いざ、本屋さんへ!
雲母あお
第1話 ラノベ、買う
「新刊出ているかな。」
いつも駅前の本屋さんに立ち寄る。
本屋に行くと、いつも新しい出会いがある。ずらっと並んだ本の背表紙を見て、これから出会う物語を想像してほっこりする。最近では、〜大賞などいろんな人が読んでおすすめの本が、入り口近くに展示されていて、何を読んだらいいかわからなくても、興味の引く本を選びやすくなっている。本から遠ざかっている方も、是非本屋さんに立ち寄ってみて欲しいと思う。中を歩くだけで、色々な情報が得られると思う。雑誌もたくさんの種類があって、選ぶのが困難で買えずにいるけど、今度こそ買ってみたいと思っている。
それから、
「……」
いつもの本棚の前へゆっくり足を進める。
ライトノベルという分野が人気で、新刊が毎日のように出版されている。
特にラノベ本の表紙が、キラキラきゅんきゅん可愛いくて、イケメン揃いで、カラフルで綺麗だ。
うう、手に取りたい!
でも、私はお世辞にも若いとは言えない年齢。もともと気弱で、周りの目がとても気になってしまうのだ。そんな性格だからということもあり、手に取るのは少し、いやとてもハードルが高いように思えた。
そして、ラノベのコーナーが見たいのに立ち止まれなくて、本を探していて間違えて入った風を装って、ゆっくり歩きながら平置きされたラノベの表紙を堪能している日々だった。
そして、ずっと
“こんなおばさんが?“
そう思われるのではないかと、レジに持っていきづらい、という悩みを抱えている。
でも、仕事のためにタブレットを購入して、隙間時間にネット小説を読むようになってから、気持ちが少しずつ変わってきた。なんと、一年以上読んできたお気に入りの小説が書籍化されるというのだ。
応援したい。本になって加筆修正がされた場所見つけて、「うふふ、ここネットと違う」とか言ってみたい。それから、なんと言っても、挿絵が楽しみなのである。作者がイメージするキャラクターが可視化されるのだ。
「ああ、楽しみ!あと3日!」
リビングのテーブルに向かうと、これからラノベを手に入れるために念入りに練った計画書を見つめるのだった。
本日発売日。
待ちに待った本屋に並ぶ日。
ドキドキしながら俯いて、計画通り、帽子を被り、マスクをして、年齢が分からないように若作りのカバンを持って、まず、駅のトイレに向かった。トイレの鏡で、見た目に抜かりはないか入念にチェックした。
「よし、いざ、本屋さんへ!」
いつもの駅前の本屋に足を踏み入れる。ドキドキが止まらない。そして、いつも素通りしてきたラノベコーナーで、初めて足を止めた。
うわぁ、この列キラキラしている。
「どこだろう?」
お目当ての本を探す。それは割と簡単に見つかった。
「平置きされている。ああ、本屋さんありがとう!!」
さっと、一番上から一冊取り上げると、ドキドキして一度足がすくんでしまった。これをレジまで運べばいい。運ぶだけ。頑張れ私。客足が少ない時間を選んでやって来たのではないか。周りを見るとお客は誰もいない。そう、誰も見てない。今がチャンスだ。自分を奮い立たせ、まっすぐレジへ足を進める。とうとうレジについた。
「これください。」
や、やだ。声が裏返ってしまった。恥ずかしい。ますますうつむいてしまった。
それでも、頑張って発売されたばかりのお目当てのライトノベルをレジにそっと丁寧に置いた。
「いらっしゃいませ。」
レジにいたのは、いつもこの本屋にくると見かける店員さんだった。思わず「こんばんは」と言いそうになって口をつぐんだ。店員さんはというと、おそらく挙動不審に見えるだろう私の行動を気にする様子もなく、この間資格試験のテキストを買ったときと同じ様子で、会計をしてくれた。
「ありがとうございました。」
レシートと本を受け取る。
誰にも特に何を言われるわけでもなく、変な視線を浴びることもなく(たぶん…)無事に購入できた。
少し拍子抜けして、少し嬉しかった。あの店員さんは、私がいつも来ているおばさんだと気づいているかもしれない。それでもいつも通りに接してくれた。今日だけこんな格好してきたことが少し恥ずかしく思えた。店員さんのおかげで、次からは堂々と買ってみようかなと思えてきたことが、不思議だった。
そのまま本屋をでる。
私の手の中には、読みたかったあのラノベがあるのだ。
ワクワクした。
心の中で「うわぁ」っと何かが弾けた!
とうとうやったわ!私、ラノベ買ったよ!
ぎゅっと抱きしめて、そのまままっすぐ家へと向かった。早足になりながら…。
カチャカチャ、バタン。ガチャ。
玄関の鍵をあげ、ドアを開けると、鍵を閉め、バタバタとリビングへ。
今買ったばかりのラノベを、テーブルの上にそっと置く。
「ようこそ我が家へ。」
思わず本に語りかけていた。
この日のために『ラノベゲット計画』を立てたのだ。
さあ、計画通り、まずはご飯食べてお風呂に入って、それからお気に入りの紅茶を入れて、ゆっくりリビングの椅子に座るんだ。
「よし!」
この日のために計画を立てていた行動へ、速やかに移る。
全てをやり遂げ、リビングの椅子に座った。
目の前には、どうしても読みたかったラノベ。初版本。
そっと手に取り、ページを捲ると、ふわっと新しい紙の匂いが鼻をくすぐる。
「ああ、これぞ新刊の香り。」
勇気を出して良かった。幸せを噛み締める。
その日は、夜が更けるまでラノベの世界にのめりこんだのだった。
いざ、本屋さんへ! 雲母あお @unmoao
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