もう、魔王やめた! 無職魔王は働かない。~魔王なのに反逆されたので、同じく戦友に裏切られた勇者を仲間にして逆襲する……隠居しながら! ろくでなし魔王の自堕落で騒がしいほのぼのスローライフ!?~
第24話 一触即発!? ロリエルフの優しさに感謝カンゲキ飴荒らし!?
第24話 一触即発!? ロリエルフの優しさに感謝カンゲキ飴荒らし!?
「この居直り強盗野郎がッ! やっぱり、てめーは文句なしの罪人だなァッ!」
「……踏み込む必要は無い。ただ一瞬、この手を横に動かせばいい。それだけで私は、当然のように貴様も、貴様の隣の少女の首も斬り落とすことができる――」
なんつー迫力だ……こりゃ、ハッタリじゃねぇな。
かつて、戦場で対峙した時と同じ、極限まで殺気立った物騒な目だ……。
この感じだと俺の首は守れても、メイの首は斬り落とされるだろうなぁ。
そうなると、ま~た深刻にめんどくせぇことになるぞ……。
「フール……あのおねえやん、むっちゃ怖いんやけど……『助けて』ぇな」
あーあ、さっそく『助けて』ねぇ……。
「聞いとるか、『契約の言葉』や。うちを盾にするのも、自分だけ逃げるのも、どっちのゲス行為も許しまへんでっ! うちをしっかり『助ける』んやっ!」
「わーってるよ。『契約の言葉』を言われた以上は、ちゃんと助けてやる」
けっ! 前回のことで、しっかり学習しやがったな。
エルフの血を引くだけあって賢い娘だよ、まったく。
「てめぇー、腐っても勇者だろッ! お前に飯をくれるような心優しき子供を殺そうとするなんざ、とことん落ちたもんだなァッ!」
とりま、不意打ちでメイをぶっ殺されないように、罪悪感の釘を刺しておく。
「それは、本望ではない。だから先ほどから、『引き分けにしよう』と提案……いや、これは最大限の譲歩だ。その娘が大事ならば、私の言うことを聞け……!」
へぇ~……面白いこと言うねぇ~。
バカの極みであるこいつに、駆け引きができる頭脳があったのか……。
「好き勝手言ってんじゃねぇ。まず、お前の手打ちの申し出を受ける理由がねぇし、お前の言い分を聞いてやる義理もない。イカレた人殺しめ、迷惑だ、消え失せろ!」
面白いが、駆け引きなどするつもりはない。
「今まで私に戦いを挑んだ連中は、『一人残らず敗北した』――私の申し出を断るのならば、お前もその敗北者の列に加わることになる。それすなわち……『死』だ」
「やだ、こわい……僕は、ここで終わっちゃうの……?」
真面目に取り合っても、深刻度が増して死が近づくだけだ。
てきとーにふざけて、余裕かましておいたほうがいい。
「それは……お前の『選択次第』だ」
「かつての戦いのときのように、俺はお前に滅ぼされるのか?」
「それも、お前の選択次第だ」
……ふ~ん。
いや~な流れになってきたじゃん。
身震いするような破滅を背中に感じるねぇ~……。
「つまり……勇者様は、こう言いたいのか? 『敵であるお前のことを信用しろ、お前の言葉に俺の命を預けろ』――と」
「そうだ」
真顔の勇者が瞬きもせずに、こくりと首肯する。
その鋭い眼光は、まるで研ぎ澄まされた刃のようだ……。
ああ、こわいこわい。
かつて、この俺に破滅をもたらした『勇者アンジェリカ』が戻ってきた――。
「なるほど、なるほど」
さて……どうしたものか?
本当に、本当に……嫌な流れになってきたぞ。
破滅が俺の背中に触れようと、その忌まわしい指を伸ばしているのを感じる――。
「なるほど、と納得したのならば……私の言葉に従え――」
一瞬の判断の誤りで、マジで死にかねないな……。
ならば、答えはこうだッ!
「断るッ! 貴様のような異常者の手に、俺の大事な大事なメイの命を乗せるわけにはいかないッ!」
「だ、大事な大事なメイっ!?」
メイが虚を突かれた顔をして、ぴょんと飛び上る。
「い、いきなり、何を大胆な告白をしとんねんっ!?」
こいつは、何をやってるんだよ……?
とりあえず、無視して話を続けよう。
「テメーみてーなもんに、俺の運命を操ることはできない。勇者などと名乗るくせに、無垢な少女に害を及ぼさんとするような卑しく穢れた存在に、この俺もこの娘も決して屈しないッ!」
さて……。
正義の勇者様は、無害で無垢で無辜なメイちゃんをどう扱うかな?
「勘違いするな。貴様が信用するのは私ではなく、『貴様自身の選択の正しさ』だ」
「はあああ~? さっきと言ってることが違うじゃねぇか」
「違わない。貴様は、ただ『正しい選択』を選べばいいのだ。正しさは決して間違えない。正しい私が貴様に提示した選択は、きっと貴様を正しい道に導いてくれるだろう……何も違わない」
……正しい私の、正しい選択が、正しい道に導くねぇ……。
なるほど。
自分を信じ抜いてここまで生きてきた人間は、言うことが違うね。
「何も言えないのならば、貴様の負けだ。貴様は、大事にしているその少女を危険に巻き込んでいることに対して、責任の取りようがない。その時点で、貴様の負けだ」
「俺が負けたとしても、この少女は負けてはいないだろう?」
「詭弁を聞かせるな……! 貴様は、ただただ一心不乱にこの私の『正しさ』に身を委ねろ。そうすれば、全てが上手く運ぶ。誰も傷つかないし、死にもしない」
上手く運ぶ……ねぇ。
俺も勇者も、とっくに『人生の物語が終わった者』だと思っていたが……。
「勇者様は、『魔王と勇者の物語』の終わりの向こう側を歩もうとでも言うのかね?」
「なにも終わってはいない……魔王を倒そうと、勇者の人生は続くのだ」
……なるほど。
本来であれば、エドムで処刑されていたはずの勇者様だったが、なんの手違いか処刑を逃れてパンドラに流れ着いたことで、人生が続いてしまったのだろう……。
「救世を失敗した勇者は、『人生と言う名の物語』をまだ運び続けている……と」
……となると、今の状況自体が最悪にマズい。
未だに戦時中らしい勇者様のクソみたいな物語に巻き込まれたら、俺の平穏なる隠居生活が台無しになってしまうッ!
「イカレた脱獄犯は、あんなことをほざいてるが……メイちゃんの見解が聞きたい」
勇者が異次元のバカ過ぎて、場の流れが読めなくなってきた。
これはもう、俺の手には負えない。
無理せずに、メイに頼っちまおう。
「見解って、なんやねん?」
「メイちゃんに『選択』を託す。俺は自称勇者の異常者ではなく、信頼するメイちゃんの言葉に従うよ」
魔王と勇者がぶつかり合う状況にもかかわらず、平然と存在している因果の特異点であるメイを投入して流れを変えよう。
メイ……かつて破滅しかけた俺の命を救ったお前には、期待しているぞ。
「じゃあ……あのおねえやんに、ご飯ぐらい食べさせてあげーや」
「へぇっ!?」
メイがバカなことを言いだしたせいで、思わず変な声が出た。
「『へぇっ!?』ちゃうわ。女の子相手に、さっきからなにをいちびっとんねんっ!」
メイはあきれ顔で俺をあしらったあと、殺気立つ勇者に声をかける。
「おねえやんは、お腹が減っとって、そんで暴れとるんやろ? そやんなぁ?」
「……不用意に近寄るな」
メイが野良猫にでも接するような態度で、ナイフを構える勇者に近づく。
「そんなに警戒せんでいいよ。おいで、うちのごく潰しに横取りされた『おいしいパン』を、またつくってあげるさかい」
「……本当か?」
緊迫していた話の流れが一気に弛緩したせいで、勇者は反応に困っているようだ。
「こんなことで嘘ついてもしゃーないやろ? うちのろくでなしに意地悪されてまってかわいそうになぁ。甘い飴ちゃんをあげるから、機嫌直しぃや」
メイは謎の胆力を発揮すると、警戒する勇者に飴玉を見せた。
あれは、俺が作った砂糖でこしらえた飴か?
「むぅ……あ、飴……?」
「そうや。飴ちゃんや、牛のお乳を混ぜてあるからママの味がすんねん」
飴の包み紙を剥がしたメイが、警戒する勇者の口に飴を放り込む。
「うぐっ……甘くて優しい味がするのだっ!」
「そやろ? それは、うちの優しさや。ほら、はよおいで。おいしいもん食べさせてあげるさかい」
「わーい! やったあああああああああああああああああああああああああーっ!」
メイの優しさに警戒心を解いた勇者が、子供のように目を輝かせてはしゃぐ。
「あっさり敵の憐れみを受け入れるのか。まるで卑しい乞食だな、見下げた奴め」
「フール! いじめるのは、やめろってゆーたやろ! お前が意味わからんいじわるするから、おねえやんがキレたんやぞっ!」
「そうだ、そうだっ!」
飴を口のなかでコロコロ転がしながら、イキってくる勇者だった。
「それに、おねえやんも、うち命の恩人なんやでっ!」
「そうだぞっ! 命の恩人なんだぞっ!」
便乗勇者め、うざったいやつだ。
たった一個飴もらったぐらいで、すっかりメイに懐きやがって……!
「そこをどけ、魔王っ! 私は、その慈悲深い少女にごはんを頂くのだっ!」
「なんだ、こいつ!? むっちゃうざいんだけどっ!」
さっきまでの緊迫した空気が一変して、バカの流れになってきた。
「メイ。毒盛ってやれ、たんまりとな」
「フール、いちびるってゆーたやろ? アンタは、いちいち一言余計やねんっ!」
怒られが発生しただとッ!?
フン……まあ、いい。
よくぞ、一触即発の空気をバカの空気に変貌せしめた。
その功に免じて、今の無礼には目を瞑ってやる。
「命拾いしたな、勇者。この戦争は終わりだ。引き分けだ、『お前と俺の敗北』だ」
「私たちの敗北だと? では、勝者は誰だ?」
勇者から、先ほどのまでのひりつくような殺意がなくなっている。
会話にもバカ面で応じているし、完全に破滅の流れは消え去った!
「決まっているだろう? 勝者は、この『心優しき少女メイちゃん』だよっ!」
俺はメイの手を取って、高く掲げた。
「殺気渦巻く破滅の流れのなかにいた我々は、この親切な少女の麗しい慈悲の心に救われたのだ。嗚呼……優しさとは、人情とは、なんて素晴らしいのだろうっ!」
「放してーな! なんやねん、お前は? さっきから、なにをわけのわからんことを騒いどんねん?」
やはり、メイと一緒にいて正解だ。
勇者に半殺しにされ、腹心に裏切られ、満身創痍でこの島に流れ着いて、このロリエルフに出会って命拾いした時から……。
この小娘には、俺の『破滅の運命を変えうる可能性』を、そこはかとなく感じていたのだけれども……。
どうやら、俺の直感は正しかったようだなァッ!
流石、偉大なる魔王様っ! 先見性が神懸っているねっ!
「人生は、きちんと暮らすことが大事なのだ。そこの物騒勇者みたいにすぐに殺したり、殺されたりする殺伐とした世界は間違っているのだよ。慈悲深き少女メイちゃんは、それを殺伐感満載の勇者の君に身をもって教えてくれたのだ」
俺がいつも余裕かましていられるのは、おおよその展開が読めるし、どんな状況でもある程度ならば強引に支配ができるからだ。
まぁ、たまにはハズれることもあるが……。
たいていは、ちょっと頑張れば、流れの修正ができるッ!
だから、今回みたいに極限に面倒な状況でも、上手い落としどころに収めることができるのだ。
偉大なる魔王は、『勝つとか、負ける』とかいう凡愚の争いと同等の地平にはいない。
勝って当然。万難を排して当然ってワケ!
「魔王めっ! 私の食事の邪魔をしおってからに、次にやったら容赦せんぞっ!」
「うるせぇな! 荒らし勇者がッ! 俺の生活を荒らすんじゃねェッ!」
「誰が、荒らし勇者だっ!?」
「お前じゃいッ!」
だが、勇者のような『突き抜けたバカ』だけは、何をしてくるかがマジで読めん。
俺の運命をかき乱す不確定要素だ。
バカだから常識が一切通じず、計算が狂い、道理が崩壊する。
結果、破滅の渦に巻き込まれる。
だが、前回の戦いとは違い――。
「こらこら、おバカ二人。しょーもない喧嘩せんと、おとなしく待っときや」
今回は、俺を救済しうる可能性の特異点であるメイがいた。
「メイ、素晴らしい働きだ。やはり、お前を側に置いておいて正解だったよ」
「なんやねん、お前は偉そうに。ちゅーか、これにて一件落着でええんやな?」
「ええんやでっ!」
これにて、一件落着ってね!
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