第16話 決闘! エロエロノーパンしゃぶしゃぶスーパー銭湯!

「魔王! 機関銃が弾切れになったぞっ!」


 死んだふりでもしていようかと思ったのに……。


 バカ勇者が、空気を読まずに声をかけてきやがった。

 しかも、くっそ大声でッ!


「うっせーな、見りゃわかる。つか、なんでテメーは湯につかってんだよ?」

「お前が意地悪して隠れ場所を譲らないから、湯船に逃げたのだっ!」


 いつの間にか、湯船のなかに逃げ込んでいた勇者は、ちゃっかり無傷だった。


「ひとっ風呂浴びてんじゃねぇよ」


 勇者は風呂に入ったことで、汚れが落ちて俺が知っている可憐な少女だった頃の見た目に戻っていた。


 蒸気でしっとりとした桃色の肌、湯で濡れて艶めく金色の髪……そして、水気を含んだ服が、デカい胸やくびれた腰、丸い尻に張り付いて……無駄にエロいッ!


「やだ……こんなエッチなの、子供たちには見せられないっ!」


 ってゆーか、こいつさぁ! 不用意に不謹慎なエロを見せつけてくること多くな~いッ!?


「弾切れみたいだぞっ! これから、どうするのだっ!?」


 湯船のなかの勇者が、白い蒸気と黒い硝煙を吐き出す機関銃を指さす。


「いけ! 突っ込め、勇者ッ! 敵を殺して来いッ!」


 面倒事は、勇者にやらせよう。


「なんで、私が突っ込まなければならんのだっ!?」

「突っ込んでくれたら、風呂上りにフルーツ牛乳をおごってやるよ」


「でりゃあああーっ! 行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!」


 ひとっ風呂浴びた勇者が、勢いよく湯船から飛び出す!


「なんだァッ!? このけしからんエロ娘はァーッ!?」


 階段を駆け上る勇者の前に、豚オヤジの手下が飛び出してくる!


「魔王! 新手の敵が出てきた、援護しろっ!」

「俺の手を煩わすな。勇者なんだから、雑魚退治ぐらい一人でできるだろ」


 とか言いつつ、桶を投げて援護してやるあたり、俺は本当に慈悲深いなぁ。


「ぐはァーッ! この無職、テメーなにしやがるッ!」


 おいおい、マジかよ!

 普通に殺すつもりだったのに……。


「殺せなかっただとッ!?」


 人間ごときならば、ちょっと力を込めて触るだけで、いとも簡単に砕け散らせることができたってのに……。


「もう一回ッ!」

「グハッ!?」


 桶をもう一回投げて、豚オヤジの部下を気絶させる。


「二回も攻撃しないとダメなのか……マジで弱体化してやがる……」


 こりゃ、戦いは勇者に任せた方がいいな。怪我したくないし。


「銃は弾切れ! 手下も倒れた! 悪人め、観念しろっ!」


 仕事の早い勇者が早速、豚オヤジを追い詰める。


「近寄るんじゃねェーッ! このガキを殺すぞッ!」


 追い詰められた豚オヤジが、メイを人質に取った。


「いたいけな少女を食い物にする極悪人の言うことなど……誰が聞くかあああっ!」


 だが、勇者はバカなので、そんなものは無意味だった。


「いや、おかしいやろっ!? うちを助けに来たんちゃうのっ!? 止まってーなっ!」


 この切迫した状況で、しっかりツッコミが入れられるとは……メイはなかなか胆力があるじゃあないか。


「落ち着け、勇者。あんまりマジになって、空気を緊迫させるな」

「なんでだっ!?」

「マジになると、メイが死亡する確率が高くなるからだよ。一旦落ち着け」


 そうそう、気合入れて真面目になんてなるな。

 必要以上にマジになると、破滅の流れが加速するぞ。


 俺は詳しいんだ。

 それで殺されたからな!


「なんだ、落ち着けとはっ!? 私は戦場では、いつでも冷静沈着だぞっ!」

「うるせぇ! そういうのを止めろって言ってんだよ! お前は、『俺が殺せって言うまで』動くんじゃねェッ!」


 状況を悪くしてくるバカ勇者を、即座に一喝する。


「偉そうに指図するなっ!」

「メイが死ねば、うまい飯にありつけなくなるぞ」

「ぐぬっ!?」


 勇者が腹立たしげな顔で睨んでくる。


「わかったら、俺の言うこと聞いてろッ!」

「なんで私が、お前の言うことを聞かなければいけないのだっ!」

「そうすれば、お前はうまい飯にありつけるからだよ」


 俺の一言で、減らず口ばかり叩いていた勇者が一瞬にして黙る。


「むぅっ! 約束を破るなよ?」

「いい子だ。バカだが、賢いぞ」


 勇者が黙るのと入れ替わりで、豚オヤジが騒ぎ出した。


「ガチャガチャ言ってんじゃねぇッ! 動いたら、このガキをぶっ殺すぞッ!」

「おっしゃっ! やれるもんなら、やってみろッ!」


「はあ? フール、テメェーッ! ふざけてんじゃねぇぞッ!?」

「ふざけてるわけねぇだろ! 口だけ野郎が、イキってんじゃねぇぞッ!」


 生意気な豚オヤジを煽ってやるなり、メイまで騒ぎ出しやがった。


「なにを煽ってんねんっ!? お前、うちを助けに来たんちゃうんかいーっ!?」

「ほら、『殺せ』! 今すぐやれッ! 『ぶっ殺せ』ッ!」

「はああああ!? 殺せちゃうねんっ! 助けろ! ばかたれがああああーっ!」


 メイが騒ぎ出すと同時に、俺の横を疾風が通り抜けた。


「フール! テメー、ふざけてんのかッ!? 舐めたこと言ってっと、マジで殺すぞッ!」

「豚オヤジよ。戦場でムキになって目の前しか見えなくなったら……負けだよ?」


 次の瞬間、勇者が豚オヤジに肉薄する。


「この私の目の前で、そんなことはやらせるわけないだろうっ!」


 さっきの『殺せ』を合図に動いた勇者が、豚オヤジをぶっ飛ばす!


「やはり、俺は偉大なる魔王だ。かつての敵すら手駒にして、勝利を掴み取る」


 素っ頓狂な言動で豚オヤジの意識を俺に向け、事前に言い聞かせておいた合図で勇者を動かし……奇襲をしかける。

 人質の命がかかっている状況にもかかわらず、一瞬で作戦を立案し、それを実行。

 そして、鮮やかに成功させる。


 凡愚には、到底不可能な行動だよなぁっ!?


「やはり、俺は魔王――たとえ無職になろうとも、常に勝利を手にする運命なのだ」


「テメー、フール! なに笑ってやがるッ!」


 豚オヤジが、なぜか俺にキレてきた。


「おい! 勇者、殺し損ねているぞ!」

「私は『殺さない』と最初に言っただろう? トドメを刺したくば、お前がやれ」

「はあ? 殺人鬼の癖に、舐めたこと言ってんじゃねぇよ」


 ほんと、使えねぇ奴だな。

 とか思っていると、豚オヤジがナイフを取り出して、襲いかかってきたッ!


「死にやがれエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーイッ!」


 完全に発狂した豚オヤジが、絶叫を張り上げ突っ込んでくる!


「なんで、俺なんだよッ!? 勇者にいけよッ!」


 俺は眼前まで迫ったナイフを避けず――


「まぁいい。殺す前に一回ぐらい刺されてやるよ」


 あえて自分の手のひらを貫かせる形で、ナイフを受け止める!


「んなッ!? 何考えてんだ、テメェッ!」

「なにも。なにも考えてなどいない」


「はあッ!? 調子乗ってんのかッ!? ふざけやがってェーッ!」

「ふざけるのは嫌いか? なら、ガチ勝負をしようじゃないか?」


 言い終わると同時に、俺は豚オヤジの手をガシッと掴んだ。


「突如開催! ガチンコ飛び降り勝負だァァァーッ!」

「なんだそりゃあーッ!? 手を放しやがれェーッ!」


「死んだほうが負けな?」

「手を離せッ! 聞いてんのかッ!?」


「はい、勝負開始ッ!」


 俺は言い終わると同時に豚オヤジに有無を言わさず、二階のバルコニーから飛び降りたッ!


「やめろーッ!」

「やめないッ!」


 豚オヤジもろとも、二階のバルコニーから勢いよく落下する!


「喰らえッ! 必殺『天空落下式竜巻落し《バルコニーダイブドラゴンスクリュー》』ッ!」


 竜巻のごとく猛回転をつけてッ!


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 回転したまま豚オヤジを下にして、一階の湯船の底に思いっきり叩きつけるッ!


「グハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!」


 落下の衝撃で盛大に水しぶきが上がった!

 辺り一面が白い蒸気に包まれる!

 娼館全体がヤバい音で軋むッ!


「ぶはぁ……っ!」


 白目を剥いて失神する豚オヤジが、水死体のように湯に浮かんできた。


「ぐはあああーっ! 予想外に痛てぇッ! 自分にも痛みがきたァーッ!」


 稀によくある――『殺す前に、相手に一回殴らせてやる』――。

 みたいな強者ゆえの慈悲の精神が、今の全身の痛み、ひいては、クソ不死王の裏切りの誘発および、バカ勇者ごときにしてやられる――という屈辱に繋がったのかもしれん……。


「ま、魔王ぶって器のデカいところを見せるのは、もう二度とせんぞ……」


 だって、俺はもう魔王じゃないんだからなッ!


「クソ! 戦場の空気にあてられて、調子に乗っちまった……ッ!」

「フール! なんで、わけわからん無茶すんねんっ!? 怪我しとるやないかっ!」


 半壊した湯船に浸かる俺に、メイが血相を変えて駆け寄ってくる。


「問題ない。ちょっと魔力を巡らせてやるだけで傷は治る。それに、風呂に入れば疲れも癒える」

「無茶苦茶な風呂の入りかたすなっ! さっさと出てこいっ!」


 とりあえず……このぐらいの肉体の損傷ならば、弱体化した今でも何の問題も無く処理できるな。

 このことがわかっただけで、さっきの無駄イキリが無駄にならずに済んだ。


「つっても、身体の治癒には魔力を多く使うから、昼寝から無理矢理叩き起こされた時ないし、長風呂の湯のぼせと同じぐらいの疲労感を覚えるな……」

「うわっ!? すごっ! 変なこと言ってるうちに、一瞬で治りよったっ!?」


 目を丸くして驚くメイが、俺の顔を覗き込んでくる。


「前々から思ってたけど……フール、あんたが時折見せる神業は、なんやのん?」

「俺はお前が思っているより、偉大で崇高なる存在ということだよ」

「なんやねん、それ? 頭打っておかしなったんか?」


 やれやれ。

 人生経験の足りないガキには、魔王の偉大さはわからないのだろうよ。


「わからなければ、わからないでいいさ。男は謎があるほうが、魅力的だからね」

「なにを寝ぼけたことをゆーてんねん。ほんま、頭だいじょぶなん……?」

「やめろ、深刻な顔で本当に心配するな」


 ガキにいちいち言って聞かせるのも面倒だから、放置だ。

 そもそも隠居生活は、魔王であることを隠して生活しなければいけないのだ。

 正体がバレたら、平穏なる隠居生活が壊れてしまうもんねっ!


「く、くそッ! フールめ……ただの無職のくせに、なんて凶暴で無茶苦茶なやつなんじゃ……いッ!」


 死んだと思っていた豚オヤジが、湯船のなかからのっそりと姿を現した。


「豚オヤジ? なんだ、生きていたのか?」

「お前みたいなもんに殺されてたまるかァァァーいッ!」


 無駄にしぶとい豚オヤジが、湯船からよろよろと出てきて……。


「死ねええええええええええええええええええええええええええええええええッ!」


 大声で叫びながら、全力で逃げ出した。


「逃がすか、こんボケがああああああああああああああああああああああぁーっ!」


 すかさずメイが、逃げる豚オヤジの背中に飛び蹴りを叩き込むッ!


「あいたァーッ!? ちょ、なんじゃ、おま……やめ! やめてッ!」

「うちが『やめて』と言った時……お前はやめたか?」

「やめたッ!」


 メイの問いかけに、豚オヤジが嘘で応じる。


「嘘つけ、こんボケナスがよぉっ! やめとらんわぁぁぁーっ!」

「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああッ!」


 無慈悲なメイによって、豚オヤジが気の毒になるほどしばき倒される。


「それ以上痛めつけるなら、いっそ殺してやれ」


 俺も気がつけば、ちょっと豚オヤジがかわいそうになっていた。

 つか、最初からこの勢いで暴れまくっていれば、こんな大事にならずにすんでいたのではないのか?


「いや……そーいうのをつっこむのは野暮だから、やめておこう」


 なにより、俺の苦労が報われんし。


「今日は、こんぐらいにしといたらぁっ! 今度、舐めた真似したら、ほんまぶっ殺すからなぁーっ! 覚えときやっ!」


 メイが啖呵を切って、攻撃の手を止める。


「な、なんちゅー暴力的なガキなんや……おとろしい奴やで……ッ!」


 すると、その隙を突いた豚オヤジが、一目散に逃げ出した。


「今日は嫌なことばっかりじゃい! せめて最後に、アンジェリカちゃんのおっぱい揉んだるわあああああああああああああああああああああああああああああーっ!」


 何とか命からがら逃げ出した豚オヤジが、なぜか勇者にセクハラを働く。


「なにをするのだっ!?」


 しかし、勇者にあっさり避けられてしまった。

「それしきで諦めきれるかッ! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 唐突に意地と戦闘力を発揮した豚オヤジが、勇者の服を乱暴に引っ張った。


「きゃあっ!?」


 服のボタンが弾け飛ぶなり、勇者のデカい胸が飛び出したッ!?


「でっか!? そして、えっろ! なんやねん、あの『ぶりんっ!』した乳はっ!?」


 娼婦にも負けないエロさを発揮した勇者には、メイも驚きを隠せない様子だ。


「くぅぅ~っ! なぜ、私がこんな辱めにあわねばならんのだ~っ!?」


「ふははは! わしゃ、タダじゃ死なん男じゃああああああああああああああッ!」


 勇者が女らしい態度を取っているのを後目に、豚オヤジはやったった感満載の顔で走り去っていく。

 たくましいなあ、豚オヤジ……裏社会で生きてるだけはあるわ。


「そして、勇者にも恥じらいの心があったのか……」

「当たり前だっ! というか、こっちを見るなあああああああああああああーっ!」


 肌を見られて恥じらうなど、バカ勇者も一応は人の子なのだなぁ……などと呑気に思った矢先――。


 戦慄が走るッ!


「我が魂よ! 闇を斬り裂く光刃と化せ!」


 次の瞬間、勇者が魔法を発動させやがった!


「『天聖光明剣』!」


 勇者の両手から、目が眩むような黄金の光が噴き出す!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 やはり、バカとはいえど、花も恥じらう乙女的には、セクハラは許せなかったのだろう……。


 勇者が最終決戦でぶちかましてきた魔法で、豚オヤジを景気よく爆殺するッ!


「変態成敗いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 そうだった……。

 勇者は、こういう戦い方をする。


 ――常にやりすぎるのだ。


「な、なんてやつだ……娼館ごと豚オヤジを始末しやがった……ッ!」


 常識が通用しない異常者だからこそ――勇者なのだ。

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