第5話 策士、策に溺れる!?
「バカじゃねぇの? 『温かいご飯が食べたかったのだぁーっ!』じゃないんだよ」
勇者め……どうしようもないバカ娘だ。
闘争に特化し過ぎて、それ以外が壊滅的にダメなのだろう。
「普通の人に比べて、私は頑丈で力もちだからな。雇い主殿の『借金を払わずにいる悪い男を掴まえてほしい』という頼み事に、力を貸すことにしたのだっ!」
「普通の人に比べたら、お前は化物だ。つか、まだ自分語りが続いていたのかよ!?」
隙あらば、自分語りをぶっこんでくる迷惑な勇者だった。
「ぬふふ。女の子を使ってお前を油断させてから、しばき倒してとっ捕まえる――これ、マジで頭脳派策士やん? さすが、パンドラの歓楽街のドンやん? やることが素敵やん? なぁ、お前ら?」
「「「素敵ッス!」」」
勇者もバカだし、マフィアもバカ。
世俗は、バカばっかりだ。
あーあ! はやく、お家に帰りてぇなぁっ! おい!
「やってらんねぇ、俺はもう帰る。おい、バカ勇者。さっさと手錠を外せ」
「ガチャガチャうっさいんじゃいッ! フール! お前の飼い主の借金、今すぐ耳を揃えて返さんかいッ! こんボケナスがァーッ!」
なんかしらんが、豚オヤジが唐突にブチキレた。
「なにが、飼い主だよ。俺は誰にも飼われてなどいない。二度も同じことを言わすな」
「じゃかましいッ! お前、あのロリエルフの『ヒモ』だろうがァーッ!」
「ヒモじゃねぇ。用心棒やったり店長やったりして、真面目に働いてる」
「嘘つけッ! お前が働いているところなど、一度も見たことないわ! この嘘つき無職がッ!」
けっ! この魔王を無職扱いとは、無礼極まるクソオヤジめ。
「つーかさぁ~。なんで俺が、あのクソガキの借金を払わなきゃいけないんだよ?」
「連帯責任だよ! 連帯保証人制度だよ!」
「はあ? 赤の他人の俺に、なんでそんなもんが発生してんだよ?」
「うるさいんじゃい! キャンキャン言うてる暇あったら、金を返さんかいッ!」
うっぜぇぇぇ~っ!
異常中年男性かつ裏社会の人間特有の話の通じなさを発揮しやがった。
メイは、親族にギルドやら騎士団の関係者がいて手が出しづらいから、一見すると『ただの気のいい好青年』である俺を狙ったんだな……!
「金を返せだと……?」
「借りたもんは、きっちりと返す――人として当然のことじゃいッ!」
フン。笑止。
「黙れッ! 昼間からブラブラしてる俺が、金なんか持ってるわけないだろォーッ!」
「いばるなッ! ならば、働いて返して貰うまでよッ!」
は? 絶対に嫌なんだが?
「ざけんな! 俺は、隠居生活を楽しんでんだ。労働などするか、ボケがッ!」
「働くのが嫌なら、お前の飼い主に金を払わせるんだな。おい、こいつを連れて行け!」
チッ。こんなことになるんなら、散歩なんてしないで、家で寝てればよかった……。
それはさておき。
今のクソみたいな状況から早く脱出してぇ。
さて、どうしたものか……?
「よくわからんが、雇い主殿に借金があるのならば、働いて返すのが道理だぞっ!」
バカ勇者が話もわからないくせに、脇からウゼェことをほざきやがる。
こーいう横から口だけ出したがる性格の悪いバカって、無駄に多いよなぁっ!?
「うるせぇ。よくわかんねぇなら、バカは黙ってろ」
「なにぃっ!? 誰がバカだ、私は勇者だぞーっ!」
はうあ! ひらめきーっ☆
突然、いいことを思いついたぞッ!
やはり、俺は腐っても世界を統べる魔王様!
頭脳が凡愚どもとは比べ物にならないぐらい賢い! すごい天才魔王様!
「おい、豚オヤジ……貴様に良いことを教えてやる」
「あん? 急になんやねん? お前みたいなもんに教わることなど、なんもないわ」
「黙って聞け……そこの小汚い小娘を見ろ。お前がガキの使いをさせてるそいつは、絶賛指名手配中の『王殺しの勇者アンジェリカ』だぞッ!」
バカ勇者を豚オヤジに売ることにより邪魔者を二人同時に追っ払える――という最高の作戦だッ!
ロリ巨乳やイチゴ大福にも匹敵する、一挙両得および一石二鳥だと断言できる。
「んなわけあるかい! なんで、こんな世界の果てに島外の罪人がいるんだよ?」
うわ~、うっざ!
バカの癖に、疑り深い奴めッ!
この偉大なる魔王の言葉を疑うとか、こいつ正気か?
「……仕方がない。物わかりの悪い豚オヤジのために、もう少し丁寧に説明してやる」
「やめろ! 誰が王殺しの勇者だっ! 私は、『裏切り者どもの邪悪な謀略によって、王殺しの汚名を着せられただけだ』と言っただろうがーっ!」
と思ったが、勇者が勝手に正体を暴露してくれた。
ありがとよ!
「「「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」」」
豚オヤジとその手下どもが、目ん玉を飛び出させておったまげる。
この調子なら、あとは軽く背中を押してやるだけで、完全に疑念を吹き飛ばせるな。
「豚オヤジども! そこの壁に貼られている手配書を、よーく見てみろォーッ!」
俺の誘導で、豚オヤジたちが建物の壁に貼られた手配書を見る。
「「「はうあ!? そーっくりっ!」」」
手配書には、似てるんだか似てないんだかよくわからん勇者の似顔絵が描かれている。
「お前らの目の前にいる小汚い小娘は、大戦の指導者であるエドムの王を殺した大罪人――『元勇者アンジェリカ』だァーッ!」
だが、ここまでお膳立ててやっていれば、あれを勇者だと認識するはずだ。
「なんだと!? あの小汚い小娘が人類への叛逆者! 大罪人アンジェリカだとっ!?」
「ち、違うっ! そんな深刻な感じの大罪人ではないっ!」
正体が露見した勇者が、両手をブンブン振って大慌てで否定する。
「え? 違うの?」
「そうだ、違うっ!」
勇者が大声で否定するなり、きょとん顔していた豚オヤジがにっこりと笑う。
「そうだよねっ! アンジェリカちゃんは、お腹が空いているだけのわんぱく巨乳少女だもんねっ!」
「そ、そうだっ! 私は、お腹が空いているだけのわんぱく巨乳少女であって、断じて、大罪人などではなーいっ!」
勇者が見え透いた嘘をつくなり、豚オヤジがもう一度にっこりとほほ笑む。
「なら、良かった。わし、ほっとした」
「わ……わかれば、いいのだっ!」
勇者のやつ、豚オヤジに気に入られてるのか?
まぁ、勇者は顔だけは美少女っつーか、無駄にかわいげがあるし胸もデカいから、アホ相手なら手玉に取れるのかもしれんなぁ~……。
「待ってくれ、ボス!」
豚オヤジの手下が、唐突に口を挟んできた。
「むっ! お前は、魔王討伐軍に参戦していたということで採用した護衛っ!?」
「間違いねェッ! あのわんぱく巨乳少女は、勇者アンジェリカだッ! 俺は、あいつが率いる魔王討伐軍に傭兵として参加して、恐ろしい魔物蠢く魔大陸まで行ったんだッ! あのわんぱく巨乳少女のことはよーく知ってるぜッ!」
え、やだ……待ってちょうだい!
さっきから、なんなの? このバカな会話っ!?
「俺は悲しいぜ、勇者様! アンタを信じて危険な戦いに身を投じたってのに、あんな形で裏切られるとはなァッ!」
「ち、違うのだっ! 私は、裏切ってなどいない! むしろ私が、裏切り者どもにハメられたのだっ!」
戦争中は凡愚どもに女神のごとく信奉されていた勇者も、今や王殺しの大罪人として憎まれている、と……。
まあ、あれだよねっ!
魔王様に牙を剥くなんていう大罪を犯すから、そんなことになるんだよっ!
まさに、自業自得! 本来だったら、その罪の重さに押し潰されて、惨たらしく死んでいてもおかしくないんじゃいッ!
「それはそれとして! このスカした男は、あの『魔王カルナイン』だぞっ!」
勇者が苦し紛れに、話の矛先を俺に向けてきた。
「「「はあああああああああああああああああああああああああああああ~?」」」
話が唐突かつ意味不明過ぎて、豚オヤジたちは勇者の話についていけない。
「何言ってんだ、お前? 偉大なる魔王は、お前がぶっ殺しただろうがッ!」
バカな勇者を黙らせつつ、豚オヤジたちに一切疑念を抱かせないように誘導する。
「そうだ! いや、そうなのだがっ! なぜか、魔王が生き返っているのだーっ!」
「アンジェリカちゃん……あんた、何言ってんだい?」
「私を信じてくれっ! あのどう見ても無職の男は、魔王なんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーっ!」
豚オヤジたちから冷めた目で見つめられる勇者が、必死に意味不明な説得を試みる。
「うるせえ! たわけクソ勇者! いや、稀代の大悪人がッ!」
勇者に二の句を継がせないようにすると、俺は次の作戦に出た。
「おい、豚オヤジ! その賞金首を譲ってやるから、俺の家主の借金をチャラにしろ。十三億も手に入れば、メイの借金なんて子供の駄賃みてーなもんだろ?」
俺の妙案を聞いた豚オヤジが、ニヤリと嫌らしく笑う。
「ほほ~う。そいつはぁ、面白い話だなぁ~」
ふん。
凡愚など欲望を煽ってやれば、あっという間にこの魔王の傀儡と化すのだ。
愚かで卑しく、それでいて、くそったれな勇者め!
この魔王を敵に回したことを後悔し、懺悔し、そして絶望しながら、処刑されるがいい!
ふはははははははははははははははははははははははははははははははははッ!
「よっしゃ、お前ら! 二人まとめてやっちまえッ!」
「なんでだよッ!?」
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