第101話 カツアゲ禁止令!

「ホストのバイトの面接に行ってきた」


「やるやん。うち、フールのこと誇りに思うわ。なんでホストかはさておきやけどな」


 楽して稼げそうだからに決まっている。


「面接んとき、店長らしき前髪の長いチャラついたやつが、俺に『ホストの仕事は単に接客するだけではありません。簡単な会計や調理から難しい女心の理解とツケの回収まで、多岐に渡るんです。そんなホストの仕事で学べることは、なにがあると思いますか? また、あるとしたらそれは何ですか?』つってきたんで」


「つってきたんで?」


「『ないです。一切何もないです』つった」


 どんな職種であれ、労働で学べるものなどなにもない。

 仕事にまつわる人生訓など、奴隷に奴隷であることを自覚しないように洗脳する意味しかないのだからな。


「ほんで?」

「『帰れッ!』っつわれたから、帰ってきた」


「素直かっ! 働かんで、生活費どないすんねんっ!? 働かん居候を置いておけるほど、うちはお金持ちじゃないねんよっ!」


 エルフ耳を逆立てるメイが、銀髪を振り乱してキレ散らかす。


「落ち着きなはれ、メイちゃん。お金なら、ここにおまっせ」

「なんやねん、このお金は……? まともな勤め人の三か月分のお給金ぐらいあるやないか……?」


 メイが訝し気な目つきをしながら、俺がくれてやった金をマジマジと見つめる。


「この俺が、汗水たらして働いた金に決まっているだろう。他になにがあるってんだ?」

「……ホストをしばき倒して巻き上げた金ちゃうやろなぁ?」


 小生意気な娘だ……妙な霊感を発揮させやがってッ!

 圧迫面接してきたホストのクズ店長から慰謝料として徴収した金だと、なぜわかったのだ?


「違うよ。帰れって言われる前に、ホストとして働いたお給料……いや、『メイちゃんのため』に汗水たらして稼いだ金さ」


 バレると面倒だから、適当に誤魔化しておこう。


「うちのためって、ほんまなん……?」

「嘘などつかない。俺はいつでも、メイちゃんのために生きているのだ」


 そう言ってやるなり、メイが予想外なことを聞かされたような複雑な驚きを宿す顔をする。


「えっ……そ、そうやったの?」

「そうだ」


 不安げな上目遣いで見つめてくるメイに、強い返事をする。


「それはさておき、フール……服のところどころに『血痕』があるんやけど?」


 はうあ!

 ホストどもから慰謝料を徴収する時に、ついた返り血かッ!?

 バカ女を騙すことしかできんゴミどもが、この俺に面倒をかけやがってぇ~っ!


「メイちゃんに早くお金を渡したくて急いで帰ってきたせいで、転んでしまったのっ! そのときの血ってワケ!」

「ほ~ん……かわいいところあるやん」


 ふっ。簡単に丸め込まれおって。

 大人ぶってはいるが、しょせんはガキよ。

 この偉大なる魔王様の人心掌握術をもってすればイチコロってワケ!


「金は他人の心と体を引っぱたいて、時間と富を略奪する道具だ。貯め込んでもすぐにゴミになる。上手に使え」

「イキってなに言ってっか、よくわからんけど……今月の生活費として、ありがたくもろとくわ。それはそれとして、生意気なホストをしばき倒すのは楽しかったか?」


「おうよっ! ストレス発散にもってこいだったぜっ!」


 ……あっ。


「おいいいっ! お前、やっぱりカツアゲしとるんやんけええええええええーっ!」

「うるせぇ! 女騙して金巻き上げてる悪人から、金巻き上げったっていいだろッ!」


 正論だ。

 反論の余地などない。


「悪人ちゃうやろ! 性格が悪いだけのただの一般人やっ!」

「いたいけな女の子を騙すやつが悪人じゃないと言うのならば、それはメイちゃんが間違っているよ」


「じゃかましや! その理論やったら、『うちを騙して、人知れずわけわからんカツアゲに勤しんでるお前が、一番の悪人』やーっ!」


 ええーっ!? ぽ、ぽれが……悪人ーっ!?

 フン。この魔王を、凡愚どもの善悪で判断しないでほしいね!


「うるせぇ! 全部、お前のためなんだよ! お前のために、俺の手は血まみれよ!」

「なんでやねんっ!? うちのためとか言いやがって、絶対そんなんちゃうやろっ!」


「黙れ。ちゃうことなどなにもない。すべてお前のため……いや、メイちゃんのせい!」

「じゃまかしい、人のせいにして居直るな! カツアゲは、もう禁止やーっ!」


 カツアゲ禁止……だと……!?


「そもそも、カツアゲなどしていない。悪いやつらが襲いかかってくるので、その『迷惑行為に対する慰謝料をもらっているだけ』だ」

「誤魔化すな、知っとるんやぞ! 悪そうなやつを見つけるなり、手あたり次第にカツアゲしやがってよぉっ! 街の悪い連中に恨み買ったらどないすんねんっ!」


「問題などない。そいつらをしばき倒して、慰謝料と迷惑料を徴収すればいい。恨みを買えば買うほど収益増ってワケ!」


 偉大なる魔王様に歯向かう無礼者など、誰彼問わずしばき倒せばいい。

 本来は死でもって罪を償わせるところを、慰謝料の徴収だけで見逃してやっているのだ。

 嗚呼! 魔王様はなんて慈悲深いのだろうッ!


「やめろ! 暴力で回すバカの経済理論を思いつくなっ! おまはんのせいで、メイちゃんはそのうち、街を歩けなくなるでっ! 怖いわ、恐怖のあまり泣きそうや!」


 キレ散らかしながら泣き真似をする器用なメイだった。


「こわかったら、俺を用心棒に雇えばいいさ。勇猛果敢な魔族だぞ? メイちゃんに襲いかかるやつらは、一人残らずしばき倒してやるよ」


「だ・か・ら! それをやめろっちゅーとんじゃっ!」


 なんでやねん。


「安心しろ。俺の部下には、自分を勇者と思い込んでいる凶悪で凶暴な殺人鬼もいる」


 などと言うなり、アンジェが店の奥から飛び出してきた。


「ふんぬーっ! 誰が凶悪で凶暴な殺人鬼だ! 私は清楚で優しい勇者だーっ!」

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