第21話 老害おっパブジジイは成敗だッ!
「ヨーゼフおじいちゃま……そいつは、年寄りの冷や水ってやつだよ」
だが、俺はジジイの打撃よりも速く、やつの顎に掌底を叩き込んだッ!
「グハッ!?」
「嫌だねぇ、年を取ると足腰が弱っていけない」
掌底がジジイの顎を打つなり、俺は躊躇なく足払いをかけた。
「な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーッ!?」
掌底を叩き込んだ流れで顎を掴み、ジジイを思いっきり地面に押し倒すッ!
「武器も魔法も使わず、体術のみでッ! このわしを組み倒しただとォォォーッ!?」
「相手をバカにするところから入る人間というのは、経験が浅くて知見も少ない癖に傲慢な勘違い野郎だ……そう、貴様のように」
舐めてたやつが、実は偉大なる魔王様だった――なんてことが人生にあるかもしれない、と考えていなかったのが、ジジイの敗因よ。
「なんじゃとォーッ! 生意気な口叩きおってェェェ~ッ!」
「そんなお前が、その年まで生きてこられたなんて……運がいいにもほどがあるな」
戦場だったら、こんなセリフを吐く間もなく、ジジイの首をへし折っている。
だが、俺の素敵な隠居生活には、血生臭い面倒事を介入させたくない。
だから、適当な煽りだけで済ませてやる。
しゃーなしやで、ほんま。
「気まぐれで狂犬のように襲いかかるボケ老人め。なんと愚かで迷惑な存在なのだろうか」
この有害ボケジジイに限らず、雑魚ほど相手の力量を下に見がちだ。
気紛れに喧嘩を売った相手が偉大なる魔王様だった――なんてこともあるのだ。
不慮の死を避けたければ、誰に対しても最低限の礼儀を払わねばならない。
「俺に喧嘩を売ったら、反撃されて頭をカチ割られるかもしれない――とは考えなかったのか? 考えたうえでの、今の醜態なのか? それとも、考えられなかったからこそ、醜態を晒しているのか?」
「黙れ、ぼけなすがァッ! 今から起き上がって、しばき倒したらァーッ!」
「ねぇ、メイちゃん。この迷惑ジジイを殺したら、君に遺産は入るのかい?」
俺が問いかけるなり、メイが間の抜けた返事を返してきた。
「ほえ?」
「ほえ? じゃあない。『ジジイを殺したら、孫である君に遺産が入るのか?』――と質問しているんだよ」
言い直すのは面倒だ。
そして、もっと面倒なのは、老害にからまれ続けることだ。
「ちょっ、フール。なにゆーてんの?」
「遺産が手に入るんだったら、このジジイを殺してお前を金持ちにしてやるよ。そうしたらお前は、老人介護をしないでいいし、労働もしないでよくなるだろう? 日頃、世話になってるお礼をしてやるよ」
この哀れな小娘を、老人介護と労働の苦役から解放してやろうというのか、魔王様!
なんて慈悲深い魔王様なんや! 魔王様の優しさは、天井知らずやでっ!
――などと、メイちゃんは感動しきりだろうなぁ~……。
「こっわ! 殺人鬼かいな! なんで、そんな真っ直ぐな目でうちを見んのっ!?」
はあああああ~っ!?
ぬぅわ~んだ、その反応はあああ~っ!?
「蒙昧なる少女メイよ、人生は有限だ。こちらの人生を邪魔してくるドアホに付き合う時間なんてないのだぞ?」
そうなのだ。
先日の騒ぎも、勇者という最低最悪の迷惑バカに付き合ったせいで、数多の面倒事に巻き込まれ、痛くて辛い悲しい思いをしたのだ。
「まあ、いずれにせよ。ジジイは、ここで殺すけどな」
我が平穏なる隠居生活を破壊せんとする邪悪は、速やかに排除せねばならん!
この魔王の行く手を遮る一切合切の邪魔はすべて!
徹底的に排除しなければならないッ!
「ジジイ。俺は貴様と違って、魔法が得意ではなくてな……魔力をなんとなくの雰囲気で実体化させることしかできん」
ジジイを殺すことに決めるなり、早速行動に移す。
万事、拙速が大事だ。
「右手に集めた魔力を凝縮させ、球状に形成する……老眼でも、見えるかな?」
勇者に半殺しにされて弱体化した今は、こんな初歩の初歩の魔力操作しかできない。
我ながら情けなくなる……気が弱い男の子なら絶望して泣いている場面だ。
それはそれとして――。
「ジジイを始末するには、こんなもんで十分だろう」
「な、なんじゃッ!? その禍々しい魔力は……ッ!? いや、それ以前に、なんで男なのに魔法が使えるんじゃあーッ!?」
「なんでってそりゃ……一見、人間の好青年に見える俺は、『魔族』だからだよ。しかも、あの偉大なる魔王様と同じ種族――『魔人』だ」
「なにぃーッ!? 『魔人』だとォーッ!? 魔人といえば、魔族であるにも関わらず魔族に与しないばかりか、人間の味方をすることもある異端の魔族ではないかッ!? ただの無職のごく潰しじゃなかったのかァーッ!?」
なんだ、このジジイは? 耄碌して、職種と種族の違いもわからんのか。
「それはともかく。この『魔力の塊』を、今からお前にぶつける」
「なんじゃとォーッ!? なんでじゃあああああああああああああああああああッ!?」
ジジイ、戦慄からの驚愕。
「ま、魔人って、あかんじゃろ……? 正気ですのん? こいつ、見た目ふつーに人間じゃん、死んだ目をしたくっそ生意気な若造じゃん……? 自称魔族のハッタリ無職じゃなかったのか……ッ!? な~んか変な魔法使うし、話が違うぞい……ッ!」
そして、恐怖と絶望――。
「なんで、魔族が普通に街にいるんじゃあーッ!?」
「なんでって、パンドラの支配者の『魔女姫』に、滞在を許可されたからだけど?」
もう、お話はいいかな?
「メイ。死にたくなかったら、俺の後ろに来い」
「ちょっ、フール。何する気やねんっ!?」
エルフ耳をバタつかせるメイが、泡食った顔で尋ねてくる。
察しの悪い娘だ。
「わからないのかい? 今から、『ジジイを殺す』んだよ。老害の介護は疲れた、しんどい。世のため人のためにも、老害は駆除せねばならない」
「やめーや! キレすぎや! ちょっと遊ばれた程度やろっ!」
他人事だと思って、適当なこと言いやがって……。
「ちょっと遊ばれた程度ではない。筆舌に尽くしがたい無礼を働かれたのだ。気の弱い男子なら人生を悲観して自殺している、と言っても過言ではないッ!」
「過言や! あんたは、いちいち大げさなんよっ!」
「大げさではない。耐えがたい無礼と苦痛と屈辱を、三回も我慢した。一回や二回じゃない、三回もぞッ! 唐突な罵倒および挑発、そこから悪意に満ちた暴力行為……流石に次はない」
俺が偉大なる魔王ではなく、そこら辺のしょーもない魔族だったら、最初の罵声の段階で即座にジジイを殺していただろう。
――だが、そうはしなかった。
なぜならば、俺は凡愚に対しても慈悲を与える素晴らしい魔王様だからだ。
しかし、我慢にも限界というものがある。
「栄枯盛衰のえげつなさだ。ジジイはその長い人生において、多くの敗者を見てきたのだろう? 今、お前に順番が回ってきて、死の参列の最前線に立ったのだ」
適当にしゃべって時間を稼いでいる間に、いい感じに魔力が凝縮されてきた。
「や、やめ……ッ!」
「降伏して、俺の情けに縋ろうなどするなよ。お前にかける慈悲などないのだからな」
この感じなら、ジジイを一撃で始末できるだろう。
「な、なんでじゃッ!? なんで、孫娘たちにかっこいいところ見せようとしただけで、殺されなければならんのじゃァーッ!? メイが懐いてるいけ好かない若い男をボコボコにして鬱憤を晴らすついでに、わしの株を上げたかっただけなのにィーッ!」
と……とんでもなくゲスいジジイだッ!
数多の悪人を見てきた魔王様でも、ドン引かざるを得ない。
「お前みたいに品性の下劣な奴を、真の老害と言うのだ。醜い奴め……死ぬがいい!」
俺に出会うまでは、このゲスなやり口で上手いことやっていたのだろう……。
だが、その成功体験が俺の怒りを買って己の死を招くことになるとは、想像もしていなかったようだな。
クソジジイ、実に愚かなり。
「貴様のような悪党を一度しか殺せないのが、実に残念でならない」
人生という物語は、複雑怪奇――。
無職だと舐めきっていた相手が、実は偉大なる魔王様だったなんてこともあるのだ。
人生を快適に歩みたければ、慢心と油断はしてはいけないね。
……つか、このセリフ、三度目じゃね?
「それはさておき……死ねッ!」
「がっはははは! なかなか面白いものを見せてもらったぞッ!」
突然、ジジイが脂ぎったテカテカの笑顔になり、親し気に肩を叩いてきた。
「わはは! 君にはしてやられたよ、フール君! その魔力の操作技術、実に見事だ。すぐにムキになるところは玉に瑕だが、その力ならば安心して孫娘を任せられるッ!」
「そうか。ならば、憂いなく死ねるな」
適当な誤魔化しをしてきたようだが、俺は殺すと言ったら必ず殺す!
なぜならば、それが世界を統べる魔王の生き様だからだッ!
「フール! もうやめっ!」
「いいや、やめないねッ!」
小娘の戯言ごときで、俺の手は止まらんッ!
邪悪なる老害よ!
虫けらのように死ぬがいいッ!
「ジジイは、ぶっ殺すッ!」
この魔王に挑んだ愚かさを後悔しつつ……。
死ねええええええええええええええええええええええええええええええええッ!
「お昼ご飯抜きにするよっ!」
「命拾いしたな、ジジイ」
下らん戯事は、これぐらいにしておくか。
「えっ!? わしの命って、フール君の昼ごはんよりも軽いのっ!?」
「当たり前だ。比べるまでもない」
昼飯の話をしていたら、なんだか無性に腹が空いてきた。
「メイ。飯を食いに行くぞ」
「メイちゃんったら、フールがおバカでほんまによかったって思うわ」
「やれやれ~。今回の勝負は、メイちゃんの物言いでお流れね~」
プリシラが適当な事を言って場をまとめる。
「メイ! 男選びを間違えたらあかんぞォーッ! そいつは、顔はちょっと良いかもしれんが、性格はあまりにも極悪じゃあーッ!」
ジジイめ、なにか勘違いをしているみたいだな。
これは正しておいてやらないと、延々と今回みたいな喧嘩をふっかけられるぞ。
「おい、ジジイ。俺はお前と違って、ガキに欲情するような変質者じゃない。俺とメイの『誠実な関係』を、貴様の歪んだ価値観で判断するな」
「なんじゃ、貴様ァッ! その口の利き方は、なめとんのかァーッ!」
「黙れ。俺は、『貴様がキャバクラおよびおっぱいパブに入り浸って、メイやプリシラぐらいの年の女に、ただれた性欲をぶつけている』のを知っているのだぞ」
下々の者が畏怖して近づけない偉大な魔王の俺ではあるが……この街では気のいい兄ちゃんを演じて凡愚どもと交わっているので事情通なのだ。
「恥を知れ……このおっパブジジイがァァァーッ!」
「やめろォッ! 誰がおっパブジジイじゃ! いい加減なことを言うなァーッ!」
「おじいはん~……?」
「おじいちゃん~……?」
メイとプリシラがジトリとした目つきで、ドスケベクソジジイを睨みつける。
「かわいい孫たちよ、騙されたらあかんッ! あいつが、あることないことほざいとるんじゃァーッ!」
「あることないことって、『あること』があるんやないかーっ!」
「そうよ~っ! あることを白状なさい~っ!」
「ち、違うッ! それは言葉のあやで、やましいことは何もないぞッッッ!」
ジジイと小娘どもが、しょうもない家庭内不和を見せつけてくる。
付き合いきれん、みんな死ねばいいのだ。
そんなことより、飯食いに行くか。
「じゃあな、おっパブジジイ。おっパブ嬢より、孫を大事にしろよ」
「おいいいいいいいい! 仲良し家族に亀裂を入れたまま帰るなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァーッ!」
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