第74話 地獄に道連れ! 魔の休日出勤!

 な、なんだ……? この予想外の値段はッ!?

 肉を提供はすれど調理作業を客にやらせるくせに、焼肉ってこんなに高いの……?


「さぁ~て……と。見るもんみたし、帰るかっ!」


「ちょっと、お客さん! どこ行くんですかっ!? お代っ!」

「てやんでい! お前も食い逃げかっ!?」


 さきほどアンジェをしばき倒していた飯屋のオヤジが、突然襲いかかってきた!


「やめろ。この俺を、そこの食い逃げゲロ吐き女と一緒にするな」

「食い逃げじゃなかったら、なんで逃げるんでいっ!」


「俺が食ったわけじゃないからだ。お代は、そこのゲロ吐き女に請求しろ……ッ!」


 俺は、まともに会計もできない飯屋の店員どもに、正論を突きつけて黙らせた。


「まてええええええええええええい! フうううううううううううううううルっ!」


 往生際の悪いゲロ吐き勇者が、俺を逃がすまいと抱き着いてくるッ!


「お前が無理矢理大量の肉を食べさせるから、吐いてしまったではないかーっ!」

「放せッ、馬鹿たれがッ! きったねぇんだよッ!」


 俺が突き飛ばすなり、アンジェがキッと鋭い眼光で睨みつけてきた。


「あなたを詐欺罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね? あなたが私をこんなウラ技で騙し、ゲロ吐き食い逃げ犯にしたからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。近いうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい! 貴方は犯罪者です! 刑務所にぶち込まれるのを楽しみにしておいて下さい! いいですね!」


 はうあ! 急に、賢い風のバカになったッ!?


「な……なんなんだッ! この馬鹿さとスゴ味の合わせ技はッ!?」


 アンジェの発する得体の知れないスゴ味に、俺は思わず戦慄してしまった……ッ!

 つか、一応は勇者の癖に、司法に頼るなよ。


「このワザップ無職がっ! それっぽい情報で人を騙すなっ!」

「なんだそれっ!? 意味のわからんことを言うなっ!」


「なんやねん、こいつら……お金も払わんとご飯を食い散らかし、おまけにゲロまで吐き散らかすなんて……全世界飲食店迷惑客選手権ぶっちぎり一位の迷惑客やで」


 眉間を押えて呆れ顔をするメイが何を思ったか、店主に金を払った。


「おい、ろくでなしども。ここの支払いは、親切なメイちゃんが『貸し』にしといたるわ。どう返すかは、あんたら次第や」


「うわーん、メイ殿っ! 一度ならず二度、いや、三度までも! 窮地を救っていただくとは……っ! この御恩、一生忘れませんっ!」


 メイに飯をおごられたアンジェが、大げさなことを言って感涙を流す。


「泣かんで、よろしいねん。さっさと恩を返して忘れなはれ」

「フン。自分より年下の小娘に借金とは、勇者様も落ちたものだな」


「なにを、他人事みたいにしとんねんっ!? フールもやでっ!」

「なにぃぃぃ~っ!?」


 メイめ! なんて生意気なやつなんだ!

 というか……なんで、こいつは魔王の俺より、金を持っているのだ?


 ……いや、待て!


 そこらの小娘より金を持っていない魔王って、なんなのだ?

 俺は……いったいどこまで凋落したというのだろう……?


「うぅ、気分が落ち込んできた、手足が怠い……早く帰って昼寝したい……!」

「なんや。メイちゃんが膝枕してやろか? そのかわり、起きたら三倍働くんやで」


 メイちゃん……君は天使な悪魔だよ。


「こら、メイ! そうやって無意味に甘やかすから、このごく潰しがいつまで経っても働かんのだぞッ!」


 性格の悪いジジイが、しょうもない茶々を入れてくる。


「チッ、うるせぇな。ちょっと飯おごられたぐらいでガチャガチャ文句言いやがって、ケチくせぇジジイだぜッ!」

「なにィッ!? 誰がケチじゃッ!」


「あんたのこと、もっと器の大きい人だと思ってたよ。だって、嫁に子供、おまけに孫までいるのに、人目をはばからず性病サキュバスと浮気してるんだもんねっ!」

「憲兵ェェェーッ! こいつを逮捕しろおおおおおおおおおおおおおおおおーッ!」


 俺が無邪気なおちゃめを発揮するなり、ジジイがキレて騒ぎ出した。


「フールっ! これ以上、悪い子してると、うちもさすがに怒るよっ!」

「んもう、すーぐムキになりくさる」


「うちも、『契約』を盾にして脅したりしたくはないねん……わかるやろ?」


 けっ。これ以上の面倒事は、ごめんだよ。


「……メイちゃんの気持ちは、よくわかるよ。そろそろ、お仕事をしましょうかね」


「待てぃっ! フール、どこへ行くのだっ!?」


 涙ながらに仕事に赴こうとするなり、アンジェがダルがらみしてきた。


「私をこんなところで、一人にする気かっ!?」

「なんなんだよ、お前は? 俺は、お前の友達じゃねぇんだよ」


「なにぃっ!?」


 なにぃっ!? って……。

 この小娘の中で、俺の存在はどう定義されているんだ?


「ねぇ、フール。メイ殿に『恩を返せ』と言われたが、どうすればいいのだ?」

「『ねぇ、フール』じゃねぇんだよ。友達みたいに相談を持ち掛けてくるな」


 あ~……これってば、前みたいに追い払っても、なんやかんやでアンジェがつきまとってくる流れだろ?


 知ってる。

 魔王様、知ってる。

 あたい、何でも知ってんの。


「勇者アンジェリカよ。住所不定無職の逃亡者なんだから、暇なら売るほどあんだろ?」

「いや、忙しいけど?」


「バレバレの嘘つくんじゃねェッ! おめー、今日休みもらってんだろッ!」


 下手に流れに抗うのではなく、逆にこいつを巻き込んで仕事を押し付ける流れにしちまおう!


「勇者アンジェリカよ、俺と一緒に来い」

「なんでだ? 私は忙しいのだが?」


 そうと決まれば、早速実行でい!


「嘘つきホステスよ。『メイに恩と借りを返す』のだ、黙って俺についてこいッ!」

「ほえ?」


 地獄に道連れで、休日出勤に駆り出してやるわッ!

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