もう、魔王やめた! 無職魔王は働かない。~魔王なのに反逆されたので、同じく戦友に裏切られた勇者を仲間にして逆襲する……隠居しながら! ろくでなし魔王の自堕落で騒がしいほのぼのスローライフ!?~
第64話 出た! 蒸気モクモク! 機械の巨人!
第64話 出た! 蒸気モクモク! 機械の巨人!
「終わったわ! うちが、『借金のかたに娼婦として働いて返済した』やろっ!」
「あほ抜かせ! 一瞬滞在して衣装借りパクしただけじゃねぇーかッ! しかも、わしの新築ピカピカの店をぶっ壊しやがって! そのうえ、言いがかりをつけて暴行を働き、大怪我させやがって! おまけに、お気に入りのおしゃれアクセサリーと財布を剥ぎ取りやがってよォッ! ついでに、馬車まで壊しやがって、許さんぞッ!」
「最後の馬車は、お前が勝手にうちの店にぶつけて壊したんやろがっ! しれっと適当なこと抜かしてんとちゃうぞっ!」
恫喝に恫喝をぶつけてる……!?
「なんなの、この人たち……こわいよっ!」
どう見ても、借金取りと債務者の関係ではないぞ。
つか、メイが凶暴過ぎる……ッ!
流石は、世界に混沌をもたらす魔女『暁の緋女』の末裔パンドラの女だ!
「今日は、お前のような凶暴なガキに用はないんじゃ、すっこんどけ!」
「なにぃ~っ!? じゃあ、誰に用があるんや!?」
「用があるのは……そっちのむちぷりお宝ギャルやッ!」
などと言って、豚オヤジが不敵に笑い、葉巻の煙を吐き出す。
「はあ~? 『むちぷりお宝ギャル』って、誰だよ?」
「誰や? 『むちぷりお宝ギャル』って、なんやねん?」
「もぐもぐ、『むちぷりお宝ギャル』って、もぐもぐ、誰なのだ?」
「そこで、もぐもぐいってるお前じゃいッ! 十三億の懸賞金をかけられた元勇者アンジェリカちゃんじゃあああああああああああああああああああああああいーッ!」
豚オヤジが、口をもぐもぐしているアンジェを指さす。
つか、またなんか食ってるッ!?
「お前……いつの間に、焼きそばを買ったんだッ!?」
「今だ。ずぞぞぞーっ!」
「ふざけやがって、麺啜ってんじゃねェッ! 貴様ら、わしの話を聞けーッ!」
豚オヤジがいきなりキレて、アンジェに殴りかかる。
「ああーっ! 海の幸たっぷり焼きそばがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
豚オヤジに殴られたせいで、アンジェが焼きそばを地面に落としてしまった。
エビやイカや麺が地面にぶちまけられた次の瞬間……。
豚オヤジの体が宙を舞うッ!?
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
「食べ物を粗末にするなっ! バカたれがぁぁぁーっ!」
食べ物の恨みは怖い。
特に、こいつのように食い意地の張った奴の場合は、大変なことになるッ!
「な……なんちゅー暴力的な女なんじゃ……お前ら、しばき倒せえええーッ!」
地面に叩きつけられた豚オヤジが尻もちつくなり、大声で叫ぶ!
すると、どこからともなくガラの悪い連中が、わらわらと姿を現した……!
「元勇者だか何だか知らねぇけど、外の世界の話だろ? 大したことねぇよ」
「乳がデケェだけのメスガキじゃねぇか! こんなのにビビってんスか!?」
「この女、捕まえるだけで十三億ッ!? マジかよ?」
なんだこいつら? アンジェのことを知らないのか?
ってことは、前にしばき倒された連中じゃない新入りども?
次から次へと、よくゴミどもをかき集められるもんだなぁ。
「なんでマフィアが、アンジェを狙って来とんねんっ!? 指名手配だの勇者だのの件は、おじいはんが上手いこと話つけたんとちゃうの?」
「なんでもなにも、マフィアが騎士団の言うことなんて聞くかよ」
あるいは、単純にアンジェに懸けられた懸賞金が無効になったのを知らんだけかもしれんがな。
「ぎゃあああーっ! なんでこの女、こんな強いんだーっ!?」
「一撃の重さが、女のそれじゃねェッ! ぐはあああーッ!」
「動きがやべー! 歴戦の冒険者並みじゃねぇかァーッ!」
場末のスナックで悪質な酔客相手に鍛えた荒業を駆使するアンジェが、迷惑野郎どもを次から次へとしばき倒していく!
「私は今はこんなでも、勇者だ。マフィアになど、やられるわけないだろっ!」
「ったく、今日はこんぐらいにしといたらぁっ! 今度、舐めた真似したら……ほんまぶっ殺したるからなァァァーッ!」
などと、豚オヤジが威勢よく啖呵を切る。
「あかん! なんか知らんが、前より強くなっとるやんけッ!」
だが、それよりも威勢よく逃げ出していた。
「とはいえ、ただではやられはせんぞ……最後にアンジェリカちゃんのおっぱい揉んだるわぁぁぁーっ!」
逃げ出したはずの豚オヤジが、最後っ屁と言わんばかりにアンジェにセクハラを働く。
またこれか……。
「同じ手を何度も食うかーっ!」
アンジェが襲いかかってきた豚オヤジに『げしっ!』っと蹴りを叩き込む。
「な、なん……やと……ッ!?」
いや、驚きすぎだろ。
どう考えたって、そうなるに決まってるじゃねぇか。
「弱いもの相手に勝てる喧嘩だけして、あとは恫喝とハッタリだけで生きてきたおめーらマフィアが、『戦争の英雄』に勝てるわけねーだろ?」
見た目がエロくてバカな小娘のせいで、アンジェは舐められがちだな。
ちょっとでも人を見る目があれば、こいつの体から無限に湧き上がる魔力と闘気の異常なヤバさに気づきそうなものだが……。
人を見る目がなくても、自由に乱暴狼藉できる権力やら金を手に入れられるんだから、パンドラは平和な土地だよ。
「ちきしょーッ! な~んで、無職に煽られなきゃならんのじゃあーッ!?」
魔女どもも、わざとこーいう小悪人を野放しにして、自分たちの都合のいいように操ってんだろうなぁ~……。
ふざけた国っすね、マジで。
「こんな屈辱、許せん……ッ! こうなったら、奥の手やッ!」
唸る豚オヤジがスクッと立ち上がり、無駄にキリッとした顔をする。
そして、何を思ったか……腕を顔の前に掲げて、腕時計に声をかけた。
「いでよ! 秘密兵器! 『機械巨人(マシンゴーレム)』!」
豚オヤジが叫ぶなり、隣の建物が弾け飛ぶようにしてぶっ壊れたッ!?
「ギガガガガッ!」
煉瓦の壁をぶっ壊して土煙とともに出てきたのは、機械じかけの巨人だッ!
「おいおい……とんでもねぇもん持ち出してきやがったなッ!」
「なんだあれはっ!? 金属の巨人だとーっ!?」
ずんぐりむっくりとした奇妙な鋼の人形は、小型の家ぐらいの大きさがある……!
「ありゃ、『機械巨人』だ――パンドラ人どもが作った『魔導兵器』で、魔法を燃料にした蒸気機関によってゼンマイと歯車仕掛けで動く機械の人形だ」
機械巨人――パンドラの魔女どものイカれた文明が生み出した、この世界の技術水準を斜め上に大きく超越した異常人工物。
「ああっ、思い出したぞーっ! 戦争のときに見たことがある! 山岳地帯で遭遇した魔族の軍勢を『山ごと焼き払っていた』のだっ!」
「見たところ、武装はないから軍事用ではなく『土木ないし建築等の作業用』だとは思うが……」
いずれにせよ、面倒だな。
豚オヤジのくせに、なんちゅーもん出してきてくれてんだよ!
「あの大量破壊兵器を土木建築に使っているのかっ!? パンドラは、わけのわからないものが次から次へと出てくるなっ!」
「剣と魔法が支配する外の世界とは違い、ここは『機械と魔導兵器』が支配する特異地域だからな」
などとやっていると、豚オヤジが得意げに笑った。
「指名手配犯・勇者アンジェリカ――生死問わず、捕まえたら十三億ッ! わしの夢をぶっ壊した慰謝料……その体で払ってもらうでェーッ!」
豚オヤジめ……むっちゃイキっているが、情報に疎すぎる。
「お前は、なにを大声で騒いどんねん。もうとっくの昔に、勇者アンジェリカへの指名手配と懸賞金は、無効化されてるんだよ」
「んなわけあるかッ! しょーもないこと言ってんとちゃうぞッ!」
いや、すごまれても……。
「この俺の話を疑うとは、ふざけたやつだな。そもそも、こいつが指名手配犯なら、パンドラ騎士団が黙認している時点でおかしいだろうが」
「だからなんやねんッ!?」
「……マジで言ってんのかよ? 一から全部説明してやらないといけないのか? 俺は、お前のママなのか?」
「ママ、違うけど?」
は? なんで、俺が滑ったみたいになってんの?
皮肉も比喩表現も通じないの? 呆れてしまって、何も言えないのだが?
「チッ。めんどくせぇオヤジだなッ!」
とはいえ、言わねぇことには、豚オヤジが事情を知ることもできないわけで……。
めんどくせぇ~!
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