第102話 問答無用でお仕事開始!
「おい、嘘つきアンジェ……なんで、口の周りが食いカスだらけなんだ?」
店の奥から飛び出してきたアンジェは、なぜか口の周りが汚れていた。
「こらぁ、アンジェ! また盗み食いしてたやろーっ!」
「してないのだっ! ちょっと味見しただけなのだっ!」
見え透いた嘘をつく盗み食い娘だった。
「ほんま、お前はぁ~……開店前のしこみ中に盗み食いする。客に出す料理を持っていく途中でつまみ食いする。そのうえ、朝昼晩のごはんとまかないを大量に食う! このままアンジェを使っていたら、店は潰れてまうわっ! これ以上、食べるんなら出て行ってもらうでっ!」
「食い意地の張ったダメホステスめ、出て行けぇーっ!」
「黙れ、無職っ! 雇われ店長の癖に、働きもしないやつは黙っていろーっ!」
んだとぉっ! こいつは、どんだけ無礼なのだ!
「私は、絶対に! 出て行かないのだっ! お店を追い出されたら、もうメイ殿のごはんが食べられなくなってしまうからっ!」
「うちの料理を好いてくれるのは、うれしいけど……アンジェは食べ過ぎやねん。ほんまあかんよ。今この瞬間から、気を付けるんやで? わかった?」
アンジェは一般的な若い女と同じ体格をしているが、一日で『大型の獣と同じぐらいの飯を食う』ッ!
こいつの胃袋は人間のものではない! と大声で断言できるッ!
「メイ、甘やかすな! この大喰らいのせいで、スナックの売り上げの大半が『こいつの食費に消えている』のだ。今すぐにクビにしろッ!」
「クビは、いやだっ! やだあああああああああああああああああああああーっ!」
アンジェが大声を出して歯向かってくる。
「クビにされたくなければ、飯を食うのをやめろッ!」
「いやっ! メイ殿の料理を誰にも渡したくない! 全部自分で食べたいのだっ! 食べたい、食べたい、食べたいのだあああああああああああああああああああっ!」
大声での威嚇の次は、駄々っ子になるアンジェだった。
「なんて……卑しいやつなのだ! 食うなッ!」
「食べるっ! もぐもぐ!」
言ってるそばから、またなんか食ってやがる……!
「食うんじゃねぇつってんだろッ!」
「いやっ、いや。いや!」
「働かんでサボってばっかのダメ無職と、働くけど稼ぎ以上に食ってばかりいるダメホステス……お前ら、『問題児』二人とも、生活費ぐらいは自分で稼げっ! お前らみたいに常識のない連中は、一般人のうちでは養えんーっ!」
唐突に、メイがキレ散らかした。
「ええーっ! メイ殿に捨てられたら、どこにも行く場所がないのだーっ!」
「心配せんでも、おまはんらみたいな異常有害人物を野に放つような『反社会的行為』はせんわ」
「い、異常有害人物……私は、そんな風に思われていたのか……っ!?」
「そうや。そんなけったいなやつでも、心優しい美少女のメイちゃんは、お店に置いたる……せやから、恩に報いるために生活費を稼いで来いっ!」
自分に懐くアンジェにも容赦のない、極悪スナック経営者メイだった。
「稼ぐも何も、カツアゲを禁止された今、俺に稼ぐ術はないぞ」
などと俺が言うと、メイがにやりと笑った。
「心配ご無用やっ! 頼りになる美少女メイちゃんが、『ぼんくら』なおまはんらのために『仕事を用意したった』わっ!」
「「仕事おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~っ?」」
おいおい、勘弁してくれよ。
なんかしんねぇが、めんどくせぇことになってきたぞ……。
「おいたんと一緒に、漁に行って来いっ!」
「おいたん? 誰なのだ?」
「また、お前のしんどい親族かッ!」
メイがまーた、『ろくでもない親族と、めんどくさい仕事』を持ってきやがったッ!
「いやだ! 俺はどこにも行かん! なぜなら――」
「うちと一緒にいたいんやろ?」
メイが先手を打ってきた!?
「そうだ! お前がいる家から一歩も出たくないッ!」
ならば、すかさず便乗するしかないってばよ!
「心配せんでもええんやで、メイちゃん大好きっ子のフール君❤」
「なぜ、朗らかに微笑みながら俺の肩を叩く……?」
嫌な予感しかしねぇ……ッ!
「うちも一緒に行ったるかんねっ!」
メイちゃんスマイル、百点満点!
「やだああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
「なんでやねんっ!」
「わはは! ざまあみろ、フール! お前は労働から逃れられないのだっ!」
「アンジェ! お前もやっ!」
「やだああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「なんでやねんっ!」
「「やだああああああああああああああああああああああああああああああっ!」」
「じゃかましや! 問答無用でお仕事開始やでっ!」
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