第24話 映画を見終わった後の感想会
「めっちゃ泣いた……」
映画が終わった後、目を赤く腫らした陽子が『アベンジャー・リーグ』のパンフレットを握りしめながら感想を漏らした。
「一番乗り気じゃなかったやつが、一番のめり込んだな」
「だね」
俺はテーブルの上にあるフライドポテトを一つまみし、同意する那由多さんは両手で抱えたドリンクとチューチューと吸っていた。
俺たちは映画館フロアの下の階にあるフードコートに来ていた。ラーメン屋やファーストフード店のような安くて早いを売りにしている店が立ち並ぶ、お財布が寂しい学生にとって、外食となれば定番になる場所。
映画を見る前は何を食べようかと楽し気に話し合ったが、なんだかんだと映画を見終わると気分が完全にファーストフードの気分になってしまった。昔、ファミレスやファーストフード店でジャンキーな物を食べながらワイワイと映画の感想を友達と言い合った記憶が思い起こされてしまったのだ。
陽子も同じ気分だったようで、ノリノリで先頭を歩き、フードコートに入った。
「舐めてたわ……ヒーローもの……主人公たちが宇宙人に勝てなくて絶望したとき、他のヒーローが全員で助けに来てくれるのめっちゃ熱かった……」
「メチャクチャヒーローいたな……」
ヒーローだけで50人以上はいた。
敵の宇宙人たち大軍勢だったのだが、ヒーローの他にも人間の軍隊とかもいて、ほとんど数に差はなく、大軍と大軍が衝突する戦記物のようになっていた。
「ヒーロー多すぎだろ。昔の奴しか見てなかったけど……めっちゃ増えてた……」
「そこが熱いんじゃん。今回で……えっと……1、2、3、4……シリーズだけ数えると20作以上あるね。今回のような全員集合ものもあれば、一人のヒーローを主役にした単発もの……全部話繋がってるんだねぇ……」
パンフレットのシリーズ作品一覧を陽子が指でなぞりながら目を丸くしている。
「20作? そんなにあって……それ全部繋がってんの?」
「そう言った」
「そんなん全部追ったら何十時間かかるんだよ……1作2時間として、
俺はそのシリーズの作品はいくつか見ているが、テレビで放送されたかなり話題になったものしか見ていない。そんなに作品数が多いなんて知らなかったし、それが全部繋がっているというのも知らなかった。てっきり一部の作品だけ繋がりがあるものだと思い込んでいた。
「……案外、見始めたら一瞬だよ」
ぼそりと、那由多さんが呟いた。
「え? 那由多さん、全部見てんの?」
「———え⁉」
那由多さんはハッとし、突然慌てだした。
「え、あ、そ、その……弟! 弟がそういうの好きで……ちらっと視界に入った程度だよぉ~……」
「……そうなんだ」
明らかに嘘だ。
陽子と顔を見合わせる。彼女も気づいたようで肩をすくめていた。
別に隠すことでもないだろうに。
なんだか不思議に思ったが、深く追求してこれ以上彼女を動揺させたくなかったので、
「じゃあ、今度一緒にDVD借りて鑑賞会してみようか。那由多さん」
そう誘ってみる。
自宅に引きこもって、休みの時間を潰してひたすら映画を見まくるのも悪くないのかもしれない。
「え⁉ い、いいよ……別に……」
あれ?
那由多さんは照れた様子で顔を赤くしながら、俺の誘いを断った。
てっきり、ニコッと笑って同意すると思ったのに、なんだか俯いてもじもじとしている。
喜んでいる様子では……ある。だけど、彼女の通常のリアクションだったら、断るにしても、もっと飄々としたリアクションで断ると思っていたが……やっぱりこのヒーロー映画の話題に関しては踏み込んじゃいけないところだったんだろうか……。
「センス
横から、陽子が呆れたように言ってくる。
「あ?」
その言い草にカチンとくる。
「センスが無いって、お前も感動した映画の前作を見ようって、誘っただけなんだが? それの
休日自宅デートとしてはかなり普通だと思うが……。
だが、陽子はいかにも自分がマウントを取っているようなムカつく笑みを浮かべ、
「今時DVD? ———サブスクで良くない?」
と、言った。
「……確かに」
ハッとする。
確かに今の時代は、どこかのサブスクに入った方が月千円ぐらいで済むし、わざわざ借りに行く手間もなくなる。
「だけど、『アベンジャー・リーグ』のシリーズ作品が都合よく全部見れるサブスクもないだろ?」
「あ、それなら……、」
那由多さんが口を開いたので、俺と陽子は彼女を見る。
すると彼女は、まさか注目を集めるとは思っていなかったようにぱちくりとまばたきをして、
「……なんでもない」
顔を赤くして、伏せた。
やっぱり……なんだか様子がおかしいなぁ……。
「……まぁ、全部見れるサブスクなら、あるよ」
那由多さんの様子は置いておいてと、陽子がパンフレットの最後のページをめくりトントンと指さす。
「シリーズ制作会社のデゼニーが運営しているデゼニー
『月額千円で映画見放題!』と書かれた広告を指さしている陽子は、ムカつくどや顔をしていた。
「いや、お前誰? デゼニーの回し者?」
「フッフッフ……」
「わろてますけれども」
陽子がどや顔を崩すことはなかった。
つーかなんだかんだで一番コイツがアメコミヒーローものにドハマりしてんじゃねぇか……。
その後も、俺達は『アベンジャー・リーグ』の話題で盛り上がった。
休日の俺たちのような若者が多く、ギャハギャハと騒がしかったが、それに負けないぐらい、俺たち三人の会話は盛り上がった……と思う。
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