観察力

「またあの子あなたの寝顔見てたね」

転寝うたたねの後に食堂を出るとYさんが話しかけて来た。


Yさんは私達の母親程の年齢らしい。

年齢は教えてくれないけど若く見える。いつもチャキチャキ働いて、面倒見が良く、とても優しい。

Yさんが「あの子」と呼ぶのはあの男だ。


「仲良いの?変わってるじゃない、あの子は」

「変わってるけど、よく笑って素直な人ですよ。機嫌が良いとずっと笑ってる」

「ウソー!アタシあの子が笑ってるの見た事ないよ!いつも真面目な顔してるよね?」

「私の家が散らかってるだけで笑い続けてますよ。頭がとても良い人だし、笑うポイントが他人と違うから誤解されやすいのかな」

「あなたは観察力があるんだよ!あれだよ、私から見たあの子と、あなたから見たあの子は違って見えるんだよ」

「そうなのかな?」

「アタシから見たあなたと、あの子から見たあなたも違うよ」

「そっか」

「アタシ本当にあの子が笑ってるの見た事ないや。あっ、ごめんもう時間」

そう言ってYさんは仕事へ戻った。


私から見たあの男は冗談が好きでよく笑い、頭が良くて誤解されやすく、素直で子供のように甘えるのがうまい。


あの男から見た私は?

私の寝顔はどう見えてるの?

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