第91話 ジジイ、愛ゆえに死す!?
「よく見ろ、馬鹿ども! お前らの唾棄すべきわがままで、この俺を無理矢理働かせようなどとするから、天罰が下ったのだッ!」
俺はいつでも、正論しか言わない。
なぜなら、偉大なる魔王様は常に正しいからだ。
「ごらァッ! ごく潰しがァッ! 他人事みてーに言ってんじゃねぇぞォーッ!」
「お、おじいはんっ! 喧嘩してないで、助けてーやっ!」
メイが泣きそうな顔で、ジジイにすがりつく。
「ほら、ジジイ。貴様のかわいい孫娘が助けを求めているぞ? 拳を高く掲げて突撃しろ! 屍胎骸を倒して、孫娘を救ってやれ。かわいいメイちゃんを守るんだろ?」
「ドあほうがァッ! 優しくてかっこよくて、女の子にモテるだけが取り柄の素敵なお年寄りが、屍胎骸と戦えるわけないじゃろうがァッ!」
ジジイめ……。
ほんと、自尊心だけ肥大した誇大妄想狂の口ばっかりクソ老害なんだな。
「情けねぇこと言ってないで、かわいい孫のために頑張れよ。『偉大なる治癒魔法師様』がおられるから、ちょっと死んでも生き返らせてくれるって」
「ちょっと死ぬってなんじゃッ!? 死んでいいわけあるかァッ! それ以前に、屍胎骸に殺されたら、わしまで屍胎骸になってしまうじゃろうがァーッッッ!」
「それもさ、偉大なる治癒魔法師が『浄化』してくれるから、安心だって! 平気、平気! 問題ねぇって!」
「フール。さっきから言ってる『偉大なる治癒魔法師様』って、誰やねん……?」
メイもメイで、こういう修羅場的な状況に慣れてないのか、いつもの数倍頭の回転が悪くなっている。
「聡明で利発なメイちゃん、僕の話がわからないのかい?」
「わからんわ。フールの話は、いつもわけわからんわ」
なんでやねん。
「君だよ、君。メイちゃん、君が『偉大なる治療魔法師様』だよ! 治癒魔法が使えるんだから、『蘇生』ぐらいできるだろ?」
「できるかっ! 魔法学校中退のうちが、そんな超高等魔法使えるわけないやろっ!」
「グブヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
まずい!
屍胎骸が近づいてきている!
これ以上、近づかれる前に逃げなくてはッ!
「中退でも、火事場の馬鹿力でなんとかなるだろ? 頑張りなよ、じゃあなっ!」
「フール、待てえええええええええええええええええええええええええええーっ!」
別れを告げて逃げ出すなり、メイが結構な速さで追いかけてきやがった!
「ああっ!? メイちゃんったら、足が速いっ!」
「待てえええっ! なんで、『うちを守る契約』をしといて、自分だけ逃げんねんーっ!?」
「死にたくなかったら、お前も逃げろ!」
「こらぁーっ! うちを置いて、自分だけ逃げなああああああああああああーっ!」
俺を追ってきたメイが、ぬかるみに足を取られてずっこける。
「ぎゃあ! フール、見捨てんといてっ! 『たすけて』ええええええええーっ!」
「おまっ! やめろ! ここで、『契約の言葉』を言うんじゃないッ!」
「言うわっ! ここで言わんで、いつ言うねんっ!」
ずっこけるなり、すぐさま俺を操ろうとしてくるメイだった。
恐ろしいガキだ! さすが、魔女の血を引く邪悪小娘よ!
「くそ! こんなことになるなら、メイなど無視してさっさと帰るべきだったッ!」
「なんでやねんっ!? 普段、働きもせんと遊び歩いとるんや、『いざという時に』うちを守らんで、どないすんねんっ! そんなもん、ただのクズ野郎やんけーっ! お前は魔族のクズや、うちが魔王やったらお前を処刑しとる場面やーっ!」
「ねぇ、メイちゃん? なんで、そんな酷いこと言うの?」
やれやれ。ほんとうに、口の達者な小娘だよ……。
「それはさておき」
「さておくなやっ! た・す・け・ろおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
やはり、仕事などするべきではない。
不幸と苦労ばかりに巻き込まれて、人生がズタボロになってしまう!
「グラァッ!」
急接近してきた屍胎骸が、逃げ遅れたメイに襲いかかったッ!
「メイ! 逃げろッ!」
「に、逃げろって!? あ、足が動かへんよ……っ!」
マズいな……!
ぬかるみに足を取られているうえ、恐怖で腰を抜かしてやがる。
「いや! メイちゃん、死なないでええええええええええええええええええーっ!」
「いや! 『助けろ』やあああああああああああああああああああああああーっ!」
できるだけふざけることで、破滅が勢いづくのを防いじゃいるが……。
「マジでやばいかもな……」
ここらで冗談はやめて、助けに戻ってやらんと――。
「グルヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
だが、間に合うかッ!?
「かわいい孫を守るのが、わしの務めじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいッッッ!」
屍胎骸の腐った手が、メイを捕らえる寸前――
「お、おじいはんっ!?」
ジジイが大胆にも、メイの前に飛び出して身を挺して庇ったッ!
「グボヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァーッ!」
男気を発揮したジジイを、屍胎骸が全力で殴るッ!
「グハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
人間にしては、かなりガタイがいいジジイだが、相手は小さな城ぐらいのデカさのトロール――しかも、屍胎骸と化して、『身体能力の限界で暴れる』やつに殴られたら……流石に無事では済むまい……。
「か……カハァッ!」
攻撃を喰らったジジイが、盛大に血を吐いて倒れる。
やった! とうとう死んだかッ!?
「わしを、殺してもォ……人類は負けないぞッ! 人間を甘く見るなよォォォッ!」
「げぇーっ! クソジジイのくせに、異常なほど気合が入ってるぅぅぅーッ!?」
殴り飛ばされたジジイが、無駄に壮絶な感じでぶっ倒れる。
「それはさておき……やっと、死んだか。これで、世界が少し平和になるな!」
つうか、なんでジジイは、生意気にも人類の代表面をしてんだよ?
「おじいはんっ! しっかりしてぇぇぇーっ!」
泡喰ったメイがジジイに駆け寄り、涙ながらに抱きかかえる。
「ジジイは人間の屑だったが、愛する孫のために命をなげうって最期の善行をしたのだ。好きなだけ看取ってやるがいい」
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