KAC20235/お題:筋肉 王と禁断の召喚魔術

「ん・・・暑い・・・」


私は部隊室の窓際の隊長席で強い春の日差しの元、ロレッタへの連日の教育の疲れによりウトウトしていた。だからだろうか、L.M.Dに入った頃に起こした事を夢見てしまったのだろ。


あれはまだソロモン王の魔術の内、召喚魔術である小鍵をルバスより学んでいた頃だった。

L.M.Dの傭兵研修で日本のアイドル達の野外チャリティーコンサートの護衛依頼の任務についている時に起きた。

コンサート会場の周りは入念に樹獣や樹虫等の駆除をしたはずだった。しかし、あるアイドルが歌い始めてて少しした後異変が起きた。

ステージの後方に森の奥からヴーーーンという羽音が聞こえてきた。私はルバスとマリナ共にそちらへ向かうとカブトムシとクワガタの樹虫が群れを成して飛んでくるところだった。

カブトムシの角、クワガタの角、樹虫であればその硬さや速さは通常とは比べ物にならない。人に突っ込めば軽く穴が開くだろう・・・

そのままにはしておけなかった。俺は一声を上げる。


「マリナ!」


マリナは前に出て、石を一つ地面に放り投げると茨の壁が目の前に出来た。秘印魔術による壁にカブトムシとクワガタは突き刺さり、身動きを止めた。硬い氷の壁でなく柔らかくしなやかな茨の壁により、阻まれていた。そこへマリナはまた石を取り出し、火をつけようとしてのを見て、マリナを止める。


「マリナ、ストップ!こんな所で火を使ったら不味い」


マリナが俺を見て、カクンと止まる。

茨の壁より突き抜けようとするカブトムシとクワガタの動きは止まらない。

ここにいるのは俺とマリナとルバスだけ・・・

マリナとルバスの二人なら戦える。

だけど俺は・・・

俺の意識は状況のまずさに焦りが生じてきていた。

無意識に俺の右手を持ち上げる。その右手の中指に嵌められた黄金の指輪に光を放ち始めた。その光は魔法円を描き、召喚魔術を使用した。


「・・・・・・えこえこあざらく・・・えろえろあざらく・・・いろいろあざらく・・・我は求め訴えたり!」


鍵言を唱え終わると魔法円の中央に一人の人物像を結ぶ。

そして、ガッチリムキムキ、ボディオイルでヌラテカとした褐色肌のスキンヘッドでブーメランパンツ一丁の男がフロントリラックスしながら現れた。


「あ・・・あなたは魔王・・・?」


俺は現れた人物に声をかけるとくるりと身を翻した。


「OOu、MY、SOUL BROTHER~」

「・・・っは?」


マッチョのボディビルダーが両腕に力こぶを作るフロントダブルバイセップスしながら返事を返してきた。おれは目を点にしたルバスにある事を聞く。


「ルバス・・・こちらはなんて魔王?」

「こんな魔王いねぇーーーよ!?」

「OOu、MY、SOUL BROTHER~私ハ何ヲスレバイイノカネ」

「とりあえずそんな筋肉しているんだから、その茨の壁から出てくるカブトムシとクワガタを倒してくれ」

「BROTHER、ソイツハ無理ナ話ダ。ワタシノ筋肉言語デ会話シテミヨウ」

「は?」


マッチョは両腕を下ろし、フロントラットスプレッドして、胸筋をぴくぴくさせていた。そこにもぞもぞと這い出てきたカブトムシがマッチョへ突撃してきた。


「あぶね!」


俺は声を上げたがマッチョの身体に角が当たろうとした瞬間、ムキムキボディにぬられたオイルでつるんとすべって再び茨の壁に突っ込んだ。


「「っは?」」


俺とルバスはその光景に呆けた。マッチョは腹のあたりで両手を組んでサイドチェストしながら反応する。


「BROTHER、フム・・・ワタシ達ノ筋肉言語デ森へ返セソウダ」

「っは、森へ返す?壁に刺さり返っているだけようだが?」

「いや・・・私・・・達?!」


俺とルバスはマッチョの周囲をよく見ると魔法円が消えていなかった。

くるりと半身を返してバックダブルバイセップスしながら体をずらすと新たに像を結び、バックダブルバイセップスしながら現界した。


「「ふ、増えた!?」」


俺とルバスが驚いている間にももぞもぞと出てきたカブトムシとクワガタが突っ込んでくるがヌラテカボディに滑り、空中Uターンで茨の壁に返る。

茨の壁からもぞもぞと出てくるカブトムシとクワガタが増えてきた。

同時にバックラットスプレッド、サイドトライセップスしながらマッチョも増えていく。


「OOu、MY、SOUL BROTHER、ワタシがアニキ~キンニクナイオトウトタスケル、サァモリヘカエルノダ~」


何かマッチョが言い出した。ア・・・アニキ?オトウト?


「アニキ、マッスル。キンニク、マッスル。アニキ、マッスル。キンニク、マッスル。アニキ、マッスル。キンニク、マッスル。アニキ、マッスル。キンニク、マッスル。アニキ、マッスル。キンニク、マッスル・・・・・・・・・」


妙な事を言いながらアニキは増殖していく。

アニキ達の筋肉に阻まれカブトムシとクワガタは跳ね返っていく。

それを繰り返していくうちに茨の壁は崩れていった。

アニキ達の筋肉の壁に跳ね返されたカブトムシとクワガタはUターンを繰り返していたが、そのうち疲れてきたのかポトリポトリと地面に落ちていった。

落ちたカブトムシとクワガタはなにか憑き物が落ちたように森へ帰っていった。


俺達はその間・・・

増殖したマッチョに挟まれていた?!

ムサクル・・・アツクル・・・!?


「ルバスーーーなんとか・・・」

「大樹!と、止めろーーー!?」

「・・・、・・・!?」


俺達はキンニクに溺れていた?!


「OOu、MY、SOUL BROTHER、彼ラハ森ヘトカエッタヨ。モットプロティンノンデ、キンニクツケル。ジャカエルYo]


と言うと光の粒となって消えていった。

その場に残された俺たちの手には白い液体が入ったジョッキを持たされていた。

野外コンサート場の方からはありがとーーーという最後の締めの声と歓声が聞こえてきた。コンサートは無事終わったようだった。

俺はホッと一息吐くと顔面をガシッと捕まれ、持ち上げられた。

俺の顔を掴んだ手の指の間からマリナのすさんだ目が見えた。


「あれはダメ。あれはダメ。あれはダメ。あれはダメ。あれはダメ。あれはダメ。」

「あだだだだだ!!!」


マリナはブツブツと言いながらこめかみに力を込め、俺の頭に痛みが走った。


「わ、悪かった!?ご、ごめん!?」

「大樹、あれは禁術指定だ!二度と使うな!」

「いだだだーーー!ごめーーーーん」


ルバスからは後頭部にアイアンクローを喰らわせられていた。

俺は二人に謝りに謝って許してもらった・・・

アイドル近くから見ることが出来る良い任務かと思ったのに自分の未熟さに泣いた春先だった・・・

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