第67話 魔王様は慈善事業家
「そんじゃ、メイの親父およびメイの借金は、『きれいさっぱり返し終わった』ということで。あざます!」
「借り逃げ・踏み倒しの間違いだろッ! ふざけやがってッ!」
「そうなの、犯罪って……コト!? じゃあ、今から憲兵の……いや、パンドラを支配している魔女様のところに行かなくっちゃっ!」
「やめろッ! この件は、もう終わりや! ほら、借金関係の書類だ! 一枚残らず全部持っていけ! これで、わしらは何の関係もない赤の他人じゃッ!」
「感謝! 感謝! またいっぱい借りたいな! 借金! シャ! シャッ!」
「じゃかしゃあッ! 歌うなッ!」
それはそれとして。
豚オヤジに、メイの借金について、詳しい話を聞きだしたところ――。
どうやら、メイの借金は――メイの母親が死んで、メイの親父が傷心で荒れて酒浸りになっている時に、メイの親父になかば詐欺的な形で無理矢理貸し付けたものだったらしい。
そんなことをした理由はといえば……。
メイの店は立地が良く、本来ならば、あそこら辺一帯を買い上げて『エロエロノーパンしゃぶしゃぶスーパー銭湯』を開く予定だったとか。
そのふざけ倒した計画の一環で、間が悪いメイの親父が運悪く狙われて、借金を背負ったんだとよ。そんで、借金のカタに土地を取り上げるつもりだった……と。
これが、『借金少女メイちゃんの物語』の顛末でしたとさ。
ちゃんちゃん。
「豚オヤジよ。金を貸す時は、あげたつもりでやらなきゃダメなんだぜ?」
「じゃかましや! さっさと出て行けッ! 二度とその面を見せるなァーッ!」
けっ! ふざけた話だよ。
なーんで、この偉大なる魔王様が!
カスどもの、くっそくだらねぇ夢と希望と涙の物語に巻き込まれなくっちゃあなんねぇんだッ!? 最高に不愉快だぜッ!
「あんたもこれに懲りたら、人を騙しちゃダメだぜ? かわいいエリザベスちゃんの教育に良くない」
「出ていけ! もう終わりや! おしまいやッ!」
「このお屋敷だって、悪徳金融業者のお前が、弱い立場の人たちを騙して搾取して苦しめて、ときには自殺にまで追い込んで、金を搾取して――」
「出ていけええええええええええええええええええええええええええええええッ!」
そんなこんなで――。
悪徳金満豚オヤジからメイの借用書を回収し、借金をチャラにした魔王様だった。
「けっこう、時間経つけど……フールは、無事かいな……?」
「心配無用なのだ。あいつが一般人になにかすることはあっても、され……あっ! フールが、出てきたのだっ!」
俺が豚オヤジの事務所から出るなり、外に待たせておいたアンジェが懐いた犬みたいな顔で近づいてきた。
「おーい、フール! 遅かったじゃないかっ!」
「小娘、出迎え御苦労。この俺が、メイの借金をチャラにしてきたぞ」
「驚いたのだ! お前は本当に、慈善事業家なんだなっ!」
「わはは! そうだ。俺は『慈善事業家』なんだよ」
思わず笑っちまったぜ。
凡愚共に恐怖された偉大なる魔王様が、慈善事業家だとよ。
しかも事業内容が、居候先の小娘の借金を帳消しにする――だってさ。
「ほらよ、メイ。これで、名実ともに借金はチャラだ。慈悲深い俺に、感謝しろよ」
豚オヤジから取り上げてきた借金関係の書類を、メイにくれてやる。
「たまには、ええこともするやんっ! まったく働かんごく潰しに、ずっとごはん食食べさせてやったかいがあったってもんやなっ!」
メイめ、生意気なガキだ。
「嗚呼、罪深き少女メイよ。なんと恩知らずで不義理な娘なのだ……俺は太陽と月の下に行われる虐げのすべてを見たぞ。見よ、虐げられる人の涙を。哀れな俺を慰める者はない。この空しい人生の日々に、俺はすべてを見極めた。善人がその善のゆえに滅びることあり、と」
「やめーや! ちょっとお礼を言うのが送れただけで、大げさやねん!」
「言いたいことは、それだけか? おめーの親父の借金は、詐欺で押し付けられた法外な借金だったんだぞ。あんなもんに騙されたまま、まともに借金返していたら、『エルフのお前がババアになっても返し終わらなかった』……そんな邪悪な借金をチャラにしてやったのに、そんなことしか言えんのか?」
責めるように言ってやると、メイがなぜか両手を擦り合わせてもじもじした。
「んもう……そんな大げさに言わんで、よろしいねん……」
それから、頬を染めてぶっきらぼうに言う。
「あ……ありがと。フールのおかげで、うち助かったわ」
さらに、上目遣いで熱っぽく見つめてくる。
「ほんま……感謝しとるよ。ありがとうっ! 大好きやでっ!」
「フン、なにが大好きじゃ。お前のためにやったわけではないわ!」
まったくだ。小娘に感謝されたいからやったわけではないわ。
「はあっ!? じゃあ、なんのためやねんっ!?」
「俺自身の平穏なる隠居生活のためだ」
そうだ。
それ以外に、理由など何もない。
偉大なる魔王様は、そう簡単に他人のために働かんのだ。
「おいっ! そこのぼんくら、ふざけんなやっ! いつもお世話になってるかわいくて献身的なメイちゃんのために頑張ったんちゃうんかいっ!?」
「違う」
「きっぱり言い切るなっ! 違うって、なんやねんっ!?」
銀髪を振り乱してキレるメイが、キャンキャン騒ぎ出す。
「そんなことはどうでもいいのだっ!」
「そんなことちゃうわっ! アンジェ、なんやお前はっ!?」
「フールはいつもひねくれているから、どうもでいいのだっ! それよりも、メイ殿は借金がなくなり、晴れて自由の身だっ! これは、お祝いせねばならんのだっ!」
なんかしらんが、アンジェがメイを押しのけてはしゃぎだした。
「メイ殿っ! 借金がなくなったお祝いに、なにかおいしいものでも食べに行こうではないかっ!」
「いや……借金がなくなったって言っても、お金が増えるわけちゃうねんよ?」
「ええ~っ! 借金がなくなっても、貧乏なままなのか~っ?」
アンジェ……どこまでバカなのだ。
こいつは、そこらの子供よりもモノを知らんのか?
「喧嘩するな、バカ娘ども。今日は気分がいいから、この俺がおごってやる」
メイの借金がなくなったことで、俺の平穏なる隠居生活を邪魔する問題が一つ片付いた。
とても素晴らしい出来事なので、祝い酒ぐらい飲もうではないか。
「おごるって……フール、あんたお金持ってんの?」
「心配するな。金ならある」
「あっ! フール! 豚オヤジからカツアゲしたねっ?」
勘の良さを発揮したアンジェが、無邪気にはしゃぐ。
「カツアゲなどしていない、俺は慈善事業家だからな。悪人から資金援助してもらったお金を、よい子のみんなに配ってあげるのさっ!」
「わーい! 良い子にお金をくれるフールは、慈善事業家なのだーっ!」
「結局、カツアゲをええように言ってるだけやないかっ!」
「「あははっ!」」
「なんやねん、その笑いは? なんで、仲良しやねん!」
これにて、世はこともなし。
魔王様の隠居生活は異常なし。
嗚呼、なんて素晴らしいのだろう!
第2部 第1章 勇者の身請けと、ロリエルフの借金と
完
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