第93話 熱血指導からの戦闘開始!
「あがががっ! お師匠様に『勇者を続けたいのならば、パンドラに行け』と言われて、世界の果ての島パンドラにまで逃げ延びたが……やはり、国に戻って復讐するべきだったのではないのか……っ!?」
「やだ、こわい……狂気と復讐に憑りつかれてるッ!?」
それはともかく!
こんなところで、アンジェに戦線離脱されるのは……非常に困る。
なんとかせねばッ!
「落ち着くのだ、勇者アンジェリカよ!」
「復讐するべきだったのではないのくぅわああああああああああああああああっ!?」
「落ち着けェェェーッ!」
体罰を用いた教育的指導……ガチビンタを叩き込むッ!
「ぎゃぼおーっ! なにをするのだーっ!?」
「目を覚ませェッ! お前は、偉大なる魔王カルナインを討ち取ったほどの強く、逞しく、勇しき者……勇者アンジェリカだッ! 過去の屈辱などに惑わされるな、今を直視し、明るい未来を想像しろォーッ!」
「はうあ! そ、そうだ……私は、『勇者』なのだ……しっかりしなくてはっ!」
発狂していたアンジェが、俺の熱血指導によって我に返る。
馬鹿ゆえに、立ち直りが早くて助かる!
「いや、待て! なぜだ!? なぜ、魔王を倒して世界を救った私が、こんな目に遭わねばならんのぅだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!?」
ああ、もうっ!
面倒なやつだなぁーっ!
「悔やむのはわかるが、人生はままならんものだ。過去の後悔は、水に流せ」
「ふざけるな、水に流せるかっ! かつての仲間に裏切られたせいで、島流しに遭っているのだぞっ!」
じゃまかしい! 上手いことは言わんでええんじゃ!
「聞けィーッ! お前の現状は、確かにしょっぱすぎるほどしょっぱい! だが、かつて『勇者としてならした実力』は、場末のスナックのぽんこつホステスと成り果てた今も健在だッ! ここで屍胎骸を滅することができれば、お前は名実ともに……」
「はうあ! 『みんなに愛された勇者に返り咲ける』……ってことっ!?」
みなまで言わないことで勝手に先を想像して、やる気になってくれた。
「そういうコト! いくぞ、勇者アンジェリカ!」
「応! ベアトリクス隊長殿! 剣をお借りするのだーっ!」
俺の言葉に鼓舞されてやる気になったアンジェが素早い行動力を発揮して、腰を抜かしているベアトリクスから剣を奪う。
「ま、待て……嬢ちゃん! 屍胎骸は、剣なんかじゃ倒せないぞっ!」
屍胎骸ごときにビビり散らす腰抜けのべアトリクスが、興を削ぐ。
この馬鹿たれがァーッ!
うちのアンジェのやる気がなくなったら、どうしてくれるんでいッ!?
「喝ーッ! しょうもないことを言うな、この腰抜け半裸女騎士がァァァーッ!」
「なんだとっ!? 誰が、腰抜け半裸女騎士だーっ!」
「よく、見てみろ。屍胎骸を前にして、あの勇ましさと落ち着きぶりだぞ。数え切れぬほどの死線を潜り抜けてきた証拠だ。必ずや、屍胎骸を駆逐してくれるッ!」
べアトリクスを黙らせてから、アンジェをさらに鼓舞する。
「そうだよなッ!? 我らが、『勇者』アンジェリカ!」
「その通りだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
やる気満々のアンジェが、剣を構えて屍胎骸に襲いかかる!
「嬢ちゃん! 『剣はダメだ』つってんだろッ! トロール自体が通常の武器が通じないほど堅い皮膚なのに、屍胎骸化して肉が腐っている! 『斬ろうとしても刃が滑るし、剣を刺したら抜けなくなる』! 無理に刺したら、抜くときに腐った肉がからみついてきて、剣を持っていかれるぞッ!」
「心配ご無用っ! 私の剣技にかかれば、斬れぬものなどないっ!」
自信満々のアンジェが、得意げな顔をべアトリクスに向ける。
「『斬れちゃダメ』なんだよッ! 屍胎骸を傷つけると、腐食性の黒い血が出る! その黒い血に触ると、体が腐るぞッ!」
「ぬっ! では、どうすればいいのだっ!?」
アンジェがなぜか、べアトリクスではなく、俺を見てくる。
「『すぐに酒か海水で洗えば、なんの問題もない』。さっき、俺が熊の魔獣に噛まれた時に、酒で洗い流していただろ? そんで、『今もなんの異常もない』」
「うむ……確かに……」
「それに、『生きているのならば』、汚れた血に多少触れた程度では、なんともならん。あれは、『死体に取り憑くもの』だからな」
……やれやれ。
やはり俺は、どこまでいっても、魔王なのだな。
世俗を離れて隠居生活を送ってはいても、凡愚どもが助けを求めずにはいられない『愛しさ、せつなさ、そして心強さ』が、隠していてもなお滲み出てしまうようだ。
「本当かっ!? 嘘ついてないよなっ!? 嘘つきは、許さないぞっ!」
人を信じる心を持たないと思われるアンジェが、疑わし気な目つきで見つめてくる。
「俺を信じるか信じないかは、お前次第だ。いちいち、無意味な質問をするな」
「なにぃっ!? なんだ、その優しさがなくて棘のある言い方はっ!」
アンジェが口を尖らせて不満げな顔をする。
「なんだ? この俺に、『信じろ』とでも言ってほしかったのか?」
「その言い草……お前も、『私を騙して裏切る』つもりなのか……?」
こいつ……かつての仲間に裏切られた傷を癒そうとして、この俺との信頼関係を求めているのか?
意味が解らん。そもそも、俺は敵だぞ?
マジな話。こいつのなかで、俺はどういう存在なのだ……?
「そんなことより」
「はぐらかすなっ! フール、質問に答えろっ!」
めんどくせぇ小娘だな。
俺は、理解のある彼君じゃねぇんだぞッ!
「騙すつもりも、裏切るつもりもない」
「本当かっ!?」
「嘘などつかん。なぜならば、俺の目的は、『お前に屍胎骸を撃滅させること』だからだ」
「むぅ……そうか……」
しょぼんとするな。どういう感情なのだ?
まぁいい。話を続けよう。
「屍胎骸は、命を持たぬ疑似生命体……剣で刺殺したり、拳で撲殺するなどの『生き物に対する殺し方では殺せない』」
「じゃあ、どうすればいいのだっ!?」
「屍胎骸は殺せないが、滅ぼせないわけではない。奴らを『破滅させる手段はいくらでもある』……ッ!」
「まどろっこしい! 破滅させるには、どうすればいいのだっ!?」
せっかちなやつだ。
「宿主の肉体を破壊すれば、屍胎骸は死体の体を動かしたくても動かせなくなる」
「具体的には、どうすればいいのだっ!?」
「宿主のトロールの頭に、石をぶつけてやれェェェーッ!」
アンジェが足元に転がるスイカぐらいの大きさの石を掴み……。
「くらえええええええええええええええええええええええええええええええーっ!」
屍胎骸めがけて、思いっきり乱暴に投げるッ!
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