第72話 勇者は食い逃げ犯になっていたッ!?
「ダメだ! 今はあいにく、手持ちがないっ! ゆえに、『一見すると食い逃げともとれる形』で立ち去ることしかできないのだああああああああああああああーっ!」
腹ペコ馬鹿勇者のアンジェだったとさ。
「一見もなにも! それを『食い逃げ』っつーんだよっ!」
「違うっ! それは『誤解』だっ! 今はお金がないが、必ず後で払うっ!」
「金がないんだったら、今すぐに体で払いやがれぇぇぇーいっ!」
なんかしらんが、アンジェは飯屋の店主のオヤジにしばき倒されていた。
「そ、それは無理だっ! 私は純潔の乙女! この体を穢すことは神が許さないっ!」
「憲兵さあああああああああああああああああああああああああああああああん! 食い逃げだああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
あの野郎、朝から姿を見ねぇと思ってたら……。
仕事もしねぇで、昼間っから街中でなにやってんだッ!?
「や、やめるのだっ! しーっ、しーっ! 静かにするのだ、憲兵を呼ぶなーっ!」
「じゃあ、金を払いなっ!」
「金は……ないっ!」
アンジェがキリッとした顔で馬鹿なことをほざくなり、飯屋のオヤジが吠えた。
「憲兵さあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「こんの~、食い逃げ娘がッ! 俺の声をかき消そうとすんじゃねぇやいッ!」
などと馬鹿なことをやっているアンジェが、不意にこっちを見てきた。
そして、俺の目と目が合う――。
「フううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううルっ!」
うっさッ!
唐突に絶叫を張り上げたアンジェが、すごい速さと圧で詰め寄って来る!
「うわっ! こっちくんなっ!」
「ちょうどいいところに来たのだっ! とんでもない厄介事に巻き込まれてしまったのだっ!」
やばぁ……。
こんな異常者と知り合いだと思われたら、この街で生きてけなくなっちゃうよ。
知らんふりしよう。
「え、ちょっと待って? お嬢ちゃんは……誰だい?」
「なにぃっ!? この私を忘れたのかあああああああああああああああああああっ!?」
馬鹿みたいに声がクソデカいアンジェが、こっちがビックリするほどおったまげる。
「忘れたもなにも、お前ような食い逃げ娘など知らん」
「知っているだろうがっ! 世界の存亡を懸けて戦った仲だろうがぁーっ!」
戦友みたく言うんじゃねぇよ。
「同じ店で働く先輩と後輩だろうがぁーっ! 忘れるな、私を思い出せぇぇぇーっ!」
俺たちの関係って、こいつの脳および心の中でどう処理されているんだ?
「フール! 何も言わず、お金を貸してくれええええええええええええええーっ!」
「お前に貸す金なんてねェッ!」
「ふざけるなっ! かわいい後輩にお金を貸さないとは、どういう了見だーっ!?」
距離感近めの先輩後輩の空気感を醸し出してくんじゃねぇよ!
「金なら、メイに小遣いをもらってんだろ! それはどうしたッ!?」
「もうないっ! お小遣いならば、すでに使ってしまったのだっ!」
馬鹿すぎて、何も言えなかった。
なぜか、アンジェも何も言わない。
「「…………」」
なぞの間の後、唐突にアンジェが襲いかかってきたッ!
「お金を寄越せええええええええええええええええええええええええええええっ!」
「うるせえええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
野獣と化したアンジェに恐怖を感じるあまり、思わず手が出たッ!
「いたぁっーっ!? お金がなくて困っているだけなのに、殴られたのだぁーっ!」
「やめろ! こっちが悪いみたいに言うんじゃねェッ!」
「びええええええええええええええええええええええええええええええええんっ!」
「泣くなっ! うっとおしいっ!」
なんなのだ、この天下無敵のやりたい放題の馬鹿娘は……っ!?
「アンジェ……あんた、こんなところでなにしてはんの? 今日は、お休みあげたやろ? なんで、食い逃げなんかしとんねん?」
物おじしないメイが、狂人と化したアンジェに話しかける。
「おおっ! メイ殿っ! これはこれは、いいところにっ!」
メイを見つけたアンジェが、まるで救世主を見つけたかのごとき顔で目を輝かせる。
「お金を貸してくだされええええええええええええええええええええええええっ!」
勇者アンジェリカさん……あなたは、クズだ。
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