第6話 わんぱくおっぱいとセクハラ因果応報とカツアゲ

 豚オヤジの想定外の反応に対して、俺は普通に驚いてしまった!


「なんで、俺もなんだよっ!? おかしいだろっ!」


「うるせぇ! 元々、お前を狙って来たんだよッ! このまま、お前は生け捕りにして、強制労働場送りだッ! パンドラの青い海での楽しい楽しいクラーケン漁が、お前を待ってるぜェ~ッ!」


 楽しい楽しいクラーケン漁だとォ~ッ!?

 マフィアに借金して潰された連中がやらされてる『超絶苦役労働』じゃねぇかッ!

 俺の穏やかな隠居生活には、まーったく相応しくない!


 今すぐに、ここから逃げなくてはッ!


「やばいことになったぞ! 勇者よ、どうするッ!?」

「やめろ! 友達みたいな感じで話しかけてくるなっ!」


 勇者の奴が、生意気な態度で接して来やがった!


「罪人のくせに、生意気な口を利くなッ!」

「なにぃっ!? 誰が罪人だっ!」

「お前じゃい! そもそも、この騒ぎも元はといえば、ぜぇーんぶ……お前のせいだろうがッ! 反省しろ! そして、さっさと手錠を外せッ!」


 このバカたれ娘がッ! 魔王に歯向かうんじゃないッ!


「そして、アンジェリカちゃん! 君は、大戦の英雄であるエドムの王を殺した大罪人……残念だけど、君のような極悪人は世のため人のため、お縄についてもらうよッ!」


 神妙な顔をする豚オヤジが、柄にもないことをほざきやがる。

 いや、まだ話続いてたんかい!


「まずいことになったぞ! 魔王、どうするっ!?」

「知らん。友達みたいな感じで話しかけてくんな」


 ふざけ倒した奴よ。勇者は、本当にどうしようもないバカと断言できる。


「がははは! わしは、運がいいなぁっ! 稀代の大罪人である勇者アンジェリカを捕まえたとあれば、パンドラの歓楽街を買い占められるぐらいの金を手にするだけにとどまらず……世界一の悪人を捕まえた英雄として、勇者を超える存在になっちゃうぜぇ~っ!?」


 豚オヤジがバカな夢を見て、きったねぇヨダレをたらしてやがる。


「お前ら! この二人をしばき倒せえええええええええええええええええェーッ!」


 無駄に猛っている豚オヤジが、大声で命じる。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」」」


 それに応じた豚オヤジの部下どもが、俺と勇者に襲いかかってきた!


 クソ! バカ勇者のせいで、ろくでもねぇ厄介事に巻き込まれちまった!

 許せん! このバカ勇者に責任をとらせるしかないッ!


「勇者アンジェリカよ! 我らに歯向かう凡愚どもを鏖殺するのだッ!」

「なんで私が、そんなことをしなければいけないのだーっ!?」


 はああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!?


 意味わからん!

 ぬぅわ~んでこいつは、この偉大なる魔王様に歯向かってんじゃいッ!?


「キャンキャンうっせぇ! 勇者を名乗るのならば、悪人共を殺せェーッ!」

「殺さないっ! 私は殺人鬼ではないのだっ!」


 とかやっていると、豚オヤジの部下が襲いかかってきた!


「あぶねェーッ!」

「おい! 魔王、引っ張るなっ!」


 くそ! バカ勇者と手錠で繋がっているせいで、上手く動けねぇッ!


「フール! この前の居酒屋での喧嘩の借りを返すぜッ!」

「きゃわいいロリっ子と一つ屋根の下に暮らしやがって! ひたすら憎いぞッ!」

「俺、エルフの女の子に養われたいッ! お前、許さないッ!」


 バカ共が、ろくでもない私怨で襲いかかってきた!?


「「「喰らえッ! これが俺たちの! 妬み嫉み怨みだああああああああッ!」」」


「やめろ! ろくでもないものをぶつけてくるなッ!」


 とりあえず、バカどもに殴られる前に蹴りを叩き込んで、撃退する!


「ロリエルフと同じベットで寝やがってよォッ! 成敗してやるッ!」

「寝てねぇッ!」


 隣にいた勇者を盾にする!


「ほげええええええーっ!?」


 攻撃を喰らった勇者が、間抜けな声を上げてぶっ倒れる。


「おい! そんぐらいで倒れるなよッ!」


 倒れる勇者に引っ張られて、俺も倒れちまった!


「痛った……!」

「ひゃん!」


 手の平に、温かく柔らかく、それでいてぷるんと弾力のある妙な感触がある。


 こ、これはァァァーッ!?


「勇者のおっぱいのやつだァァァーッ!」


「気安く揉むなぁぁぁーっ!」


 はぐれ魔王純情派の俺は衝撃のあまり、なかば無意識の形で、勇者のわんぱくな乳を揉んでしまった!?


「フール貴様ァッ! わしが金を出して触ろうとしても。断固として拒絶され続けたアンジェリカちゃんのおっぱいをいとも容易くも揉みしだきやがってェーッ!」


 突然、豚オヤジがブチギレて襲いかかってきた!


「なんだ、そのバカなキレ方――ぐはっ!?」


 怒りのこもった強烈な打撃が、思いっきり顔面に叩き込まれた!


 豚オヤジの癖に、やるじゃねぇか……ッ!


「このド変態が! 気安く揉みしだくなああああああああああああああああーっ!」


 豚オヤジに続いて、勇者にもぶっ飛ばされたァーッ!?


「ぐはあああああああああああああああああああああああああああああああーっ!」


 い……意味が分からない。完全にとばっちりだ。


「セクハラ因果応報だな、フール! この罰当たりどスケベ野郎がッ!」


 何言ってんだ、このオヤジ!?


 つか、とんでもなくふざけ倒した状況だが……。

 マジでよくない流れの中にいる!

 かつて飲み込まれた『破滅の流れ』と似た嫌なものを感じるぜ……。


「フール! お前がメイの用心棒なんてやるから、わしは金が回収できねぇし、メスガキを調達できねぇし、地上げもできねぇッ! いい加減、本気で迷惑なんだよッ!」


「知るかよ。こっちは隠居生活してんのに、働かせたがりの雇い主に『無職は許さん!』っつわれて無理矢理、用心棒をやらされてんだッ!」


 ……やだ。なにこれ……。


「言葉にすると、よくわかる……俺ったら、不幸すぎるじゃない!」

「ふざけた野郎だッ! ここらで、きっちりと落とし前つけさせてもらうぞッ!」


 豚オヤジが唐突に戦闘力を発揮して、懐からナイフを出しやがった!


「強制労働に送る前に、手足の二、三本は潰しておかねぇと、わしの気が済まんッ!」


 ……このままだと、冗談抜きでろくでもないことになりそうだ。

 多少の無理をしてでも、ここらで決着をつけちまおう――。


「テメーのやりたい放題も、今日で最後よ! フール、死ねィィィーッ!」


 支離滅裂な言動を取る豚オヤジが、俺をぶっ殺そうと襲いかかってくる!


「楽しい隠居生活はこれからなんだ……こんなところで、死んでたまるかッ!」


 殺される前に殺してもいいのだが……それにより発生する逃亡だの逮捕だのの面倒事はごめんこうむる。


「喰らえ、おらァァァーッ!」


 とりあえす、全力のガチビンタを叩き込むッ!


「ひでぶうううううううううううううううううううううううううううううううッ!」


 ガチビンタの直撃を喰らった豚オヤジが、勢いよく地面にぶっ倒れる。


「ひ、ひぃぃぃ~っ! 無職のくせに、なんて力なんじゃあ~ッ!」


 真っ赤な鼻血を噴き上げる豚オヤジが、情けない悲鳴を上げて泣く。


「ビンタで済ませてやったんだ、感謝しろ。拳だったら今頃、顔の骨が砕けてるよ」


「おい、魔王っ! 一般人に暴力を振うとは何事だっ!」


 いきなり、勇者が横やりを入れてきた。


「悪事はやめるのだああああああああああああああああああああああああああっ!」 


 つか、飛び蹴りを喰らわせてきやがった!


「痛ってぇなァッ! なにすんだ、テメェェェーッ!」

「雇い主殿っ! この男に殺されたくなければ、さっさと手下を連れてどこかへ逃げるのだっ!」


 勇者のバカが、豚オヤジをしばき倒すのを邪魔してきやがった。


「な、なんでわしがビンタ喰らったぐらいで、腰抜けみたいに逃げなあかんのじゃ!?」

「ほんとだよ! 豚オヤジ、今からしばき倒してやっから、逃げんじゃねぇぞッ!」


 邪魔だてしてくる勇者を突き飛ばして、豚オヤジに近づく。


 すると、豚オヤジがイキった感じでスクッと立ち上がった。


「今日は、こんくらいにしといたらァッ! 次は、必ず金返してもらうからなッ!」


 無駄にイキってくる豚オヤジが、くそダサい捨て台詞を吐く。


「お前が忘れんなよ。次に舐めた真似したら、マジで潰すからなッ!」


 もう一度、豚オヤジにガチビンタを叩き込むッ!


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!」


 両頬を腫らした豚オヤジが、手下どもを引き連れて血相変えて逃げていく。


「やれやれ、間の抜けたオチだな」


 つっても、無駄に血だの死だのを見るのは、隠居生活らしくねぇし、これでいいのかもな。


「なんかムカつくオチとはいえ、厄介払いできただけよしとするか」


「なにを、ひとりで満足げにしているのだっ! 私の目の前で乱暴狼藉を働きおって! この極悪魔王め、許さんぞっ!」


 豚オヤジどもが逃げ出すなり、今度は勇者がダルがらみしてきた。

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