ一体!? どういう並びだよッ!


「なにっ!? お……お前は……っ!」

「知っているのか、アンジェ!?」


 謎ジジイを見たアンジェが、わなわなと震えながら戦慄する。


「大魔導士ヅゥカウィ!」


 はあああ~ッ!?


「この謎ジジイ、アンジェの知り合いかよッ!」

「そうだ! 大魔導士ヅゥカウィなのだっ!」


「いや、二回言われても……つか、大魔導士って何よ!?」

「大魔導士ヅゥカウィは、大魔導士だっ!」


 なんやねん……三回も大声で言ってきて、こわいわ。

 とはいえ、言われてみれば……白いあごひげはくそ長いし、それっぽいデカい帽子を被ってるし、海の上なのに豪奢なローブを羽織って、手には厳めしい杖を持っている!


 確かに……なんかすっごく! 『大魔導士』っぽい!


「そうじゃ、わしじゃよ。わしこそが、『大魔導士』ヅゥカウィじゃよ!」


 わあっ!? 自己紹介してきたっ! 本当に、大魔導士なんだ!


「『叛逆者』アンジェリカ! まさか、本当に逃げおおせて生き延びておったとは……」


「……刺客は、ヴァイパーだけではなかったのか……っ!?」


 しかも、刺客かい!


「当たり前じゃ。誉れ高き魔王討伐軍の面汚しを始末するのは、わしらの務め」

「そんな……っ! じゃあ、他の仲間たちも私を狙っているのか……っ!?」


「問答無用! お命頂戴じゃあああああああああああああああああああああーッ!」


 刺客ジジイが、唐突に殺意を爆発させた!


「お命頂戴って……なぜ、王家由来の貴族である貴方が『刺客』として、こんな世界の果てにいるのですかっ!?」


 予想外って感じの顔をするアンジェが、刺客ジジイに質問をぶつける。

 すると、刺客ジジイが長いあごひげを撫でて不敵に笑った。


「晩餐会に遅刻しそうじゃったので馬車をかっ飛ばしておったら、道にいた下民どもを数十人轢き殺してしまってのぉ~。そうしたら、なぜか下民どもが生意気にも声を上げて、反旗を翻してきたのじゃよ」


 なぜって、そんなもんキレて当然だろうよ。


「そいつらを駆除したら、王宮で騒ぎになって面倒なことになっておってなぁ~。大罪人のお主の首でも土産にして凱旋帰国して名誉挽回でもしようと思ったのじゃよ」


 はあああ~? ただの自己チュー迷惑殺人クソジジイじゃねぇかッ!


「おい、そこのひき逃げジジイ! なんで、『勇者の居場所』がわかったんだッ!?」


 前に来た追手どもは一人を残してぶっ殺したし、殺さないで伝書鳩にしたやつには『アンジェはパンドラの現地民に殺されてた』って伝えるように命令したのに……。


 それに、メイのジジイどもパンドラ国の上層部も、アンジェの死体を啓明教会に送り付けていたから、『外の世界において、勇者アンジェリカは死者扱い』になっているはず……。


「ジジイ! なんで、パンドラに来やがったんだッ!? 勇者アンジェリカは死んだことになってねぇのかッ!?」

「……」


 は? 無視だと?


「ヅゥカウィ殿は気位の高い貴族なので、庶民の声に耳を傾けることはないのだ」

「うぜぇッ! とんだ、イキリジジイじゃねぇかッ!」


 いや、誰が庶民やねん! わしゃ、偉大なる魔王様だぞッ!


「ヅゥカウィ殿! なにゆえ、私の居場所がわかったのだっ!?」


 アンジェが問うと、イキリジジイがもったいぶった様子で口を開いた。


「ふん……わしは、高貴なる大魔導士じゃぞ? かつて拝借した叛逆者のおパンティに染みついた魔力を手繰れば……居場所を知ることぐらい造作もないことよッ!」


「なにぃーっ!? やはり、あのときの下着泥棒は貴方だったのかーっ!」


 大魔導士だか貴族だかなんだかしらねぇが、まごうことになきクソジジイじゃん。


「おい、アンジェ。あのクソジジイって、お前の『元仲間』なのか?」

「……そうだ」


「お前の仲間ってさ、『クソ野郎ばっか』じゃん」


 子供のように素直な感想だった。


「ぐぬっ! 言い返したいが……あの人は、典型的な性悪貴族だから何も言えない!」


 常に反抗的なアンジェが、なにも反論してこない。

 元仲間とはいえ、下着泥棒のジジイには色々と思うところがあるのだろう。

 まあ……元仲間に裏切られて、ぶっ殺されそうになってパンドラに逃げてきたって話だからな。


 人間関係が上手く行っていたはずはないよねっ!


「それはさておき! クラーケンをなんとかしねぇと、ヤバいぞッ!」

「う、うむ! その通りなのだっ!」


「おい、アンジェ! 自慢の怪力でクラーケンの足を引きちぎれッ!」

「あんっ! ぬるぬるしてぇん……力が上手く……出なひゃいっ!」


 なんだ、こいつッ!?

 いちいち無駄なエロを挟み込んできて、うぜぇッ!


「ふぉーふぉっふぉっ! 前々から、ええ体をしておると思っておったが……こうやって『触手責め』をしてみると格別じゃのぉ~。粘液まみれの触手に挟まれたお乳とおケツの谷間が際立つぬめぬめ感覚がたまらんわいっ!」


 こっちの性癖開陳ジジイも、うぜぇッ! つか、きしょいッ!


「ちょっ! やめっ……いやっ! ふ、服が脱げ……っ!」

「どうした~? 苦しいかぁ~? かつての救国の英雄が、クラーケンに責めたてられてスケベな醜態をさらすとは……栄枯盛衰とは悲しいものじゃなぁ~」


 うッぜえええッ!

 なんやねん、このドスケベジジイ!?


「ヅゥカウィのウィがウィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」


 出てくるなり、触手攻めで大はしゃぎしやがってッ! むっちゃ腹立つわッ!


「「ぬるぬるだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」」


 なぜか、アンジェのとばっちりで! 俺まで、タコの触手責めに遭うしッ!


「最悪だあああーッ! 勇者アンジェリカといると、俺の人生がダメになるーッ!」

「ならんっ!」


「関わる人が、みんな不幸になるッ!」

「なるかぁーっ! 言いがかりをやめろーっ!」


「そんなことよりッ! なぜ俺たちはッッ!」

「魚釣りに来ただけなのにっっ!」


「「クラーケンおよび巨大人喰いサメと戦っているのだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!」」


 最低にして最悪だ!

 だから、仕事なんてしたくなかったんだッ!

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