第78話 ワクワクドキドキ☆ 楽しい魔獣討伐! 開始!

「ぼぶふぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


「げええーっ! アンジェがまた吐きやがったァーッ!」


 アンジェのバカが酒を逆噴射するッ!


「あーっははは! サラマンダーを漬け込んだ本物の火酒の味はどうだいっ!」

「わだじは、酒が飲べな……ぼげええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」


 アンジェが吐いた酒の雨が、俺の頭上に七色の虹をかける。


「最悪な職場だ! 今すぐに! 家にがえりだあああああああああああああいッ!」


 頭上に虹がかかるなり、俺は帰宅願望が爆発して思わず泣いてしまった。


「貴様らァッ! 遊びはそこまでだッ! ただちに、戦支度をしろォーッ!」


 メイのジジイが唐突に、俺たちの背後に現れた。


 ジジイの背後には、物々しい雰囲気の十数人の男女がいる。

 そいつらは、みんな手に猟銃を持っていた。


 どうやら冗談じゃなく、マジで魔獣討伐の山狩りをするつもりみてーだな……。


「はぁぁぁ~……むっちゃしんどぉ~……」

「フール、やる気出せ! 魔獣退治の前からヘロヘロになってるやないかっ!」


 ジジイと一緒に指令所を設営していたメイが、トコトコとやってくる。


「メイちゃん……ここにいてはいけないよ。ここは地獄だ、おうちに帰ろう」

「なんでやねん!? まだ仕事は始まってすらおらんやろ! しっかりせんかいっ!」


 メイは無意味に怒鳴るなり、俺に猟銃を押し付けてきた。


「なぁに、これ?」

「おまはんの『銃』や。しっかり、魔獣を狩るんやでっ!」


 それから、アンジェにも猟銃を持たせる。


「はい、アンジェも」

「あ、ありがとうなのだ……」


「アンジェよ、当たり前のように猟銃を受け取っているが……お前、銃は使えるのか?」


 脳筋のこいつが、文明の利器を使えるとは思えないのだが……。

 果たして……。


「武器ならば、石つぶてから魔導式機関銃、古代の神器までなんでも使えるぞ」


 メイから猟銃を手渡されたアンジェは、手慣れた仕草で標準器やら引き金やらの動作の具合を確かめている。


「さすが、元勇者様。殺しの道具ならなんでも使える、と」

「なんだ、その言いかたはっ! 人を、殺人鬼みたいに言うなっ! 私は勇者だぞっ!」


 などとやっていると、ジジイが人を集めてなにやら大声で話し始めた。


「諸君、注目ゥッ! 我ら、パンドラ国の民はァッ! 自由と自主を重んじるが、有事には皆が一致団結して、困難に果敢に立ち向う勇猛果敢なる民であーるッッッ!」


 台の上に乗ったジジイが、この場に集めた連中に向かって語りかける。


「残念ながら若干名、酒臭い息を吐いている者もいるが……あくまで、皆の心を一つにして、被害に遭われた方を追悼するとともに、人を喰らう魔獣を駆除するぞォッ!」


 ジジイが拳で天を突くなり、べアトリクスたちが同じように拳を突き上げた。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」」」


 うっさ!

 パンドラ人どもは、どいつもこいつも声がでけぇんだよッ!


「先日の雨で、山の土が泥になっていると思われる! 当然、川も増水しているだろう。魔獣を退治しようと血気盛んになるあまり、怪我などせぬように十分に注意しろッ! また、討伐作戦に志願された勇敢な猟友会のみなさんにおかれましては、前線には出ず勢子として、わしとともに後方で獣を追い込んでもらう――」


 話が長げええええええええええええええええええええええええええええええ~ッ!

 ジジイは、いつまでくっちゃべってんだよッ!?


「ぐーぐー……むにゃむにゃ……もうお肉は食べられないのだぁ……」


 アンジェっ!? この状況で居眠りだとっ!?

 なんて肝っ玉の据わった馬鹿なのだっ!


「先日、魔獣に襲われた被害者の証言により、討伐対象は判明しているッ! 我ら討伐隊の目標はッッ! 『片耳の欠けた熊型の魔獣』なりッッッ!」


 やっと、しょーもない話が終わったか?


「では、討伐開始いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!」


 どうでもいい長話が終わるなり、ジジイのクソデカ合図で魔獣討伐が開始された。


「よっしゃっ! 『赤狼遊撃隊』出撃するぞッ!」


 マントを翻すべアトリクスが、どこからか連れてきたデカい狼にまたがる。


「よし! 帰ろう!」

「おい、ごく潰し! どこへ行くつもりだッ!?」


 目ざといべアトリクスが、こっそり帰ろうとしていた俺に気づきやがった。


「どこって、家に帰るんだよ」


「ごらァッ、ごく潰しィッ! 和を乱すなァッ! お前はべアトリクスの『荷物持ち』をしろォッ!」


 ジジイが台の上から、文字通り上から目線で命令してくる。


「知ったことではないし、こちらには銃があるんだ。言葉に気を付けろ」


 愚かなジジイに猟銃を突きつけ、しっかりと脅す。


「おい、やめろォッ! こっちに銃口を向けるなァーッ!」

「撃たれたくなきゃ、くせぇ口を閉じて黙ってな」


 そして、速やかに帰宅する。


「あばよ、カスども。お山で動物とのふれあいを楽しんでいたまえ」


「ごく潰しがァッ! 戻ってこんかァァァいーッ!」

「フール、なにしとんねんっ!? 真面目に仕事せいやーっ!」


 この偉大なる魔王に労働を強いる大うつけどもが、何かをわめいている。


 だが、当然のように無視。

 なにが悲しくて偉大なる魔王様が、下民の荷物持ちなどせねばならんのだ。


「べアトリクス! そのごく潰しに、しっかり仕事させてこいッッッ!」

「了解ッ!」


 突然、襟首を何者かにグイッと乱暴に掴まれた。

 なぜか、体が宙に浮く!?


 とっさに後ろを見ると、やたらとデカい狼が俺の襟首を噛んでやがった!?


「なにっ! べアトリクスの狼だとッ!?」

「ごく潰し、いくぞッ! ベアトリクスお姉ちゃんと一緒に、楽しい楽しい魔獣討伐だッ! 将軍直々に派遣されたお前の力を見せてみろッ!」


 無駄にやる気に満ちているべアトリクスが、威勢よく狼の脇腹を叩く。


「さあ! 『赤狼遊撃隊』出撃だあああああああああああああああああああーッ!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」


 次の瞬間、俺は無理矢理、山に拉致されたッ!


「ちょっ! おいッ! マジかッ!?」


「フール! お仕事、頑張るんやで~っ!」


 メイが手を振って、俺を労働という名の地獄に送り込む!


「いやだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

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