冗談

私は緊張しやすい人間で、だからこそ冗談を言って自分の緊張を解いている。


あの男は私の隣に座って冗談を聞き、よく笑うようになった。初めて会った頃の無表情や厳しい口調は逆に珍しくなってしまった。


ある日、私の家に何人か集まって作業する事になった。狭い家だから多くの人は集まれない。効率良く作業を進めるにはどうするか話していると、あの男が「良いなー、僕も行きたいなー」と言った。

甘えたような、しかし媚びは無い口調で。いつもの無邪気な表情だった。

私は「家は散らかってるよ。引くよ」と言うと、あの男は「どんなに散らかってるか見たいなー」と言った。何かをねだる子供みたいだった。


私はその日から、その男を意識するようになった。


作業も終わった翌日、あの男が私の隣に座って「今なにかしたい事ありますか?」と聞いた。私は「手足を伸ばして眠りたい」と答えた。


あの男はクスクス笑いながら「あの狭い家で手足を伸ばす?」と冗談を言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る