小雨

Aさんが車を出す日には小雨が降っていた。

私はいつも小雨程度ならコートのフードをかぶってやり過ごす。

「僕、傘持って来ましたよ」

あの男は折り畳み傘を取り出すと、広げて私に向けた。随分と自慢げな顔だ。

「フードかぶってるから私は大丈夫です」

「でも風邪引きますよ」

「大丈夫です、いつもこうだから。傘は自分で使ってください。その服フードないでしょう?」

「でも風邪引きますよぉ……」

心配そうな顔をしながらあの男は傘を私に傾けて離さない。雨はあの男を打ち続ける。私はフードに守られているのに。

「じゃあわかりました」

私は傘に入ると、あの男に体を近付けた。傘の持ち手を握って、あの男側にできる限り傾ける。これであの男は雨に打たれない。

「これでいいでしょう?」

あの男に聞くと「うーん……でも風邪引いちゃいますよ」と納得の行かない返事が返って来た。ごちゃごちゃうるさい。


車のクラクションが鳴る。

「こっちこっち!2人とも遅くなってごめんね!濡れちゃうから走って!」

Aさんが車の窓を開けて私達に声を掛けた。


「走りますか」

「走りましょう」

私達は体を寄せ合って走った。

あの男も私も笑っていた。

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