第54話 お手軽金策! 悪党釣り!

「今から、『釣り』をするぞッ!」

「釣り竿もなしに? というか、路地裏に来ただけではないか」


「俺たちがやるのは、釣りは釣りでも『悪党釣り』よ。竿も糸も針もいらん。いるのは、お前という『餌』だけよ」

「ぬ? 餌だと?」


「『餌』のお前は、ただ、『悪党の目の前を適当にうろちょろしているだけ』でいい」


 俺と勇者は今、歓楽街の裏路地に存在していた。

 ここら辺は、国から許可を得ていない非合法の娼館が立ち並び、違法な武器や盗品、麻薬などの露店がひしめく、悪党の街の犯罪通りだ。


「よそ者かつ女であるお前は、悪党どもがヨダレを垂らして襲いたくなる獲物だ。すぐに悪党どもが食い物にしようと寄って来るはずだ。そうなったら、俺とお前で『正当防衛を行使』して、速やかに慰謝料を請求するのだ」


「おい! ただのカツアゲを言葉巧みに言い繕うなっ!」

「カツアゲではない、『悪党釣り』だ。金銭の強奪という犯罪行為であるカツアゲと同じにしないでくれたまえ」


 戯言を黙らせるためにきっぱりと言い切ると、勇者が胡散臭そうかつ不安げな顔をした。


「そんな適当なことで、大丈夫なのか……? せっかく自由になったのに、憲兵に捕まりたくはないのだ」

「案ずるより産むが易しよ。大丈夫かどうかは、やってみればすぐにわかる」


「お前……言葉巧みに、私を悪の道に引きずり込もうとしているのではないのか?」

「うるせぇっ! どんな道だろうと迷わず行け! 行けばわかるッ!」


 俺はやる気のない勇者の背中をドンと押して、通りに突き飛ばした。


「ぎゃあ! 押すなっ!」


 などとやっていると早速、カモが寄ってきた。


「おねーちゃん、こんなところで一人で何してんの~?」

「かわゆ~い! 暇してるなら、俺達と遊ばな~い?」


 チンピラどもはしょうもないことを言いながら現れるなり、勇者のケツを揉んだ。


「きゃあっ!」


 やったぜ!

 話が早い! いちゃもんつけることなく、正当防衛を行使できる!


「テメーら! 『愛と正義の味方』のこの俺の目の前で、『婦女暴行』とはいい度胸だなァッ! うちの従業員に、なにさらしとんじゃあーッ! おさわり料金と慰謝料を払ってもらおうかァーッ!」


「「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーっ!」」


 ――などといった簡単な作業を四、五回やることにより、まともに労働した場合の一月分ほどの稼ぎを得た。


 世俗において労働というのは、とかく苦役と同一視されがちだが……その主たる目的は『金稼ぎ』なのだ。

 そこに集中して適切な行動をとれば、苦しい労働をせずに金を稼げってワケ!


「なんてことだ……! とうとう一般人から、カツアゲをしだしたのだ……っ!」

「一般人ではない、お前のケツを問答無用で揉んでくる『卑劣な性犯罪者』どもだ」


「むぅ……大げさだが、間違いではない……」

「それに、よそ者のおのぼりさんに声かけてくる奴なんて、『だいたい詐欺師か悪徳業者』なんだから、治安維持のためにぶっ飛ばしていいんだよ」


 金儲けというのは、方法と場所と相手を選べば、割と楽に達成できる。

 もちろん、偉大なる魔王様がやるからこそ、ここまで上手くいくのだがな。


「パンドラでの隠居生活は、世界の果てといえども、やはり世俗ゆえに労働の苦痛から解放されてはいない……だが、好きなときに適当に悪党をしばき倒して小銭を稼ぐことで『自由気ままに暮らせる』のだ」

「したり顔だが、言ってることもやってることも無茶苦茶なのだ……っ!」


「無茶苦茶ではない。やっていることは、有害な魔物を倒して生計を立てている『冒険者と同じ』だ」

「違うだろっ!」


「フン、確かに違うかもしれん……俺たちのほうが、『都会向けに洗練されている』という部分がな」

「な……なんて、ふてぶてしいやつなのだ……っ!」


 正直な話……隠居生活に『労働』なんていう『苦痛』を介入させたくはない。


 だが、あまりにも金がないと、『着実に惨めかつ、バカになっていく』からな。

 文化的で健康な隠居生活を送るには、こうやって適度に仕事をして稼がねばならんのだ。


「それはさておき……か弱い女性を獲物にする邪悪なる性犯罪者どもめッ! うちのかわいい従業員の尻を触った慰謝料を払ってもらおうかァーッ!」

「魔王……完全にやっていることが、ろくでもないチンピラなのだ……っ! 私が退治したから、心が折れてこんな哀れなことになってしまったのか……?」


 この俺を蔑んだ目で憐れんでくる勇者の背後に……。


「テメー、言うに事を欠いて……はうあ!?」


 ヤバいものが見えたッ!

 銀髪ツーサイドアップ、ちんまい体、とんがりお耳のロリエルフ!


「ヤバい、メイだ! 速やかに中身抜いて、財布を投げ捨てろォォォーッ!」


 メイは犯罪上等のパンドラ住人どもとは違って、無駄に順法精神があるから、常日頃から俺の小銭稼ぎを邪魔して来るのだ!


「か、完全に手慣れている……まるで、カツアゲ職人だっ!」

「バカたれッ! くだらんことを言ってないで、早くしろッ!」


 誰が、カツアゲ職人だ!? 偉大なる魔王様だぞッ!


「急げ! メイにバレたら、しばかれながら説教された挙句、『俺たち二人』で苦労して手に入れた金を没収されるぞッ!」

「せ、急かすなっ! あと、私を巻き込むなぁぁぁーっ!」


 などとやっていると、メイが俺たちのところにやってきた。


「やあ、元気な社会不適合者ども。働きもせんと、こんなところでなにしとんねん?」


 なんて、ご挨拶だ!


「見てわからないかね? 買い出しに行ったメイちゃんを迎えに来たのだよ」

「そ、そそそ、そうなのだっ!」


 バカたれ! きょどるな!


「アンジェ。なんで、そないに目が泳いどんの?」

「腹が減り過ぎて、挙動不審になっているのだ」


 適当なことを言って誤魔化す。


「そ、そそそ、そうなんだ!」

「なんやねん、お前は!」


 まずい、俺が突っ込んでしまった。


「やぁねぇ~。この子ったら、腹減りすぎておかしくなっちゃったみたい」

「なんで、オネェやねん? まあ、それはそれとして。お腹減ってるなら、ちょうどええわ」


 なんだ?

 誤魔化せた空気なのに、絶妙に嫌な予感がする……ッ!


「今から、プリねぇのところにいくでっ!」

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