第90話 ないないばっかでキリがない
「ないないないって、仕事する気あんのかッ!? ただ頑張るだけで上手くいくほど、仕事は簡単じゃねぇんだよッ! テメーら無能老害は、労働と苦役を同一に扱って、仕事っつーもんがまるでわかってねぇッ! そんな凡愚の癖に、この俺を働かせようとしやがって! 結果、これかよ! お前ら全員、死ねばいいのだァァァーッ!」
ここぞとばかりに、正論と文句を叩きつけてやるッ!
「他人に仕事しろと言うのならば、『仕事ができる環境と道具を用意しておく』のが、最低限の雇用者の『義務』だろうがァーッ!」
「黙れッ! ごく潰しがァッ! 無職のお前に、仕事のなにがわかるッッッ!」
けっ! 論破されてキレ散らかすことしかできないのかよ。
やはり、老害。有害すぎるから、さっさと死ぬべき存在だ。
「ふ、二人ともっ! 喧嘩してないで、屍胎骸を何とかしてよぉぉぉーっ!」
ゲドゲドの恐怖面のべアトリクスが、腰を抜かしたまま俺に助けを求めてくる。
はぁ……さっきまでの威勢の良さは、どこに行ったんだよ?
「べアトリクス隊長。魔獣狩り用に、『ミスリルの弾丸』だの『魔法がかけられた銃弾』だの持ってきてんだろ? さっさと出してくれ」
「そんな貴重品、ドラゴン退治でもないのに持ってきてるわけないじゃんっ!」
そう……。
「あはは! 全滅ざまァ! 夢と希望を胸に抱いて勝ち組人生謳歌していた老害、ご愁傷さまァッ! この俺を顎で使っていた傲慢ちきな女上司、さようならァーッ!」
この偉大なる魔王に舐め腐った態度をとる無礼な馬鹿どもに、ふさわしい末路だ。
「あばよ、性根の腐った人間の屑ども。せいぜい、苦しんで死ぬがいい。屍胎骸になったら、油ぶっかけて焼き殺してやるよ」
仕事をする気のないクズどもが破滅するところを見届けてやってもいいが……。
「グルヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
生憎と、そんな暇はないようだ。
クズどもなんぞ無視して、さっさと逃げさせてもらう。
こんなところで、俺の平穏なる隠居生活を終わらせたくはないからなッ!
「フール! 自分だけ逃げんと、なんとかしたってよっ!」
げっ、メイッ!?
すっかり、忘れていた……。
今日の仕事場には、『枷』であるメイがいたのだった……。
「メイちゃん、一緒に帰ろう。こんな危険なところにいてはいけないよ」
とはいえ、『一緒に帰宅すればいい』だけの話。
こいつを守るために、わざわざ危険に立ち向かう必要などないのだ。
危険に立ち向かうなど、危機管理のできないイキった馬鹿のすることよ。
賢い魔王様は、危険からは速やかに逃げるのさ。
「か、帰るって……どーゆうことや?」
「帰ると言ったら、決まっているだろう? 『お家に帰る』のだよ」
「なんでやねんっ!? この状況で帰れるわけないやろっ!」
「それ、あなたの感想ですよね? メイちゃんになんと言われようとも、俺は帰る」
「なにぃっ!? どんだけ、強い意志で帰りたいねんっ!」
「そもそもの話として。金も名誉も手に入らないのに、強制肉体労働させられている俺が、ムカつくやつらに巻き込まれて危険な目に遭うのは間違っているのだ」
正論で論破してやるなり、メイが何かを言おうと口を開いた。
おそらく……いや、十中八九、俺の気持ちなどお構いなしに、『助けて』と言うつもりだろう。
「フールっ! うちを、たす――」
そんな邪知暴虐が、まかり通ってたまるか!
「言わせねぇよッ!」
「むごむぐっ!?」
魔王様奥義! 疾風迅雷・口封じッ!
「メイちゃん。今回の魔獣退治には、責任者がいるのだ。下っ端労働者の俺には手に負えないような業務外の厄介事は、責任者殿にやってもらおうではないか?」
「やめーや、口から手を離せっ! 責任者って、誰やねんっ!?」
やれやれ、察しの悪い小娘だよ。
「偉大なるパンドラ騎士団の将軍殿であらせられる『メイちゃんのおじいちゃま』に、任せようつってんのっ!」
「あかんって! おじいはん、『フールにしばかれるぐらい弱い』じゃんっ!」
まいったな。
正論で論破されてしまった。
「メイちゃん!? おじいちゃんのこと、そんな風に思ってたのッ!?」
「ふははは! ざまぁないな、くそジジイ!」
「貴様ァッ! ことあるごとに、わしの仲良し家族をかき乱すなァーッ!」
自業自得なのに怒り狂いだしたジジイが、猛然と掴みかかってきた。
「今日こそは、ぶっ殺してやるゥゥゥーッ!」
「殺すだと? 死ぬのは、貴様だ」
「なんじゃとォ~ッ!?」
「仕事などと適当なことを言って、『この俺を強制的に魔獣討伐に連れ出し、良からぬことをするつもりでいた』のだろう?」
「な、なにィ~ッ!? な~んで、『仕事と偽って山で秘密裏に殺処分しよう』と計画してたことを知っとるんじゃあーッ!?」
……やはり、ろくでもないことを企んでいたか。邪悪なクソジジイめッ!
「ちょっと、おじいはんっ! なに考えてんのっ!?」
「メイちゃん、誤解せずに聞いてくれェッ! これは、『かわいいメイちゃんを悪い男から守るため』なんじゃあァァァーッ!」
なんて、忌々しい老害なのだ。
存在が『悪』そのものだと断言できるッ!
「愚かで邪悪なジジイよ。貴様の『フール君暗殺計画』は頓挫した。なぜならば、貴様を筆頭に、ここにいる馬鹿どもは、『みーんな死ぬ』からだッ! ふはははッ!」
俺が笑うと同時に、背後で屍胎骸が咆哮した。
「グブヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
猛る屍胎骸が、口から黒い血を吐き散らしながら咆哮を張り上げる!
そして、木々をなぎ倒しながらゆっくりと、しかし確実に、こちらに狙いを定めて近づいてくる――。
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