第82話 ギャン泣きからの魔獣登場!
「な、なぜ泣いているのだ……ッ!?」
「うぇ、ぶえぇ、ふえええん、うぇうぇっ! ぶえええん! うぇぶえええん!」
鼻水をたらして泣きじゃくるアンジェが、この俺に何かを必死に訴えてくる。
「……なに? 誰も知り合いがいないのに、危険な魔獣のうろつく山のなかに置いて行かれたら、寂しいし不安だし死んでしまう――だと?」
「うぇ、ぶえぇ、ふえええん、うぇうぇっ。ぶえええん。うぇぶえええん!」
「だから、勝手に帰ろうとする俺を銃を撃って足止めしただと?」
「……うん」
子供のように泣きじゃくるアンジェが、こくりとうなずく。
「……俺を撃ったのは、殺すつもりではなかったのだな?」
「うん……フールを殺したら、私は山にひとりぼっちで取り残されてしまうじゃないか……」
こっわ!
なんだ、こいつの思考!? 完全に頭がどうかしているぞ!
っていうか、こいつ!
やっぱり、俺のことを友達かなんかだと思ってる節がねぇか?
「ふざけるんじゃねぇッ! 当たったらどうするつもりだったんだッ!?」
「だってぇ~、怖かったんだもん……っ! 見知らぬ土地で、見ず知らずの人ばかりのなかで、暗い森のなかには人喰い魔獣もいて……うぅうぇ!」
「だってじゃねぇんだよッ! 銃弾が当たってこの俺が死んでたら、どうするつもりだったんだッ!? 答えろッ!」
「……らない」
「そうなったら、本当に貴様は一人きりなっていたのだぞッ! ちょっと考えれば、わかることだろうがッ! この馬鹿たれがああああああああああああああァーッ!」
アンジェがどうしようもなさすぎて、馬鹿なガキを叱っている気分になってきたぞ。
そもそも、魔族をぶっ殺しまくってきた勇者が、こんなことでビビんなよ。
「当たらない」
「はあ? さっきからなんだ? なにが、『当たらない』んじゃい!?」
ズダン!
突然、アンジェが銃をぶっ放したッ!
「うわっ!? 何考えてんだ! やっぱり、殺すつもりじゃねぇかッ!」
「頭」
「頭だと? 俺の頭を狙ったのかッ!?」
銃撃に驚いて咄嗟に体を動かしていなかったら、頭をぶち抜かれていたということか……ッ!?
な……なんて、危険なやつなんだ……! 油断も隙もねぇッ!
「それ……」
鼻をすするアンジェが、俺の頭の上を指さす。
すると……なにかが、ぼとりと足元に落ちてきた。
「……蛇?」
足元に落ちてきたのは、蛇の死体だった。
しかも、頭がない。
小さな蛇の小さな頭だけが、器用にぶち抜かれている……。
「剣ほどではないが、銃も得意なのだ……狙ったところなら外さない」
得意なんてもんじゃない……ッ!
目にもとまらぬ速さで銃を構えて、即射撃、即射殺。
そして、あんな小さな蛇の、小さな小さな頭だけを正確にぶち抜いた……。
「っていうか、何の意味もなく蛇を殺戮するとか、やることがまともじゃないッ!」
「それは……毒蛇だ」
なにっ! 毒蛇だと!?
「……助けてくれたのか?」
「うん」
「やだ……やさしい」
「うん」
いずれにせよ……!
「撃つ前に言えッ!」
「蛇が噛みつく前の呼吸をしていたのだ……言ってたら、噛まれてた」
へ、蛇の呼吸!?
こいつ、鼻水を垂らして泣きじゃくるという完全なるバカ娘ながらも、五感が極限まで研ぎ澄まされ、人の範疇を超えている!
やはり、腐っても勇者ッ!
「それはともかく! 外さない、じゃあないんだよ! 無意味に生き物を殺戮しやがって、血と死の臭いで魔獣を呼び寄せちまうかもしれねぇだろうがッ! 万が一、こっちに来たらどうするんだッ!?」
「万が一? もっと可能性はあるぞ……」
「なにぃ~っ?」
「なにせ貴様が、『私に魔獣をおびき寄せる臓物をぶっかけた』のだからなぁーっ!」
アンジェがこの俺を咎めるようなことを言って、鋭い目つきで詰め寄ってくる。
「臭ぇーんだよ、近寄るなッ!」
「臭いから近寄るなってなんだっ!? 私は、お前の命の恩人だぞっ! 口を慎めっ!」
「やめろ、空気を切迫させるなッ! ただでさえ、『血と死の臭い』が充満しているのだ、破滅が近づいてくるだろうがァーッ!」
アンジェを叱りつけるなり、藪の中から『デッケェなにか』が、飛び出してきやがったッ!
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
さ、最悪だ……ッ!
バカの流れだったはずなのに、一瞬にしてヤバい流れになってしまった……ッ!
「わあっ!? 魔獣なのだーっ!」
「げぇーっ! マジで魔獣が出やがったーッ!」
俺に破滅をもたらした勇者であるアンジェと一緒にいると、確実にろくでもない不幸と災いに巻き込まれてしまうッ!
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