第61話 裏切られっ子同盟!?

「それがどうかしたのか? もはや無意味だろう」


「んなわけあるかい! お前が死罪になったことを知らない『情報に疎いアホ』を筆頭に、お前が死罪になったと知っても『金を諦めきれない欲深いバカ』やら、『腕試しの猛者』やら『エドムの刺客』やら、『個人的にお前に恨みを持つ輩』――などなど、世界各地から『多種多様の迷惑野郎ども』が、次から次へとやってくるだろうがッ! 当然、島の連中のなかにも金に目のくらんだ連中が出てくるだろうよ」


 などと、注意してやるなり、アンジェが露骨に不安げな顔をする。


「……そんなことになられると、困るのだ。今は、『手元に武器がない』……愛用していた聖剣もオリハルコンの鎧も、エドムで裏切り者たちに取り上げられてしまったのだ……」


 傷心すると同時に、すぐさま戦いのことを考えるのか……。

 やはり、根っからの戦闘狂だな。


「この前、お前を襲撃しにきた『童貞ちんぽこ剣聖』とかいう有害なバカが持っていた『魔剣』は、どうした?」


「そんな変な奴のことはまったく知らないが、『魔剣シャミール』ならば、『おバカに刃物を持たせると、危なぁてしゃあないわ』――とメイ殿に取り上げられてしまったのだ。薪を割ったり、ハムを切ったりするのに便利だったのに……」


「魔剣で薪を割ったり、ハムを切ったりするな! 日用品じゃねぇんだぞッ!」


 バカには刃物を持たせない――流石は、敏腕経営者メイ。無能な働き者系の迷惑人材アンジェの扱いをよく心得ている。


「……なんか武器がほしい。丸腰だと落ち着かないのだ」


 こぇーやつだなぁ……。


「武器がほしけりゃ……この島の中央に、やたらとでっかい塔があるだろ」


 パンドラ島の中央にはデカい山があって、その中央には天を突くぐらいバカ高い塔立っている。


「雲のなかにまで伸びている塔か? あれは、この島の『魔女の始祖・パンドラ』の墓標だと聞いたぞ」


「塔が墓として運用されている話は、どうもでもいい。重要なのは、あの塔が、『神獣戦争』時代の遺跡・『封印廟』だってことだ。あの中には、先住民どもが神獣殺しに使っていた武器があるはずだ」


「待て、いきなり知らん単語を連発するな。しんじゅう戦争? 封印びょう? せんじゅうみん? なんだそれは……?」

「はあ? お前は、歴史を知らんのか?」


 やはり、どこに出しても恥ずかしいバカだから、常識がない……。

 ……いや、待てよ。


 人間界の見張りの者を気取る『啓明教会』のカスどもは、一般愚民どもに対して情報を統制しているから、現行の人類に古代の知識と歴史は継承されていないのだったな……。


 仕方ない……親切で慈悲深い魔王様が、歴史の授業をしてやろう。


「『神獣戦争』ってのは、気が遠くなるぐらいの昔々、まだ人間が文明を手に入れたばかりの頃の話だ――『月からこわ~い化け物』どもが降りて来て、目につくすべての命を弄び、世界を穢していた頃に起きた争いのことだ」


「月から? 月には、生き物が住んでいるのかっ!?」


「昔々、大昔はな。歴史すらおぼろげな遥か古代の話だ」


 フン。悪夢じみた不愉快な思い出だよ。神を気取る穢れた獣どもめ……。


「その『こわ~い化け物』は、いまも世界のどこかにいるのか?」

「いるが、とても数は少ない。俺が魔族を使って、世界の隅から隅までやつらを殺戮処理して回ったからな」


 アンジェが何かを考え込むような顔で、俺の目を覗き込んでくる。


「……ふむ。嘘ではなさそうだ」

「数百年生きているやつと、古代の知識があるやつなら誰もが知る事実だ。お前でも調べれば手に入る情報に対して、嘘などつくか」


 そう言うなり、アンジェがなにかを納得した顔をした。


「元とはいえ、さすがは魔王。人間の知らない話を色々と知っているのだな……ところで、『封印びょう』とはなんだ?」


 こいつ、戦いと食い物以外に興味のないバカのくせに、意外と知的好奇心があるんだよなぁ。


「『封印廟』ってのは、神獣戦争時に世界各地に建てられた避難所であると同時に、武器や防具や宝物なんかの保管庫のことだ」

「ふむ? 避難所で保管庫なのに、封印? 危ない場所なのか?」


「危ねぇ場所っつーか、廟のなかにあるブツが危険なんだよ。ちょっとした武器にしても、一夜にして世界の形を変え、人間どもの認識を変化させて文明汚染および環境破壊するほどに危険な代物ばかりだ。お前が昔持っていた『聖剣』も、封印廟関係の古代の兵器だろう?」


「そうなのか? 『聖剣』は、お師匠様から授けられたものだから、由来は知らん」


 こいつの師匠ねぇ~……なーんか臭うな……。

 ま、どうでもいいけど。


「それはそれとして、お前の話を聞いて希望が湧いて来たぞっ!」


 突然、アンジェが目をキラキラと輝かせた。


「は? なんのだよ?」


「前に、お前が言っていた――『不死王が、新しい魔王になる』みたいな話があっただろ? それがもし本当なら、私は『不死王を倒すことで勇者に返り咲ける』かもしれないっ!」


 たのしそーっすね。


「そーかもな。つうか……お前まーだ、勇者に未練があるのかよ?」


「あるっ! 魔王を倒して名実ともに『真の勇者』になったというのに、卑劣な裏切りで罪人にされたのだぞっ! 私は正当な扱いをされたい……いや、されるべきだっ! なぜなら、私こそが勇者だからだーっ!」


 性に目覚めたばかりのバカガキが『おっぱい』という単語を見ただけで大興奮するように、この小娘は『勇者』という単語だけで大興奮していた。


「フール。お前も私と一緒に来ないかっ!」

「はあああ~?」


 こいつ、急に何を言い出すんだ?

 マジで頭がおかしいぞ。


「魔王として、今まで犯してきた罪に対する贖罪だ。そして、仲間に裏切られたことに対して復讐をするのだっ!」


「俺に罪などない。それに復讐は、テメーがしたいだけだろうが。すべての厄介事や重責から解放されて、慎ましく隠居生活を送っている俺を、『お前のバカな物語』に巻き込もうとするなッ!」


 唐突に、わかったぞ!

 こいつが、なにかと俺を友達扱いしたがるのは、俺が不死王に裏切られたからだ。

 それで、同じ境遇の者同士だから、勝手に親近感を抱いていやがるのだ。


「おい! ノリが悪いぞ! 『裏切られっ子』同士ではないかっ!」

「なんだ、裏切られっ子って!? バカな言葉を生み出して連帯感を醸し出すなッ!」


 クソが! 偉大なる魔王様を、貴様程度のバカ次元に引き下げやがってッ!


「だいたいなぁ、復讐なんて人生の主軸にするべきじゃないんだよ。下らん私怨に囚われると、徒労を重ねて疲れ切ってしまうぞ。平穏に暮らしたければ、やめろ!」


 こんなことを言っておきながら……。

 心身の健康のためには、是非とも復讐はしたほうがいいと思う。


「成功こそ、最大の復讐という言葉もある。かつての仲間たちに貶められたお前が、パンドラで平穏に暮らしながら人生を楽しんでいるだけで、お前を裏切ったやつらへの復讐になるのだ。穏便にしていろ」


 だが、俺を巻き込もうとしている以上、『やめろ!』以外にかける言葉はねェッ!


「ええ~……フールは、元魔王だろ! もっと邪悪になるのだっ! 調子に乗った裏切り者は、問答無用で殺せっ!」


 こ、この小娘……魔王を何だと思っているのだ?

 呆れ果てて何も言いたくない。

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