もう、魔王やめた! 無職魔王は働かない。~魔王なのに反逆されたので、同じく戦友に裏切られた勇者を仲間にして逆襲する……隠居しながら! ろくでなし魔王の自堕落で騒がしいほのぼのスローライフ!?~
第77話 アゲアゲ~☆ 赤狼遊撃隊さいきょーっ!
第77話 アゲアゲ~☆ 赤狼遊撃隊さいきょーっ!
「『赤狼遊撃隊』は、ベアトリクスが頭の不良集団みてーな奴らだし、ダメかもな」
「おい! 魔獣といえば、手練れの騎士や冒険者すら喰い殺す危険な存在なのだぞっ! 街の荒くれ者が、どうこうできるわけないだろっ!」
アンジェは、胸中に渦巻いているであろう不安を露骨に顔に出した。
「まーまー、アンジェちゃん、落ち着きなはれ。隊長のべアトリクスはんは、『赤狼』とか呼ばれとる名のある立派な女騎士様やさかい、魔獣退治ぐらい朝前でっしゃろ」
「なんとっ!? 狼の背に乗り戦場を駆ける赤髪の女騎士『赤狼』っ! 多くの輝かしい武勇をもって知られるパンドラ王国の若き強者ではないかっ!」
ベアトリクスの二つ名を聞くなり、アンジェが目を丸くしておったまげる。
ただのアゲアゲ半裸ギャルが、武勇伝を持つ『つわもの』ねぇ~。
「へぇ~、良く知ってんな……なに? あいつってば、外では『ゆーめいじん』なの?」
ただの馬鹿だと思っていたアンジェの意外な博識さおよび、世界の果てのツッパリ蛮族女が持つ謎の知名度に、少々驚きを覚える魔王様だった。
「先の戦争でも大活躍したではないかっ! 当事者のお前が、何で知らないのだっ!?」
「なんでもなにも。取るに足らない下々の雑兵のことなんて知るかよ」
などとやっていたら、不意にアンジェがベアトリクスに話しかけた。
「あの……ベアトリクス隊長殿。仕事が始まる前に、質問をしてもいいですか?」
「どうした、嬢ちゃん? あーしに、なんでも聞いてくれよっ!」
どこからか酒瓶を取り出したベアトリクスが、仕事熱心なアンジェに応じる。
「この魔獣討伐任務の計画は、どうなっているのですか?」
「おい、お前ら聞いたかよ? 『計画』だってさっ!」
べアトリクスが、そこら辺にたむろしているチンピラそのものの部下どもに声をかける。
「わはは! なんスか、そりゃ?」
「おいおい~。俺らがやるのは、魔獣退治だぜ~?」
「きゃはは! 面白ろいこと言うじゃーん、計画だって! ウケる!」
すると、奴の部下たちが一斉に豪快な笑い声を響かせた。
「はわわっ!? な、なぜ笑いが起きたのだ……?」
なぞの笑いが発生したので、アンジェが困惑する。
「へいへいー! いいかい、嬢ちゃん? 魔獣討伐なんてのは、簡単な話じゃん」
「か……簡単な話?」
「そうさ。この山には、『人を喰う魔獣がいる』。そ~んで、『あーしたちは、魔獣をぶっ殺す』――それだけ。と~っても、簡単だろ?」
にこりとかわいらしく笑うベアトリクスだったが、世界の最果ての蛮族パンドラ人だけあって野蛮だ。
「え……? そ、それだけっ!?」
「そうだよ、それだけ。魔獣を見つけて、ぶっ殺す。もっと簡単に言えば~、『魔獣、見つけて、ぶっ殺す』――な? 単純な話っしょ?」
「え? は、はい……た、単純ですね……」
べアトリクスによるパンドラ流仕事術の洗礼を食らったアンジェが、素で戸惑う。
「あの……そこの樽のなかに入っている『強烈な血の匂いのするぐちゃぐちゃした異様な物体』は、一体何なのですか……?」
アンジェが指さすのは、大きな木の樽に入った血まみれの謎ミンチ肉だ。
「ん~? こいつは、『牛と馬と羊の血と臓物』だよ~。見りゃわかるっしょ?」
「そ、そうですか……血と臓物……っ!?」
とんでもない物を見たアンジェが、普通にドン引きする。
「おぞいっ!」
俺もドン引きだ。
おまけに、くせぇ!
「あの……これを使って何をしようとしているのかが、わからないのですが……?」
「なになに、それマジぃ~? ちょー気が合うじゃん! 実はあーしも、わからねぇんだっ! わーっはははっ!」
べアトリクスが、デカい口を開けて爆笑した。
「ええーっ!? わ、わからないって……ダメなのではっ!?」
アンジェが『なんだ、この女?』とでも言わんばかりの戸惑いの視線を俺に向けてくる。
「蛮族の言葉を、いちいち真に受けるな。その血なまぐせぇやつで魔獣をおびき寄せる――みたいな話だろ?」
「おっ、よくわかったな! ごく潰しは無職のくせに、なかなか賢いじゃないか。ベアトリクスお姉ちゃんが、特別に頭を撫でてあげよう。わはははっ!」
何も言わなければよかった……。
と、後悔する頃には、ベアトリクスに頭を揉みくちゃにされる魔王様だったとさ。
「あ、あの……ベアトリクス隊長殿。魔獣をおびき寄せるにしても……事前に打ち合わせとか、予行練習などはしたのですか?」
「そんなもん、誰もしねーってのっ! あーっはははっ!」
べアトリクスが豪快に笑うなり、奴の部下どもも一斉に豪快な笑い声を上げた。
「そんなもんしたって、死ぬときは死んじまうんだから、やるだけ無駄じゃ~んっ!」
「そーそー。ウチら赤狼遊撃隊は、当たって砕けろの命知らず部隊ってワケ!」
「おい、新人! 頭脳派気取りやがって、あたいらを舐めんなよッ!?」
景気がいい豪快馬鹿女とその馬鹿な部下の女子ども。山に響き渡るクソデカい笑い声。血まみれの謎の臓物。戸惑うあまり泣きそうになっているアンジェ――。
「アンジェ、良かったじゃん。お前おバカなのに、頭脳派だってさ」
「うぅ……全然よくないのだ、なぜか敵視されているのだ……!」
控えめに言って、最悪の職場だ。
俺が働きたくない理由の一つに、こういう下劣で粗野な人間と遭遇したくないし、顔も見たくないというのがある。
やはり、労働などしてはいけないのだ。心身ともに疲れ果ててしまう――。
「ときに、アンジェよ。貴様が今考えてることを当ててやる」
「え? なんだ、考えていることを当てるだと……?」
「お前は今、『一刻も早く帰りたい。どうやってここから逃げよう』――と考えている」
「はうあ! 私の心を読み取ったのかっ!?」
どうやら図星だったようだな。
「驚くようなことじゃない。こんな職場で仕事をすることになったら、誰しもが同じことを考える」
当然、俺もだ。
今すぐにでも、家に帰って寝たい!
「いいかい、嬢ちゃん。魔獣退治なんてのは、どんなに詳細に計画を練っても上手くいくもんじゃねぇ。ここで信じられるのは、己の腕と戦友。そして……」
「「……そして?」」
べアトリクスは、俺とアンジェに思わせぶりな顔をすると、おもむろに酒瓶を天高く掲げた。
「お酒だけえええええええええええええええええええええええええええええいっ!」
「「「ウエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーイッ!」」」
そして、無駄に気分上々な部下たちとともに、酒を一気飲みした。
「「「アゲアゲ~☆ 赤狼遊撃隊さいきょーっ! わはははははははははっ!」」」
ベアトリクスたちの、向かうところ敵しかいない破天荒な生きざまを目の当たりにしてしまうと、『人生を楽しく生きる上で高い知性も意識も必要ねぇ! 必要なのはノリと勢いだぜぇぇぇーいッ!』
――などと、思わず言いたくなる。
「いえーい! アゲアゲ! 刈り上げ頭のあいつの好物、揚げたての串揚げーっ!」
「フール! 発狂しないでくれ! 私だけ置いてけぼりにしないでくれぇーっ!」
それと同時に、『適当に仕事していいんだ! 自堕落に生きていていいんだ!』という夢と勇気と希望をもらえる。
「嬢ちゃん、ごく潰し! 景気づけだ! あんたらも呑みなっ!」
べアトリクスがいきなり、俺とアンジェの口に酒瓶を突っ込んできたッ!?
「「んぐがっ!?」」
次の瞬間、燃えるように強い酒が……口と喉を焼くッ!
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