第17話 ロリエルフ誘拐事件解決! デキる男ならではの引き際の良さ

「相変わらず……やることが、無茶苦茶過ぎるッ!」


 それはさておき。


 豚オヤジが死んだことで、今の妙な流れは終結した――

 と判断していいだろう。


「これにて、俺の平穏な隠居生活を脅かす厄介事は消えたってことだなッ!」


 しかし、世界を二分する戦いを演じた魔王と勇者(ともに現無職)が、なりゆきでマフィアを壊滅させるって……。

 冷静に考えてヤバ過ぎィッ! 完全にどうかしているねっ!


「な……なんやねん、あのおねえはん……むっちゃヤバいやん……っ!」


 勇者のやりすぎセクハラ成敗を見たメイが、小さい体を震わせて戦慄している。


「ヤバいやつにかかわりたくないから、早く帰ろうぜ」

「それはそうと、フール」

「なに?」


「常時やる気皆無のあんたが、ちゃんと約束守って助けに来るとは思わんかったで」


 メイが助けてもらっておきながら、生意気なことを言ってきた。


「心外なことを言うなよ。俺は、世界で一番親切なんだぜ? だから、生意気なヘチャムクレのガキでも快く助けてやるのさ」


 バカ勇者や豚オヤジといった邪悪極まる悪党どもが、我が物顔で跋扈する最低最悪な世界にもかかわらず、人に絶望せず慈悲を与えてやる愛に満ちたこの態度たるや!

 まさに魔王様、むっちゃ偉大やでっ! ほんま、素敵やん!


「はあああ~っ!? このひねくれ者が、最初から素直に助けんかいっ!」

「無礼な小娘め。お前が変な自分語りとかせずに、最初から助けを求めていたら、最初から助けてたよ」


 まったく。自分の不幸っぷりに酔って、悲劇のお姫様気取りで意味の分からんお気持ち表明とかしやがって、なんのつもりだ?


「こらっ、言葉遊びすんなやっ! 島に漂着して死にかけっとたのを、うちに助けられた時に『十二年間、うちを守る』って契約したやろっ!? なにを、しれっと約束を破っとんねんっ!」

「契約を守っていないのは、お前の方だよ、メイちゃん。俺は、メイちゃんに『助けて』と言われない限り、お前を助けることはないのだからね」


「なんでやねんっ!?」

「そういう内容の『契約』だからだよ。だから、俺は契約にないことはしない。そうであるからこそ、契約に意味が生まれるわけだしな」


「なんやとぉぉぉ~っ!?」

「そもそも、豚オヤジが最初にからんできたときに、メイちゃんは『この俺に助けを求めなかった』じゃないか? だから、俺はあの時、すぐに助けなかったんだよ」


 自分の非を認めず文句を言ってくるメイに、正論を叩きつける。


「はあああ~っ!? なんや、おまえはっ!? 調子こいてんとちゃうぞっ! 状況に応じて、適宜適切に空気を読めっ!」

「それにも関わらず、わざわざ気を利かせて、こんな危険な場所にまで馳せ参じて、生意気で恩知らずなお前を助けてやる親切さと慈悲深さたるや! 思わず、自分で自分に惚れちまうよ」


 生まれながらの王としての器のデカさに、我ながら感心してしまう。

 俺がメイだったら――


 今すぐに臣民にしてくださああああああああああああああああああああーいっ!


 ――と身も心も、俺に捧げる場面だ。


 しかし、メイのやつは、ジトリと半眼で睨み付けてくるだけだった。


「……フール。ひとつ言ってええか?」

「なんだよ?」


「あんた、うちに惚れとるやろ?」


 唐突にわけのわからないことを言いだしたメイが、意地悪っぽい顔をする。


「じゃなきゃ、こんなグダグダ言い訳ば~っかする死ぬほどめんどくさがりのあんたが、危険を冒してまでうちを助けに来たりせんもんなぁ~?」


 それから、にやにやしながら俺の顔を覗き込んでくる。


「どや? 当たりやろ?」

「はあ? 何言ってんだよ?」


 俺は軽く微笑み、何も言わずにメイの頭をポンと軽く叩いた。


「さ、帰ろうぜ」


 これが答えだと言わんばかりに。


「えっ、うそっ!? ほんまかいなっ!?」


 まったく予想してなかったみたいな顔のメイが目を丸くし、エルフ耳をパタパタさせて驚く。


「知ってたかい? 俺は、君の笑顔を見ているだけで幸せになれる男なんだぜ?」

「ちょ、やだっ! 急になんやねんっ!? フール、あんたほんまにうちのことがっ!?」


 メイが顔を赤くしてドギマギしはじめる。

 まるで、恋する乙女だ。


 だが、ガキに色恋はまだ早い。


「アホ抜かせ、お前のようなガキに発情するわけがないだろ。お前を見捨てて、近所の連中にガチャガチャ言われるのが面倒だったから、助けに来ただけだ」

「はあああ~っ!? なんやねんそれっ!」


 適当に茶化してやるなり、メイがちんまい体と銀髪を振り乱してキレだした。


「それはさておき。『救い料』として、今月の家賃をチャラにしろ」

「するかぁーっ! だいたいお前が、うちの誘拐を事前に阻止しとれば、こんな大事になってなかったんやぞっ! こっちが、慰謝料を請求したいぐらいやっ!」


 クソガキめ……なんて、生意気な奴なんだ……!

 助けになんか来るんじゃなかった!


「慰謝料なら、豚オヤジから回収しろ。俺は既に回収してある」

「なにぃ~っ!? おまっ、どさくさに紛れてなにしとんねんっ!」


「悪人から奪うことは罪じゃないんだよ。むしろ、悪人の手から財産を善人の手に取り戻したのだから、称賛されるべき善行ともいえるだろう」

「言うこともやることも、無茶苦茶や……やっぱり、うちが教育せんとあかん……!」


 俺は、さきほど豚オヤジともつれ合っていたときに奪い取った――金のネックレスと宝石付きの腕時計をメイに投げた。


「ほらよ。お前に半分やるから、機嫌直しな」

「こんなんで機嫌よくなるほど、メイちゃんは安い女ちゃうで?」


 ジト目のメイが、催促するように小さな手を差し出してくる。


「この拾得物は憲兵さんに届けて、所有者不明で差し戻しになったら、うちのものにするわ」

「けっ! 俺からカツアゲすんな!」

「カツアゲちゃうわ、人聞きの悪いこと言わんといて。これは、順法精神に則った正当な手続きと権利の行使や」


 俺を迂回することで、合法的カツアゲを企てるメイだった。


「他にもなんか持っとるやろ? お財布とか」

「なんてやつだ……ほらよ、全部もってけ」


 俺は、メイに渡さずに隠しておいた豚オヤジの財布を投げてやった。


「目ざといやつだ。せっかくの小遣いが、ぜ~んぶなくなっちまったよ」

「なにゆーてんの。かわいいメイちゃんに嫌われるより、百億倍マシやで。ちがいまっか?」


 こまっしゃくれたガキだよ、ほんと。


「……かもな」

「あら? フールくんったら、やっと素直になったのね」

「俺はいつだって素直だよ。メイちゃんの前ではね」


「嘘こけ」

「うん、嘘」


 お互いにちょっと睨みあってから、軽く笑って流す。

 いい感じだ。


 バカ勇者のせいで乱れた流れが、元通りになっていくのを感じる。

 短い付き合いだが、気心知らない仲ってわけじゃない。

 俺達はこうやって、上手いことやってきたんだ。


「んなことより、そろそろ店を開ける時間だ。悪い奴はいなくなったし、悪い奴に借りてた借金もなくなったし、取るもん取ったし、帰るぞ」

「そやな、これにて一件落着! スナック開店の時間や!」


 解決せねばならん問題は、すべて片づけた。

 これ以上、ここにいる理由はない。


「「「なんの騒ぎだ、こいつはああああああああああああああああああーッ!?」」」


 どうやら、騒ぎを聞きつけた憲兵どもが、遅ればせながらやってきたようだ。


「その場にいる全員、動くなッ! 神妙にしろォッ!」

「フールッ! まーた、マフィア相手に喧嘩してんのかァーッ!?」


 憲兵どもはやってくるなり、さっそくダルがらみをしてきやがった。

 なんでパンドラの憲兵どもは、バカみたいに声がデカいんだ?


「うるせぇな。俺じゃねぇよ」

「この街でマフィアに喧嘩売る異常者は、お前ぐらいしかいないんだよォッ!」

「無職のくせに働きもせず、マフィアと喧嘩ばかりしやがってッ! 仕事しろッ!」


 はあ~? 凡愚の癖になんだ、この上から目線の偉そうな態度は?

 しばき倒すぞッ!


「人聞きの悪いこと言うなよ。俺は、悪人にさらわれた女の子を助けに来ただけさ」


 ――などと、そこらの勘違い野郎なら、喧嘩腰でイキっている場面だ。


 だが、俺は格下の凡愚の相手などしない。

 なぜなら、偉大なる魔王様だから!


「っていうかさぁ~。憲兵さんさぁ~、しっかり仕事してよねぇ~? アンタらが仕事しないおかげで、うちのかわいいかわいいメイちゃんが、極悪マフィアに誘拐されて無理矢理娼婦にされちゃうところだったんだよ?」

「なるほど……それが原因で、マフィアを襲撃したのかァッ! なんてやつだッ!」


 えっ!? バカなの!?


「話を聞けよ! こっちは被害者だぞッ! マフィアを襲撃して娼館を破壊したのは……そこで話に入ってくることができず、足で地面に絵を描いたりして手持無沙汰にしている金髪巨乳女だよ」


「「「金髪、巨乳、女だとぉぉぉ~……ッ!?」」」


 無駄に殺気立つ憲兵どもが、先ほどからずっと状況についてこれずに取り残されている勇者に詰め寄る。


「女ァッ! 見ない顔だな、よそ者め! 貴様が犯人かァーッ!?」

「器物損壊および建造物損壊罪、加えて傷害罪の容疑で、御用だァーッ!」


「なにぃーっ!? なぜ、なにも悪いことをしていない私を捕まえるのだーっ!?」


 憲兵と勇者が、ぎゃーぎゃーと大声で揉め始めた。


「なぜって、貴様のやたらと光ってる両手はなんだァーッ!? どー見ても魔法だろうがァーッ!」

「ボロッボロに破壊された建物ォッ! ボコボコにしばき倒されているマフィアにィッ! 攻撃魔法を発動している貴様ァッ! 状況証拠は充分だろうがァーッ!」


「は、放せっ! 私は、罪のない娘をさらって無理矢理、娼婦にさせようとした不貞の輩を倒したんだぞっ! 捕まるような悪いことは、なにもしていなーいっ!」


 両脇を挟まれたバカ勇者が、憲兵を振りほどこうとして、奴らを殴った。


「あいたァッ! あいたァッースッ!」

「貴様ァッ! 公務執行妨害だぞォッ!」

「ちがう! 今のは、正当防衛だっ!」


 バカどもが喧嘩をおっ始めるなり、メイが不安げに声をかけてきた。


「フール。なんか、むっちゃ揉めとるけど……ほっておいて、ええんか?」

「ええに決まっているだろ」


 尋ねるまでもない愚問だ。


「断言しとるけどさ……あのおねえやん、まったく知らん人やけど一応、うちを……」

「おい、アイツを見るな! 知り合いだと思われるだろっ!」


 ここで勇者が憲兵に捕まってくれるのが、考えうる限り最善の状況だ。


「やめろ、離せぇーっ!」

「「離さんッ!」」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」


 勇者が無駄に暴れるせいで、憲兵たちはすっかりマジになっている。


 これならば、俺が手を下すまでもなく、勇者はパンドラ国で捕縛されるだろう。

 そして、賞金首の引き渡しやらなんやらで、勇者はエドム国に移送されて……。

 死刑だ。


 さすれば、俺はなんの憂いもなく平穏なる隠居生活を楽しめるってワケ!

 嗚呼! なんと素晴らしい幕引きだろうッ!


「やめろ、はなせえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええーっ!」


「「「極悪犯罪者め! 正義の憲兵に勝てるわけないだろォォォーッ!」」」


 とはいえ、あいつは姿形こそ人間の小娘だが……その中身は、驚異的な戦闘力で数多の魔族を虐殺してきた化け物だ。


「放せと言っているだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!」


 どう考えても、憲兵数人ごときで捕縛できるようなヤワな女ではない。

 つっても、俺がこの場から立ち去る時間ぐらいは稼げるだろう――。


「「「ぐあああああああああああああああああああああああああああァーッ!」」」


 ……ダメっぽいな。憲兵どもが瞬殺されてしまった。

 面倒に巻き込まれる前に急ぎ、帰宅しよう!


「帰るぞ、メイ!」

「いや、帰るって……あのおねえやん、放置しておいてええんかいな?」


「放置もなにも、今回の騒動は全部あいつが責任をとってくれる。なにせアイツは、困っている人がいたら救わずにはいられない正義の味方なんだからな」

「はえ~。むっちゃ親切なええ人やん」


「賞賛に値する比類なき正義の味方――まさに『勇者』だよ」


 実際のところは、世界的な大罪人なのだが……細かいことは伏せておく。

 なぜならば、面倒だからッ!


「ああッ! お前、よく見ると、エドムの王を殺した大罪人ではないかァッ!?」

「本当だァッ! 『元勇者』の賞金首アンジェリカじゃねぇかァッ!」


 憲兵共が遅ればせながら、勇者の正体に気付いた。


「『元』ではない! 今でも私は、誇り高き勇者だっ!」

「全人類の敵だァッ! 今すぐに応援呼べえええええええええええええええーッ!」

「パンドラ王立憲兵隊の威信にかけて捕まえろおおおおおおおおおおおおおーッ!」


「なんでそうなるのだああああああああああああああああああああああああーっ!?」


 フン。バカな奴だ。

 全世界規模の指名手配犯の癖に、復讐に身を委ねて人目につくようなことをするから、こんな大事になるのだ。

 人生ってのは、気分がアゲアゲになった時ほど、注意深くしなきゃいけねーのよ。


「待つのだ、憲兵たち! あそこにいるのは、魔王だぞーっ!」


 バカのくせに小賢しい勇者が、俺を巻き添えにしようとしてきやがった。


「はあ? 魔王は、お前が討伐しただろうがァッ!」

「いや、そうだけどっ! そうではないのだぁっ!」


 現実は、残酷で冷酷だ。

 世界を救った勇者だろうが、今やちゃんとした罪人。

 やつの言葉に耳を貸す者などいない。


 というか、そもそも俺の正体を知っている人間は、この世に勇者しかいないのだ。

 やつが俺に関してなにを言っても、なんの意味もないのだよ。


「勇者……いや、大罪人アンジェリカ。今日で、お前の物語は終わりだ。おとなしく捕まって、処刑されろ」


 よくわからん間抜けな流れで一緒にいたが……。

 元はと言えば、勇者は憎き仇敵だ。

 できるのならば、俺の手で殺して復讐を成し遂げたかった。


「魔王おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 だが、これ以上、こいつと縁があると、また破滅に引きずり込まれる気がする。


 なので、今はとにかく!

 こいつからできる限り早く、そして遠く! 離れたいッ!


「なぁに? 魔王って、誰のこと? よくわかんないから、僕もう帰るね」


 そう――。

 復讐とかざまぁとかどーでもいいので、魔王様は静かに隠居したい!

 ただそれだけだ。


「待てえええええええええええええええええええええええええええええええい! なに、自分だけ逃げようとしているのだああああああああああああああああああっ!」


 勇者が憲兵どもの拘束を振り解いて、襲いかかってきた!


「ああっ、あれはーッ! 勇者の仲間の賢者だあああああああああああああーッ!」

「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーっ!?」


 適当な嘘をつくなり、勇者がすかさず喰いついた。


「貴様ぁーっ! この私を陥れた罪! その身をもって償ってもらうぞぉっ――って、誰もいないっ!?」

「「「大人しくしろォッ! 御用だ、御用だァァァーッ!」」」


 勇者の隙をついた憲兵たちが、一斉に襲いかかる。


「やめろ! はなせえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」


 仕事が片付くなり、問答無用で即帰宅。


「さて、帰るか」

「待て、魔王おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 できる男ならではの、この引き際の良さ。

 男のみならず女子供でも、明日から真似したくなる姿勢だ。


「めでたし、めでたし」

「めでたくなああああああああああああああああああああああああああああいっ!」




第1部 第1章 うっかり出会った無職魔王と罪人勇者


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